2.季節廻る国
アーサーがふと気がつくと、2人はさっきまでの公園とはちがう、どこかの林にあるベンチにすわっていました。エリザベスが頭をアーサーの肩にもたれかけながら眠っています。
アーサーがあわてて、
「エリザベス。起きて。こんなところで寝ちゃったら風邪をひいちゃうよ。」
とエリザベスの肩を揺すります。
エリザベスが「ううん」と言いながらそっと目を開けました。
ほっとしたアーサーでしたが、エリザベスがきょろきょろと周りを見回して、
「ここってどこ?」
とアーサーにたずねます。アーサーは首を横にふって、「わからない」と言いました。
だれかに場所を教えてもらわないと、2人は家に帰ることができません。
自分たちのほかに だれかいないかと、ふたたび見回した時、頭の上から不思議な会話が聞こえてきました。
「おいおい。聞いたか?」
「冬の女王の話か?」
2人がそうっと見上げると、そこには1羽の鳥と話をしているリスのすがたがありました。
エリザベスが驚いて、「ええ?」と声を上げそうになるのを、アーサーが口を押さえます。
幸いに鳥とリスは気がつかなかったみたいで、会話を続けています。アーサーを見つめるエリザベスに、アーサーは人差し指を口に当ててシッのポーズをとりました。エリザベスはこくんとうなづいて、2人は会話に耳をすませます。
リスが鳥に、「そうだよ塔から出てこないんだって?」とたずねます。
「ああ。本当みたいだよ。」
「それじゃあ……。」
「冬が終わらないってことだな。」
「こまったなぁ。うちはもう7日分しか食料の蓄えがないよ。」
「どこもそうみたいだな。人間の王さまも動き出したみたいだ。」
鳥の言葉にリスは顔を上げました。
「人間の王さま?」
「ああ、なんでも冬の女王から春の女王へと交たいさせた者には褒美を出そうってさ。」
「へぇ。上手くいくと良いねぇ。」
「ああ。上手くいくと良いねぇ。」
そういった鳥はそっと飛びたちました。それを見送ったリスも えだを伝ってどこかへ行ってしまいました。
エリザベスがおそるおそる。
「動物がしゃべってたよ。わたしたち一体……。」
とアーサーにたずねました。アーサーは首を横にふって、
「僕も驚いたよ。……でもここはもしかしたら。」
と言いかけたときでした。
とつぜん、2人の後から、
「季節廻る国だよ。」
とわり込んでくる声がありました。
2人は驚いてふり返ると、そこには1匹のキツネが2人を見上げていました。
エリザベスが飛び上がって、
「ひゃっ! 今度はキツネがしゃべってる!」
と驚きます。すると、キツネは目を細めて、ゆっくりとしっぽを揺らしました。
「はははは。動物がしゃべるのが不思議かい? この国ではみんなしゃべるんだよ。」
と楽しそうに笑っていました。
しかし、アーサーは真剣な表情で「季節廻る国だって?」とつぶやきました。そう。その国の名前は、アーサーが書いていた物語と同じ名前だったのでした。「でも、僕の物語では冬が終わらないなんてことは……。」
キツネはアーサーのつぶやきを無視して2人の前に回り込むと、
「2人とも迷い人のようだね。私はチャールズという。……ついておいで。春の女王のところへ相談に行こう。」
と言います。
その名前に2人は思わず顔を見合わせました。なぜなら死んだお父さんと同じ名前だったからです。……とはいえ、たまたまなのでしょうけれど。
「きっと春の女王なら君たちが帰る方法も知っているよ。」
2人はうなづくとベンチから立って、キツネの後ろをついていきました。