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第5話 初勝利を目指して

翌日の放課後俺は佐藤に前の奴のことを尋ねた。

佐藤に聞いても何もわからないだろうけど聞かないよりはいい。


「ああ、あいつはあの川原によくいるらしいぞ。オルガセンターでのルールのある戦いよりルールのない野良バトルがやりたいんだろう」

「まぁ、あんなことする奴だからな。そりゃそうだろう。わかった前の川原に行けばいいんだな」

「どうしてこんなこと聞いたんだ?まさかまた戦うつもりか?」

「そのまさかだよ」

「やめとけって。お前あいつに何もできないで負けたの忘れたのか?」

「あのときの俺たちじゃないって。勝つ算段もある」

「・・・本気みたいだな。よし、俺も見に行くから」

「え。お前もくるの?」

「前みたいになったら誰が止めるんだよ」

「そんなに心配しなくても大丈夫。それに万が一の時は俺がすぐ割って入るから。前みたいにはならないって」

「そんなに自信があるなら別の意味で見たくなるな。どっちにしろ見に行くぞ」

「勝手にしろ」


野次馬根性半分だろうがそれでも一応心配して付いてきてくれたことがうれしかった。


「あれ?サトーも一緒なの?」


校門で待っていたクズハと合流したら不思議そうな顔をして見上げた。


「見物したいんだってさ」

「ふーん。まあ私達の歴史的勝利をしっかり見届けるといいよ!」


特にクズハは気にする様子もなく歩きだす。

その後ろを俺たちは付いていった。

例の川原に着きこの前の奴らを探すが今のところいないようだった。

仕方ないのでしばらく川原を散歩していると奴らの姿が見えた。

こちらから声をかけようとするとあっちの方が早く声を掛けてくる。


「お、どこかで見た顔だと思ったらこの前のバトルに勝てずに暴力で訴えてきた奴らじゃないか。今日も殴りに来たのか?」


相変わらず人の神経を逆撫でするように笑う奴だ。


「そんなことはしない。今日は正々堂々バトルをしようと思って待っていたんだ」


それを聞いて奴はより一層笑い出した。


「この前あんなに一方的にやられたのにまたやろうって言うのか。ハハ、いいだろうやってやるよ。前みたいにボロボロにしてやる」

「前の私とは違うんだからね!見てなさいよ!」

「前回もそうやって威勢だけはよかったよな。今度は何分持つかな?」

「クズハ。挑発に乗るなよ。落ち着いて練習の成果を見せるんだ」

「ふん、何を練習したか知らないが無駄だってことを教えてやるよ」

お互いのオルガノイドが10メートルほど距離をとって向かい合う。

「スタートの合図は佐藤がやってくれ」

「まあ確かに俺がやるよな普通に考えて」

「なんでもいいさ。始めるぞ」

「それじゃあ行くぞ。レディ、ゴー!!」


相手のオルガノイドが一気に地上から飛び立つと、それに合わせてクズハが飛び掛るが空振りに終わる。


「やっぱりスタート際で当てるのは無理だね」

「ははは、前回と何も変わらないじゃないか!その横についている銃は飾りなのか?」

「クズハ!距離をとって回避に回るぞ!」

「了解セイジ!」


相手のオルガノイドが二丁のマシンガンを乱射する。

しかし、いくらマシンガンと言えど空高く飛び上がった距離から攻撃してもそう簡単に当てられはしない。

そしてクズハは機動力に秀でているアニマルタイプ。

当てるには相当苦労するはずだ。


「このままこの距離をキープするぞ。当たらないように気をつけろ」

(「こちらの攻撃範囲外からのマシンガンがどうしようもない?そんなことはないよ。この前はこっちが相手の射程圏内に無理やり突っ込んだから狙い撃ちにされただけ。武器には有効射程距離ってものがあるんだ。普通に戦ってたらそう簡単には当たらないはず」)


言ったとおりだ。

回避に専念すれば問題ない。


「チッ、マシンガンじゃ拉致があかないか。ミサイルを使え」


奴の指示とともに相手のオルガノイドは背中の射出ポットから多弾ミサイルを発射する。


(「まぁ、そんなこと相手も百も承知だろうけどね。そのためのミサイルだろう。ミサイルは発射さえすれば追尾型だから距離なんて関係なく当たる。本当に嫌らしい戦法だね」)


