6.石になった冬の女王
すでに森も川も、そこに住む動物たちも石になっています。
生き物の気配が消え、そこにはただ静寂がただよっています。その中をアーサーたちが走りぬけていきます。
石の森をから飛び出ると、目の前に人間の軍隊に囲まれた美しい白い塔の姿が見えて来ました。
キツネのチャールズが、
「あれが季節廻る塔だ。」
と大きな声で言います。
アーサーたちが走って行くと、人間の軍隊が驚きながらも、その行く手をさえぎりました。
騎士たちの中でも立派な鎧を着た男性が立ちはだかり、
「お前たちは何ものだ。一体何のようで塔に向かっている?」
と強い口調でたずねました。
アーサーは緊張しているエリザベスに、「心配ないよ」と安心させてから、
「僕はアーサー、こっちは妹のエリザベスだ。……秋の女王の指示で季節廻る塔に向かっている。」
その言葉を聞いた騎士たちに緊張が走り、剣をアーサーたちに突きつけます。
しかし、一番立派な騎士がその剣を下げさせます。
「私はウィリアムだ。……君たちはもしかして『紡ぎ手』か?」
ウィリアムと名乗った騎士に、アーサーはうなづきます。そして、内ポケットから父チャールズのペンを取り出して騎士にかざして見せました。
ウィリアムをそれを見るとうなづいて、
「その者たちを通せ。」
と命令しました。将軍だったのでしょうか。周りの騎士たちは言われたとおりに道を開けました。
ウィリアムは先を歩いて、アーサーたちを塔まで案内してくれるようです。
騎士たちは今にも戦になるかのように緊張しながら、鎧に身を包んでいます。
ウィリアムがふり返り、
「すまんな。もうすぐで虚ろの王がここに来る。おれたちは戦わねばならないのだ。」
と言いました。アーサーは、
「勝てるのですか?」
とききかえしましたが、ウィリアムは首をふります。
「いいや。勝てないな。……ただ希望はある。」
そういってアーサーとエリザベスを見つめます。
「君たちだ。……おれたちが時間をかせぐ。だから君たちは君たちの成すべきことをするんだ。女王たちからの指示のとおりにやり通してくれ。」
ほほえむウィリアムは季節廻る塔の扉を開くと、アーサーたちが入っていくのを見守ります。
右手をあげて、「たのんだぞ。『紡ぎ手』たちよ」と言い、扉をしめてくれました。
塔の中は白一色でどこかひんやりとした空気がただよっています。
キツネのチャールズが言いました。
「今のが人間の王ウィリアムだ。……さあ、行こう。時間は待ってはくれないよ。」
2人はセディナのせなかで驚きました。たしかにほかの騎士をしたがえ、立派な鎧をしていましたが、まさか王さまだったとは思いもしなかったのです。
セディナが階段をのぼり、2階の広間へと入っていきます。奥に見えるテラスの手前に一人の女性の石像がありました。
ティアラを乗せた冬の女王です。
その手前でセディナからおりた2人は、おずおずと冬の女王の近くまで行きました。
そして、その顔を見た時、2人はとても驚きました。
「お、お母さん?」
そう。冬の女王の顔は2人の母ヴァージニアにそっくりだったのです。2人がいくら呼びかけても、石になった女王は沈黙したままです。
目の前に石像になってしまった母そっくりの女王がいる。それなのに言葉はとどかない。そのことにどうしようもなく2人の胸が悲しみに痛みました。
しかし、いつまでも悲しんでいる時間はありません。テラスから見える外の景色は、どんどん暗くなっていき、まるで夜のようになっていました。
アーサーはエリザベスの肩を ぽんぽんとたたきます。
「エリザベス。指輪をさがそう。」
2人は冬の女王の指を見ましたが、そこに指輪はありません。近くのテーブルにも、どこにも指輪が見当たりませんでした。
エリザベスは、
「ない! ない! ないわ! どうしよう?」
とあせっています。アーサーもゆかに落ちていないか さがしていましたが見つかりません。
その時、外で騎士たちが何かと戦っている音が聞こえてきました。「おお!」というたくましい声、そして、鎧や剣がぶつかる音。……しかし、それらの音はすぐに静かになっていきます。
2人はあわててテラスに出て下をのぞきこむと、今まさにウィリアム王とまがまがしい雰囲気をただよわせる黒い鎧の男が対面しているところでした。きっとあれが虚ろの王なのでしょう。
ウィリアム王が剣をぬき放ち、虚ろの王に突きつけます。
「虚ろの王よ。しばらく付き合ってもらうぞ。」
虚ろの王も腰から黒い剣をぬき放ちました。
その時です。エリザベスの首から提げているネックレスが光りはじめました。そのペンダントトップには母の形見の指輪がありました。
その光を見て、エリザベスは驚きながら、
「もしかして、これが……」とつぶやきました。
春の女王、夏の女王、秋の女王からわたされた指輪も光り輝き始めました。
すべての光がエリザベスの胸元に集まりました。そして、その光は らせん階段となって、テラスから空高くのびていきます。
光の階段に見とれていた2人でしたが、キツネのチャールズが、
「2人とも行くぞ。」
と声をかけ、テラスから光の階段を駆け上がっていきます。アーサーはエリザベスの手をとってチャールズを追いかけて、光の階段へふみ出しました。
――――
アーサーがふと下を見ると、剣をかかげたウィリアム王が石になってたたずんでいるのが見えました。そして、そのそばで黒い虚ろの王が2人を見上げています。
――目が合った。
その瞬間、アーサーのせなかが ぞぞっと寒くなりました。漆黒の王は季節廻る塔へと近づいていきます。
キツネのチャールズが、「とにかく急ぐんだ。この『時のらせん階段』をぬけて星天の宮へ行かねばならない」と叫びました。