第4 リベンジの為に
クズハのいなくなってからの1週間はいつもより長く感じた。
まだ数週間も一緒に生活していないのにあの明るいクズハの存在が大きくなっていたことを感じた。
あいつと一緒にいると面白かったからな。
そんなこんなで長く寂しかった1週間を終え、ショップに向かう。
何も店から連絡はないがそれでもそろそろ直ってるかもしれないという希望を持って歩いていた。
「すみませーん。誰かいませんかー」
店に入ってみても誰もいなかったので呼びかけてみると、前と同じように店の奥から物音が聞こえてくる。
「やあ、まだ連絡もしていなかったのに早かったね。修理はついさっき終了したところだよ」
「セイジ。私がいなくなって寂しかった?」
「今起動テストをしていたところだったんだけど問題はなさそうだね」
「無事でよかったクズハ。もうあんな無茶はしないでくれよ」
俺は久々にあったクズハの頭を優しく撫でると気持よさそうに目を細めた。
「ちょっと頭に血が上りすぎてたみたい。指示も聞かないでごめんねセイジ。それであの後どうなったの?」
「今度気をつけてくれればいいさ。あの後お前は攻撃されて機能停止したんだ。でもお前が助けたあの人たちは無事だったよ」
「そっか。・・・やっぱりやられてたんだよね。相打ちくらいには出来たらよかったんだけど」
クズハのいつも立派に立っている耳が少し垂れている。
「よかったらその戦いの内容を話してくれないかな?僕としても酷いマスターの犠牲者は少しでも減らしたいからね。なにかアドバイスできるかもしれないよ」
店員が興味深そうに俺たちを見つめていたので、ことのあらすじを見たままに話す。
ところどころクズハが私はそんなかっこ悪くないっと突っ込みを入れてきたが気にせず話した。
「っとこんな感じです。何かわかりますか?」
話を全て聞き終えた店員は軽く笑い出す。
「何笑っているのよ!私達は真剣だったんだから」
「いやごめん。でもちょっと懐かしくなってね。いやぁ、しかし初心者のバトルだね。これならなんとでもなるよ」
「え?俺たちはともかく相手も初心者なんですか?」
「うん。そうだね。何から話そうか。とりあえずまず相手の弱点から話そうか」
そうして俺たちは店員に色々とアドバイスを貰った。
飛行できるオルガノイド以外対抗策がないと思っていたあいつにそんな弱点があったなんて。
「完璧なんてものはないんだよ。どこかを強化すればどこかが弱くなる。それがオルガノイドの面白いところさ。用は相手に合わせた戦い方が重要なんだよ」
「こ、これなら勝てるかもしれない。ありがとう!」
「ふん、そんなの付けなくたって勝てるって。このままの方が動きやすいし」
「まあまあ、確かに勝てるかもしれないけどより確実に勝つためだって言われたろ。うーん、動きに不満があるならこっちの小型タイプにするか」
「そのまま何もしないのはお勧めしないけど、小型タイプを使う分にはいいかな。ライフルなら十分威力があると思うし」
「色々ありがとうございました。これであいつに勝てそうです」
「お礼なんていいよ。売り上げに貢献してくれてるしね」
「うん。じゃあ早速リベンジしに行くわよセイジ!」
「ちょっと待てクズハ!まだ直ったばかりだろ!」
そういって駆け出しそうになったクズハを慌てて止める。
「なんで止めるのセイジ。もう相手の弱点がわかったんだから怖くないじゃん」
「直ったばかりなんだからまず試運転が必要だろ。それにお前銃使うの初めてなんだから練習しないと」
「それもそうか。まあ練習なんてしないでも余裕だと思うけどね」
「とりあえず空き地まで行くぞ。また何かあったら来ます。お邪魔しました」
「そうだ戦ったらまた教えてね。アドバイスした身としては結果が気になるし」
俺は店長に手で答えて走りだしたクズハの後を急いで追いかけた。
空き地に到着し早速先ほど購入したライフルをクズハに取り付ける。
購入したライフルはクズハの胴体の横に取り付けるタイプだ。
そんなに重いものでもないので片側だけにつけてもバランスが崩れることはなく、クズハが銃側に倒れこんでも壊れることはない。
銃身も短いので邪魔になることはない。
とりあえずそこら辺に捨てられていた空き缶を手ごろな高さの土管に乗せ5つ並べてみる。