(「ミサイルを射撃して止めるって方法もあるんだけどそれは難しいだろうね。多分その為の多弾ミサイルなんだ。全方位から攻撃されたら並みのオルガノイドなら打ち漏らすよ。機動力のあるオルガノイドは脆いからそのまま倒せるし、ガードしたらその拍子に近づいてマシンガンで一気に攻撃を仕掛けてくるんだろう。流石にマシンガンの一斉射撃を貰ったらひとたまりもない」)

(「ならどうしたらいいかだって?対抗策がないオルガノイドは難しいけど君のオルガノイドなら方法がないわけでもないよ」)


ここが一つの正念場だ。

失敗したら負ける。


「クズハ!狐火を全方位に!」

「待ってました!」

「このミサイルの雨だ!何をしようと無駄だね!」


クズハは尻尾を思いっきり一回振るとその先から5つのボールが飛び出し、クズハの前後左右そして上に止まり突然発火した。

散らばっていたミサイルが全てクズハに向かって動きだす。

時間はもうない。


「当たって!」


そしてその火の玉に目掛けて射撃する。

5つ同時になんて器用な真似は流石にできず時間差になるがそれでも1,2秒で打ち終わる。

当然の如く弾が当たった狐火はその場で爆発する。

そして爆発に飲まれたミサイルも連鎖し次々と爆発していった。

外から見るととてつもない爆発だな。

本当に大丈夫なのか・・・?


(「ミサイルって用は追尾する爆弾なんだ。だから爆発に巻き込まれたら誘爆する。え、じゃあミサイルを一発打てば全部爆発するんじゃないかって?一方から来るんならそれで問題ないんだけど全方位から来るからね。さっきも言ったけど普通は打ち漏らしができるよ」)

(「このメーカーの、君たち狐タイプの尻尾には火炎放射機以外にももう一つ機能があるんだ。時限式誘導爆弾。見た目はいわゆる火の玉って奴だね。周りの火によって表面がある一定の温度を超えると爆発するんだってさ」)

(「そんなことはどうでもよくて、狙われたらこれを全方向に打ち出すんだ。この火の玉は射出されると発火するために一度止まる。そこをこの銃で狙うんだ。止まっているから狙いやすいし自分で打ち出したのだからどこにあるかわかりやすいでしょ?これならミサイルを狙うよりずっと楽だ」)


俺はアプリでクズハのダメージを確認する。

いくら爆発に飲まれないように距離をとって爆発させたとはいえ、爆発の中心に居たので少しダメージがあるがそれでも直撃するより全然マシだ。

爆発が止み煙幕が晴れる。

クズハはその場で倒れこむことはなく次の攻撃に備えている。


「なんでこの爆発で倒れてないんだよ!おかしいだろ!」


あの大爆発を見て無事なのに驚いているな。

種を知らなかったら当然だよな。

知っていても見ていてヒヤヒヤしたし。


(「それで万能そうに見える多弾式ミサイルだけどこれにも欠点があって、次のミサイルを打つまでにすごい時間がかかるんだよ。だから一度打ってしまうと当分打てない。だからその間は相手はマシンガンしか使えないよ」)

「クズハ!反撃だ!」

「やっと私達の番だね!」


クズハはまた尻尾を一振りし狐火を展開する。

尻尾を振る。

空中で止まる。

相手に向かって移動。

と3段階踏まないといけないので速攻には向かないが相手は驚いているので今回は十分先手が取れる。


「くるぞ!避けろ!」


迫り来る狐火を相手オルガノイドは空中で急旋回しながら回避していく。

狐火は他のミサイルに比べて早いものではない。

しかし色々な方向から敵を追い詰めていく。

そしてもう一つの狙いが特徴である時限式ってところだ。

狐火が回避している敵の目の前で爆発する。

その煙幕に乗じてクズハが飛び上がる。

相手が必死に回避している間に相手の真下まで距離を詰めたのだ。

狐火に必死で見ていないようだったけどな。

そして煙幕が晴れると同時に相手の背後を取る。

このまま爪で攻撃できたらよかったんだけどそんなには甘くない。


「後ろ来てるぞ!避けろ!」


奴は叫ぶがもう遅い。


(「相手の弱点だけどね。機動力が実はないんだよ。大型のマシンガン2丁に多弾式ミサイルだっけ?そんなに重たいものを乗せたら飛ぶだけで精一杯になるに決まっている。だから安全圏で戦うことに拘っているんだろうけどね。だから一度懐に入っちゃえば攻撃は当てやすいはずだよ」)

「いっけええええええクズハあああああああ!」

(大丈夫落ち着いて。私ならできる。あんなに練習したじゃない。それにセイジは肩が痛くなるまで手伝ってくれた。それを私に気取られないように必死に隠して。ここで外したら?その苦労が全部意味がなくなる。そんなのは嫌だ。ダメ。絶対にダメ!)


