表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

7.星天の宮

 暗闇(くらやみ)の中をぐるぐると光の階段(かいだん)がのびています。その階段(かいだん)を2人と一匹が()け上がっていきます。


 はあはあと息をあらげるエリザベスが とうとうすわりこんでしまいました。見上げると、まだまだ階段(かいだん)がありそうです。

「ご、ごめん。ちょっと休ませて。」

というエリザベスの前にアーサーが背中を向けてしゃがみます。

「お兄ちゃん?」「いいから。乗れ。」「うん。」

 エリザベスを背負(せお)ったアーサーが階段(かいだん)をのぼり始めます。しかし、スピードはおそくなりました。それも当然です。2人分の重さを背負(せお)っているのですから。

 キツネのチャールズが2人を見上げました。

「チャールズ?」

とアーサーが問いかけます。


「次は私の番だ。2人とも……、最後まであきらめてはいけないよ。ぜったいに。」

「え?」

と2人が声をかける間もなく、チャールズは階段(かいだん)をおりていきます。

「行くんだ、(つむ)ぎ手よ! 君の物語をつづるんだ!」


 アーサーはぐっとこらえるように(くちびる)をかみしめて、階段(かいだん)をのぼりつづけました。


――――

 光の階段(かいだん)途中(とちゅう)で、(うつ)ろの王がキツネのチャールズと向き合っています。


「……お前も(つむ)ぎ手だな?」

 (しず)かに(うつ)ろの王が問いかけます。チャールズは、

「その通りだ。(うつ)ろの王よ。」

「お前が物語を書くべきではないのか?」

 チャールズは首を横にふって、()()れと笑いかけました。


「私の時代はとうに()ぎ去っている。……それに心配はいらぬよ。私のペンを受け()いだアーサーが、そして、エリザベスがきっとこの物語を(つむ)いでくれるだろう。」


 (うつ)ろの王はうなづくと、右手をキツネのチャールズにかかげました。

「そうか。……ならばお前も石となり(ねむ)るがいい。」

 チャールズは(だま)って笑った顔のままで石になっていきました。

 (うつ)ろの王は、チャールズの石像の横を通りぬけ、ふたたび2人を追いかけ始めました。


――――

 とうとう階段(かいだん)を登り切り、そのままアーサーとエリザベスは ゆかに たおれこみました。

 2人は息を整えながら周りを見回します。


 そこは少し広めの洋風のあずまや(ガゼボ)でした。

 周りには満天の星空と銀河(ぎんが)が広がっています。


 はなれたところに1台のつくえが置いてあり、その上の書見台(しょけんだい)にどこか見覚えのあるノートが置いてあります。

 エリザベスはそのノートを見下ろして、

「これは……お兄ちゃんのノートだね。」

とつぶやきました。アーサーは予想がついていたのか、おどろく様子もなくだまってうなづきます。

 ノートの一番はじめにはアーサーの文字で『季節(めぐ)る国の童話』と書いてありました。

 アーサーはノートを手に取り、ページを()っていきます。


 その時、とうとう(うつ)ろの王も階段(かいだん)を登り切って星天(せいてん)(みや)へとやってきました。

 エリザベスが(こわ)がってアーサーの後ろへとかくれます。アーサーはノートを手に持ちながら、キッと(うつ)ろの王をにらんでいます。


 2人の手前で(うつ)ろの王は立ち止まり、

(つむ)ぎ手のアーサーとエリザベス。よくぞここまでたどり着いたな。」

と話しかけました。そして、ノートを指さして、

「さあ、最後の言葉を書くがいい。……だが心せよ。言葉をまちがえれば、その瞬間(しゅんかん)に私がお前たちを石にする。」

と告げました。

 アーサーは緊張(きんちょう)しながら物語の最後の部分を開きます。

 ノートに書かれた物語は、星天(せいてん)(みや)に来た2人が(うつ)ろの王と対面しているところで止まっています。


 そして、一番最後には、


 ――その時、アーサーとエリザベスは願った。「       」と。


と書かれていました。


 アーサーにはわかりました。この空白に言葉を書き入れなければならないのです。

 しかし、何の言葉をここに書き入れるべきなのでしょうか。


 (うつ)ろの王が語りかけます。

「アーサーよ。そなたは知っているか? (ゆめ)(やぶ)れた人々の後悔(こうかい)を。余計(よけい)な期待をしたばかりにダメだった時のなげきを。……人々には(ゆめ)希望(きぼう)などは必要ないのだ。」


 その時、アーサーの耳には色々な人々の声が聞こえてきました。


 ――ああ、いくら努力しても才能(さいのう)のあるやつには勝てないんだ。

 ――くそっ。なぜ上手くいかないんだ。あれだけがんばったのに。

 ――なぜなの? なんで、私は……。

 ――あの時、ああしておけばっ。

 ――ここが自分の限界(げんかい)なのか。

  

――(ゆめ)なんて持ったばかりに。

 ――希望(きぼう)なんていだいたばかりに。


 アーサーは思わず耳を()さえて頭を横にふります。

「わかっているんだ。(ぼく)だって。(ゆめ)ばかり抱いてはダメだって。現実(げんじつ)はもっと(きび)しいんだって。」


 (うつ)ろの王はうなづきました。

「そのとおりだ。いくら努力してもどうにもならぬことが現実(げんじつ)には多すぎる。どうせ(なげ)くことになるのなら、最初から(ゆめ)希望(きぼう)など無い方がよい。『季節(めぐ)る国』など無くなるべきなのだ。」


 アーサーはふるえる手でペンを取りました。

 その手をエリザベスがくいっと引っぱります。


 アーサーがエリザベスを見ると、エリザベスはニッコリ笑って、

「でもね。私。お兄ちゃんの書く物語が好きだよ。(ゆめ)希望(きぼう)があるお話が。」

 その時、アーサーのふるえがすっと止まりました。「……エリザベス。」


 アーサーの目に力がこもります。そして、(うつ)ろの王に、

「今、わかった。お前は(ぼく)の心から生まれたんだね。……悪口(わるくち)(きず)つけられ、(つむ)ぎ出す言葉をなくしそうになっていた(ぼく)の心から。だから、君は(ぼく)だ。だから、(ぼく)はこの言葉を君のためにつづる!」


 ――その時、2人は願った。「 (うつ)ろの王に(ゆめ)希望(きぼう)を! 」と。


 その途端(とたん)(うつ)ろの王の(よろい)の内側からまばゆい光があふれ出しました。

 どんどん強くなる光が2人も包みこみます。


 2人の耳に色々な人々の声が聞こえてきました。


 ――でも、努力している俺が好きだって言ってくれた。

 ――これは上手くいかなかったけれど、別のところでその経験(けいけん)がいかされた。

 ――なやんで、なげいて、苦しんでいるのは私だけじゃなかった。

 ――今度はこうしてみよう。

 ――いつも がんばれって応援(おうえん)してくれる人がいるんだ。

 ――だから。


(ゆめ)希望(きぼう)はあきらめない!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