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3.春の女王の城館

 小道を歩いて行くと、寒さが少しずつやわらいで温かくなってきました。地面にはタンポポや菜の花が明るい黄色い花を()かせています。


 アーサーと手をつないでいたエリザベスが、

「なんだかウキウキしてきちゃった。あ、見てウサギもいるよ。」

と草むらを指さします。先を行くキツネがふり返って、

「春の女王の城館(じょうかん)に近づいたからね。見てごらん。梅もさくらも(もも)も咲いているよ。」

と言いました。


 道の先には、木々にはうすいピンクの花が満開になっています。木と木の間を鳥やリスが飛びかっていて、その下にも多くの動物たちがのんびりと()ごしていました。

 その中を通りぬける小径(こみち)をキツネと2人が進んでいきます。アーサーもエリザベスもいつの間にかほほえんでいました。

 やがて木々の枝のすき間からこぢんまりした城館(じょうかん)が見えてきました。


 ところがキツネがとつぜん立ち止まりました。

「どうしたの?」

とエリザベスが声をかけますが、キツネはじいっとお(しろ)の方を見ています。2人もそれにつられて目をこらしながら城館(じょうかん)を見ましたが、特におかしなところはありません。


 キツネが「急いだ方がよさそうだ」と言い、川ぞいの小道を早足で進みはじめました。あわてて2人もそれについて行きます。

 途中(とちゅう)で息をあらげはじめたエリザベスでしたが、がんばってキツネについて行き、とうとう城館(じょうかん)にたどり着きました。

 大きく立派(りっぱ)(とびら)には、花咲く木々や動物たちが()()りにされています。


「きれいなお(しろ)だなぁ。」

 アーサーがそう言った時でした。城館(じょうかん)(とびら)がギイィィーと開いて、中からあわてた様子の女性(じょせい)がすがたを見せたのです。

 その女性(じょせい)は、頭に小さなティアラをした春の女王でした。女王は、2人とキツネを見ると、自分の指輪(ゆびわ)をエリザベスに投げわたし、

「急いで夏の女王の下へ! すぐに立ち去りなさい!」

と大きな声を上げました。


 アーサーが「え? どういう……」と言いかけたとき、春の女王はだれかに()ばれたかのようにさっと後ろを向き、

「急いで!」

とふり返らずに言うと、(うし)()(とびら)を閉めました。


 その時、とつぜん、周りがうす暗くなります。キツネは緊張(きんちょう)した声で、

「その指輪(ゆびわ)をなくすんじゃないぞ! 2人ともこっちへ急いで!」

とあわてて手前の川べりに走って行きます。

 エリザベスは春の女王の指輪(ゆびわ)を手ににぎり、

「一体何なの?」と言いながら、どこかおびえています。アーサーがむずかしい顔をしながら、エリザベスの手を引き、

「こっちだ!」とキツネを追いかけて城館(じょうかん)からはなれました。

 2人がはなれるとすぐに、城館(じょうかん)(とびら)のすきまから黒い(きり)がプシューとふき出てきました。


 ふり返ってそれを見たキツネが、2人に、

「走って! そこの小舟(こぶね)に飛び乗るんだ!」

と言います。2人とも何が何だかわかりませんでしたが、言われたとおりに川に止まっている小舟(こぶね)に乗り込みます。

 キツネがさん(ばし)(くい)にかけられていたロープを口にくわえて小舟(こぶね)に飛び乗ると、小舟(こぶね)はスウーッと川の流れにのって動き始めました。


 2人が小舟(こぶね)の中から城館(じょうかん)をふり返ると、すっかりと(きり)に包まれて不気味な雰囲気(ふんいき)になっています。周りの満開だった木々も白くなっていき、まるで黒い(きり)と白い木だけの白黒の世界になったようでした。一体何が起きているんだろう。2人にはさっぱりわかりません。


 そして、黒い(きり)が少しずつ城館(じょうかん)の周りの森へと広がっていっているようです。

 その光景を見た瞬間(しゅんかん)、とエリザベスは得体の知れない恐怖(きょうふ)を感じて体を小さくさせました。そのエリザベスを包みこむようにアーサーがぎゅっと()きしめていました。

 2人と一匹をのせた小舟(こぶね)は、(きり)から逃げるように、どんどんと下流の方へ流れていきました。


――――

 春の女王は、城館(じょうかん)の広間で黒い(よろい)を着た男と向かい合っています。男は顔をかくす(かぶと)をしていて、その顔は見えませんでした。


「冬の女王はもう石にされてしまったのですね?」

 男はうなづきました。

「そうだ。……安心するがいい。この世界がほろびるわけではない。ただ(ねむ)るのだ。」

 女王は(かな)しげな表情(ひょうじょう)で男を見ました。室内に黒い(きり)が立ちこめていきます。

(うつ)ろの王よ。そなたがここにいること。それ自体が私は(かな)しいのです……。」


 女王は足元から少しずつ石になっていきます。まるでお(いの)りをするように両手を(むね)の前でにぎり合わせる女王。首まで石になった時、「人々に(ゆめ)を――」とつぶやいて、とうとう春の女王は石の(ぞう)になってしまいました。


 (うつ)ろの王と()ばれた男はしばらく石像を見つめていましたが、やがてマントをひるがえしました。

 そして、「――次は夏の女王だ」と言い、(きり)の中に消えていきました。


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