クズハに後ろを取られた相手オルガノイドは右に回りこむように旋廻する。


(相手の体が右に倒れた。右に行きたいんだね。これならいける!ボールより全然大きいし問題ない!)

「やあああああああああ!」


クズハの叫び声とともに射撃が開始される。

攻撃はそのまま相手の羽を打ち抜いた。

片方の羽を打ち抜かれた相手はそのまま飛ぶことが出来ずに落下する。


(「鳥タイプって空を飛べる代わりに装甲が脆く出来てるんだよ。鳥の羽って見たことある?あれって中空洞になってるんだ。それと一緒。だから本当は攻撃の当たらないように機動力を下げない装備にしないといけないんだ」)

(「地上の敵相手なら確かに重い装備でもいいんだけどね。爆撃機の用にミサイルを一杯積んでいてそのまま地上を殲滅するってことができる。でも重くて機動力がないから空中戦専用の戦闘機になす術もなくやられるんだってさ。攻撃されなかったら強いけど土俵に上がられたら弱い。そんな相手だと思うよ」)


飛ぶことはできなくなったがそれでも相手はまだ動けるようで銃をこちらに向け戦意を表す。


(「後、いきなり尻尾の火炎放射使おうとしたんだっけ?そんな大技使っても当たるわけないよ。まず相手の機動力を削ってから打たないと。そういった大技は確かに威力はあるけど打った後の隙が大きいんだから。})


そしてクズハは体を沈めて尻尾を突き出す。

とどめを刺すべく突き出された尻尾が4つに割れ中から大きな銃身が姿を現す。


「クズハ待て!」

「え、どうしたのセイジ?」

「おい、もう勝負は付いた。負けを認めろ」


どう見ても勝負は付いている。

これ以上止めを刺す必要はない。

それを聞いた相手はワナワナと震えていた。


「なんでこんな初心者だった奴に負けるんだよ・・・。おかしいだろ・・・。そうだ、こいつが弱いからだ。そうじゃなかったら俺が負けるはずがない!そうに決まってる!」

「おい!聞いてるのか!?」

「うるさい!」


あいつは倒れたオルガノイドまで近づいていく。

そのまま抱えて帰るのかと思ったら足を大きく振り上げ勢い良くけり始めた。


「何無様に負けてるんだよ!もう俺のオルガノイドでもなんでもないからな!勝手にスクラップになっちまえ!強制終了コード発令6456」


強制終了コード。

これは万が一オルガノイドが暴走した場合強制的に止めるためのコードだ。

音声認証で持ち主が暗証番号を言わない限り発動することはない。


「おい!自分のオルガノイドだろ!何してるんだよ!」

「うるさい!弱いオルガノイドなんて俺にはいらないんだよ!次は絶対負けないからな!覚えてろよ!」


そういってあいつは走りだした。


「何から何まで最低ね」

「本当だな。なんであんな奴がいるんだろうな。で、これからどうするんだ白石?」

「とりあえずショップに行くか。こいつもこのまま放置するわけにはいかないだろ。多分あいつ本当にこのまま放置してスクラップにするつもりでいるだろうし。それにアドバイスをくれたお礼も言いたいし」

