あの時のあなたは・・こんな気持ちだったのですか?
私は貴女を利用しました。
小さな頃から、貴女の血を吸い続けました。
もう必要がない。
要らない。
そう言いながら・・吸い続けました。
もう貴女はふらふらで・・それでも私は吸い続けました。
貴女のお陰ではないと言いながら。
恩着せがましいと言いながら。
時には裏切り、時には傷つけ、それでも吸い続けました。
音を立て、遠慮なく、たくましく、図太く、凛々しく、清々しく、残酷に吸い続ける私に・・貴女はまだまだ吸いなさいと。
まだまだ吸って良いよと言いました。
私はそれが当たり前で。
それが当たり前だと思い、暴言を吐きました。
当たり前だ。
もっと寄越せ。
何でこれっぽちしか出ないんだ。
もっと寄越せ。
偉そうにするな。
もっと寄越せ。
そんな私に貴女は笑って・・笑いながら・・良いよ、良いよと・・言うばかりで・・。
私は・・疑いもせず、否定もせず、ただ・・足りないと言うばかりで・・。
暑い日も。
寒い日も。
風が強い日も。
雨が・・吹き付ける日も。
雪が・・綺麗じゃない日も。
月が綺麗な日も。
曇りの日も。
嫌な事があった日も。
楽しい日も。
春の陽気日も。
じめじめした日も。
疲れた日も。
温もりに飢えた日も。
寝不足な日も。
貴女は。
貴女は毎日私に血をくれていましたよね。
貴女は・・毎日・・せがむ私に・・血をくれましたよね。
あの頃の私をどうか・・。
どうか許してください。
私は子供だったのです。
どうか・・どうか・・どうか・・どうか・・どうか・・どうか・・許して・・許してください。
今日、私は親になりました。
貴女はもう居ない。
見せられない。
過労で亡くなった貴女を恨んだ・・愚かな私を・・どうか許してください。
この子を見せたかった。
貴女に見せたかった。
貴女はもう居ない。
どんなに願っても。
どんなに悔いても。
貴女はもう居ない。
貴女はこんな気持ちだったのですね。
どんな事をしてもこの子だけはと・・こんな気持ちだったのですね。
言えませんよね。
大きすぎて・・言えませんよね。
言葉で言えないから・・貴女は言わなかったのですね。
貴女の気持ちが・・今頃・・今頃解った私を・・愚かな私を・・どうか・・どうか許してください。
子供だったのです。
愚かだったのです。
無邪気だったのです。
貴女の深い愛情も知らずに・・私はのうのうと暮らしておりました。
貴女の気遣いなど・・知ったような気でいました。
とんでもありませんでした。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
貴女が私にくださったこの血をー・・。
今度は私がこの子に分けるんですね。
貴女が死んだ時。
私は・・表面では泣き崩れ・・貴女の名前を叫び、嗚咽し、声を枯らしました。
しかしー・・心の何処かで・・介護が必要無くなった、死亡保険が入る、等などの感情と・・死者に何て事をという感情が・・渦を巻いておりました。
利用出来なくなったと思いました。
あの時の私はー・・病気でした。
愚かさもあそこまで行けば病気です。
今は、はっきりと解ります。
貴女の最期の・・気持ち以外は・・。
後悔しましたでしょうか?
私を・・愚かな私を・・育てた事を。
あの時ー・・。
あの時、酷い言葉を放ち、家を出た私が帰った時・・貴女は笑ってご飯を作っていてくれていてー・・。
私には、それが・・当たり前でー・・。
当たり前にむしゃむしゃと、むしゃむしゃと。
本当に図太く・・意地汚く。
そんな私を・・貴女は・・。
貴女は優しく微笑みながら笑って・・・・何で・・どうしてそこまで?どうしてそこまで汚い私を愛せたのですか?疲れて、職場で倒れるまでー・・どうして?どうしてなのですか?・・私もこの子に・・この子に同じ様に出来るのでしょうか?
いいえ・・しなければならないのでしょうね。
それが私の・・罪滅ぼしですよね。
今この子は私のお乳を吸っています。
このお乳がやがてー・・私の血に変わり、この子がソレを遠慮なく吸っても。
私はにこにこ笑って・・まだまだお上がりとー・・。
貴女が・・私にしてくださった、示してくださった、その深い愛情をこの子にも示してあげられたなら。
許してくれますか?
頑張ります。
決心します。
貴女のように強く育ててみせます、だからー・・だからどうか・・どうか・・貴女の元へー・・。
死後天国の、貴女の元へ・・謝りに行きたいのです。
どうか・・。
どうか。
最期の貴女の気持ちをー・・逝く瞬間の貴女の気持ちをー・・私は聞き届けたいのです。
怖いです。
恨まれて当然だと心から思います。
受け止めます。
どんな恨みの言葉でも受け止めますからー・・。
謝りに行きたいのです。
最期の貴女の気持ちを聞きたいのです。
愚かだった・・病気だった過去の私をー・・どうか・・許してください。
この子の子を・・見届けてから参ります。
全てを捧げ尽くし、干からびて死ぬ事を約束します。
だからー・・待っていて。
待っていて。
待っていて。
〈END〉