「クズハこれを的にして試し打ちをしてみよう」
「こんなの簡単簡単。まあ私の腕を見てなさいって」
そういってクズハは空き缶の数だけ連続で射撃する。
「・・・・・・。さっきなんて言ったっけ?簡単簡単?」
「う、うるさいよ!当たったじゃん!ほら!」
確かに当たっている。
当たってはいたが・・・。
でも倒れた缶は一つだけだった。
「これが実践だったと思うとゾッとするな・・・。練習してよかった」
「まだ始めたばかりなんだから出来なくて当たり前でしょー。いきなり体になかったものをつけられて操れなんて腕が一本増えるようなものなんだよ!」
「なら最初から意地張るなよ」
「こういうのは雰囲気から入るのが大事なのー」
それから俺たちは射撃の練習に明け暮れたが、クズハはなかなか5連射撃を成功させることができなかった。
元々射撃タイプのアニマルタイプではないので初期装備にも銃は付いていない。
オルガノイドには向き不向きがあるので本来そういった武装を使わないのがセオリーだが、今回に関してはそんなに問題ないと言うことだ。
練習から3日が経ったころついに5連射撃を成功させることができた。
「やったー!全弾当たったよ!」
「やったなクズハ!」
クズハはその場で飛び跳ねて喜んでいる。
大きな尻尾もピヨコピヨコと動いていて面白かった。
「偶然かもしれないからもう一回やるぞ」
「ふふん。もうこんなの簡単なんだからね」
その後何度か失敗することはあったがそれでも格段に全弾命中することが多くなった。
これならもう次の段階に進んでも大丈夫かな。
「よし、クズハ次はこれだ」
そういって俺はボールを取り出した。
「何?これをセイジの頭に乗せて打ち落とせって?」
なにやら恐ろしいことを言い始めた。
「違うって。これを俺が投げるから打ち落としてみろ」
「もう何が来たって楽勝だよ。早く始めよっ」
「じゃあ行くぞ」
俺は思いっきり振りかぶってボールを投げた。
クズハに向かって投げるのではなく横切るようにだ。
クズハは狙いをつけて射撃するが・・・。外れた。
「セイジの意地悪!なんでいきなり思いっきり投げるのー!初めてなんだからゆっくりやってよー」
「ごめんごめん。出来ると思ったからつい」
止まった的はいけても動く的はまだ難しいか。
そして今度からは動く的に当てる練習を始めた。
でも今度は前の練習ほど時間は掛からず2日ほどで2つ同時に投げたボールを打ち落とすことに成功した。
「うん、大分よくなってきたね。セイジ感覚を忘れないうちにもう一回早くー!」
「・・・。次いくよクズハ」
まだ大丈夫。
俺は力を振り絞ってボールを二個投げる。
野球と違って狙いをつける必要はない。
ただ思いっきり前に投げるだけだ。
「やった、また打ち落とせたよ。ってセイジ!どうしたの!?」
打ち落としたボールをうれしそうに見ていたクズハが表情を変えて向かってくる。
どうしてクズハがよってきたのか。
理由は明白だ。
俺が肩を抑えて膝をついていたからだ。
バレないようにしたかったけどもうダメだ。
痛みに耐えられない。
「いてて、大丈夫。少し痛むだけだから」
「痛むって・・・。肩すごい炎症起こしてるじゃない!なんでこんなになるまで黙ってたの!?」
「クズハの練習に水を差したくなかったし、上達して喜ぶクズハが見てたらつい」
「ついじゃないよ!ごめん私が気がついていればよかったね。自分のことしか考えてなかった」
「できれば後少しだけバレないでいたかったな。せっかく格好つけてたのに」
「バカ・・・。とりあえずもう今日は終わりにして病院行くよ」
「ごめん。クズハ。もっと練習したかったろ」
「もうほとんど出来てるから大丈夫だって。上達したのが楽しくてやってただけだから問題ないはず」
「・・・絶対に勝とうな」
「わかってるわよ。もう負けない。あんなこと止めさせないと」
練習を引き上げて病院に行き、診察を受けたがイキナリあんなに投げ込んだものだから肩を痛めただけで特に問題はなかった。
2,3日もすればとりあえずはよくなるらしい。
「クズハ。明日あいつと戦うぞ」
「え、まだ肩直ってないのにいいの?」
「戦うのは俺じゃないし。特訓からあんまり時間を置かないほうがいいだろ」
「うん。ありがとう。絶対に勝つから」
「俺がこんなになるまで練習したんだ。当たり前だろ」