「そうだな。それがいい」

「セイジ私かっこよかったでしょ!?」

「そうだな。最高にかっこよかったよ」

「えへへー。もっと褒めてくれたっていいんだよ?」

「まったく調子に乗りすぎだって」

「まあまあ初勝利だし、あんな敵に勝ったんだから仕方ないだろ」

「そうだよー。本当に大変だったんだからねー!」

「はいはい。わかってますよー」

「全然わかってない!」


頑張ったのはわかっている。

あんなに苦手だった射撃も本番でミス無しで成功させた。

でもこいつの喜びようを見ていたらなんだか照れくさくなって素直に褒めることができなくなった。

そうして勝利の余韻が冷めないうちに俺たちはショップへ向かう。


「誰か居ますかー!」


もうお決まりのように誰も居ない店内に呼びかける。

お店の人が店内で待っているところみたことがないけど盗難とか大丈夫なのかこの店。

しばらくしてまたお決まりのように奥から物音が聞こえ若い店員が顔を見せた。


「やあ、こんにちは。今日はどうしたんだい?」

「いつもいつも店番しないで店の奥で何してるんですか?」

「あぁ、オルガノイドの修理とか色々だよ」

「意外と大変なのね。店番もできないほど」

「そうサボってるわけじゃないんだよ。で、今日はどうしたの?」

「そうそう、こいつを修理お願いします」

「承りました。で、このオルガノイドはどうしたの?二体も持っていたの?」

「それが実は・・・・・・」


俺たちはことの顛末をざっくりと話す。

最後のくだりを聞いたとき店員は苦笑いをしながらも手に力を込めていたのを俺は見逃さなかった。


「話を聞いた限りでは本当に酷い奴だね。そんな人はオルガノイドなんて持たないで欲しいよ。確かにオルガノイドは機械だ。でもそれでも感情、心はあるんだよ。人間と何も変わらない」

「それで、こいつは大丈夫なんでしょうか?」

「ちょっと待ってね。今見るから」


店員はオルガノイドを受け取ると熱心に色々触り隈なく見つめる。


「うん。とりあえずは問題なさそうだよ。羽の損傷が酷いけどそれ以外は充電でも問題なく回復するレベルだ」

「よかったー。このまま動かなかったら私が壊したようなもので目覚めが悪いもん」

「まあ確かに強制終了される前には動いてたからな。そんなに壊れているはずないか」

「うん。とりあえず羽を直すために預からせてもらうよ。で、この修理代は誰に請求すればいいのかな?」


もうあいつはこいつを捨てたんだ。

だから野良ノイドなんだけど見過ごすわけにはいかない。

でも・・・、俺のお金が・・・。


「それなら俺が払うよ。お前はこの前クズハちゃん修理したばかりでお金ないだろうし」

「え、佐藤?お前関係ないだろ。なにのどうして」


横から佐藤が名乗り出る。


「だって可哀想だろこのままじゃ。まぁ、お金はなんとかなるし気にするなって」

「よかった。僕も慈善事業じゃないからね。かわいそうだけどボランティアで修理するわけにはいかないんだ」

「ありがとう佐藤」

「それで勝ったことは聞いたけどどんな内容だったのか教えて欲しいな」

「私が凄かったんだよ!一回も攻撃当たらなかったんだよ!」

「それはすごい。パーフェクトゲームは予想してなかったよ」

「攻撃は当たってないけど損傷はしてるじゃないか・・・」

「敵の攻撃は当たってないから嘘じゃないもん」

「はいはい。本当にアドバイスのおかげで勝てました。ありがとうございます」

「いやいやアドバイスはしたけど実行できるかは君たち次第だ。それにアドバイスと言っても敵の弱点を教えただけだし。それは君たちの実力だよ」

「そういえばあなた名前は何ていうの?なんて呼べばいいのかわからないから困るんだけど」

「ああそういえば名前言ってなかったね。僕の名前は晃田だよ」

「ひかるだ?珍しい苗字ですね」

「そうだね。他には聞かないかなー」

「ヒカルダね。覚えたわ。よろしくねヒカルダ」

「呼び捨てにされることには慣れているけど君みたいなオルガノイドに言われると変な気分になるな」

「じゃあ、晃田さんこいつのことよろしくお願いしますね」

「うん。任された。じゃあ早速修理してくるよ。多分明日には終わっていると思うよ」


そうして俺らはショップを後にした。

もう日が暮れていたので佐藤とも途中で別れ、俺とクズハは二人になる。

暗がりを歩いているせいでセンチメンタルな気分になったのだろう。


「クズハ。さっきは照れくさくてちゃんと言えなかったけど、本当にお前はよくやってくれたよ。難しいこともこなしてくれた。本当にすごいよ」

「え、どうしたの急に?なんか気持ち悪い」

「気持ち悪いとはなんだよ!いや、なんかそんな気分になったからさ」

「ふーん。でももう遅いよ。今更褒められたってうれしくないんだから」


そっか。

それは悪いことをしたな。

本当に頑張ってくれたんだからもっとちゃんと褒めておけばよかった。

そう考えているとクズハは俺の前に出て振り返り。


「だから、次勝った時は一杯褒めてよね?」


満面の笑みで俺に問いかけた。

その笑顔を見ていたらこんなにしんみりとしてた自分がバカらしくなってくる。


「そんな調子に乗っていると負けるぞー」

「負けないよ。だって次もセイジが応援してくれるんでしょ?」

「当たり前なことを言うな。・・・・・・。俺が応援するんだから次も負けるなよ!」

「ふふ、了解マスター」


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