第3話 クズハ初陣
この後俺はクズハと色々話をした。
話をしたと言ってもクズハは目覚めたばかりだから主に俺の学校生活や過去の話だ。
こんなに話をしたのはいつ以来だろう。
バイトでも事務的な会話くらいしかしないし友達を遊んでもこんなに一緒にいることはなかなかない。
クズハは何事もすぐ聞きたがる性格のようで、話の種が尽きなかった。
夕飯の時に母さんにクズハを紹介した時は面白かったな。
クズハさんは何を食べるのってさ。
機械なんだからご飯なんて食べるわけないのに。
それから数日がたった。
家に帰るとスグハに今日の出来事など色々話をするのが日課になった。
テレビを一緒に見たりする。
バライティを見ながらクスクス笑ったりクイズ番組で納得いかなそうにするクズハは可愛かった。
テレビも見終わりやることがなくなったので風呂に入って寝ることにする。
スグハは少し物足りなそうだったがまた明日と約束して睡眠に入る。
いつものように学校へ向かい授業を受けていると友人の佐藤が話しかけてきた。
「なんだよ白石。最近妙に楽しそうじゃん」
「どうした突然」
「いや、なんか以前に比べて浮かれてるって言うか。女でも出来たか?」
考えもしない佐藤の言葉に思わず噴出してしまった。
「げほっげほ。そんなんじゃねえよ!」
「なんだそうなのか。でもその浮かれようは当たりだと思ったんだけどな。
放課後が待ち遠しいって感じの」
「まぁ、それは当たっているな。俺ついにオルガノイドを手に入れたんだよ」
佐藤はその言葉に驚いて笑いながら俺の背中を叩く。
「はっはは、よかったじゃん。お前ずっと欲しがってたもんな。それにしてもよくそんな高いもん買えたな」
「デパートの福引で当たったんだよ。だからちょっと型は古いけどそんなことは問題じゃないかな」
「お前前から運がいいよな。うらやましい。型が古いって言っても自立型ロボットなんだ。始めだし関係ないだろ。それで何タイプ?」
「フォックス。狐」
「すげー。アニマルタイプでも当たりの部類じゃん。うらやましいぜ」
「お前だって持ってるじゃん。アニマルタイプの」
「あれは俺のじゃないしペットみたいなもんだよ。いいなー専用のオルガノイド」
「そうだな。今度つれてきてやるよ」
学校にはつれてくることが出来ないが校門で待ってもらうくらいは出来るか。
下校するときに見せてやろう。
周りにも一杯持っている人はいるから悪目立ちするってことはないしな。
しかし佐藤に気取られるなんてそんなに浮かれてたのか。
傍からみたら怪しい人に見えるだろうからちょっとは気をつけないと。
放課後佐藤と久々に一緒に下校することになり二人で校門に向かう。
校門前にはいつもの通り大勢のオルガノイドが主人の帰りを待っていた。
前まではこの大勢のオルガノイドたちを羨ましく眺めていたが今はそんなことはない。
俺はもう持っているのだ。
家に帰ればクズハがいる。
佐藤と話ながら様々なオルガノイドを眺めていると、見覚えのある姿が尻尾をひょこひょこ動かしているのを見かけた。
でも学校の場所まで教えていなし、ノイド違いだろう。
「待ってたよセイジ!」
クズハの声が聞こえたと思ったら後ろから衝撃が来て前に倒れこむ。
「ちょっと遅かったんじゃないのセイジ?」
「え、なんでクズハがここにいるんだよ」
「なんでって、セイジの携帯のGPSを追ってきたに決まってるじゃない。私達には電波が入ればそのままインターネットで検索できるんだよ」
「そういえばそんな機能も付いてたな。まあ、迎えに来てくれたのはありがとう」
「あ、これがお前の言っていたオルガノイドか。へー、かっこいいじゃん」
「セイジこの人は?」
クズハに覗き込む佐藤を少し警戒しながら聞いてくる。
「こいつは佐藤。友達って言えば友達だ」
「おいおい、そこは友達って言い切れよー」
笑いながら肩を叩く佐藤。
「でもクズハ丁度よかった。今日ちょうど佐藤にスグハを見せてくれって言われてたところだったんだ」
「ふーん、そうだったんだ。ちょっと暇だから迎えにきたんだよ」
「へー、かっこいいけど女性ベースなのか。それでもかっこいいけどな」
「かっこいいかっこいいって。確かにオルガノイドに性別はないけど私は一応女性としての人格があるんだからちょっと複雑だよ」
「まぁ、いいじゃないか。かっこいいのは本当なんだし」
「そうだけどさー」
スグハは複雑そうな顔をして俺の隣を歩き出す。
俺たちはそれに合わせて帰り始めた。
途中スグハが佐藤に俺の学校での様子はどうか聞いて、佐藤があまりバラして欲しくない恥ずかしいエピソードを語り始め、それを俺が慌てて止めたりと退屈しない下校となる。
途中本屋に寄りたいと佐藤が言い始めたので少し遠回りして帰ることに。
そんなこんなで本屋に向かっている中、川沿いの土手を歩いているとなにやら大きな音が聞こえた。
この川沿いの土手は結構広いのでよくこういった野良バトルが始まることがある。
人の目では戦っているのはわかるのだが遠すぎて状況がよく把握できない。
「何してるのあいつ!」
そんな中佐藤と俺の間を歩いていたクズハが血相を変えて勢いよく飛び出した。
「どうしたんだクズハ!」
「いきなり走り出すなんてどうしたんだ?」
全力で走り出したオルガノイドのクズハには追いつくことは出来ないが、見失わないように俺と佐藤も後を追うように必死に走り出した。
そして先ほど野良バトルをしていたであろう位置まで後100メートルというところになって状況が少し把握できる。
男が離れて向かい合っている間にオルガノイドが3体いた。
1体は空を飛んでいるのに対して残り2体は地上に。
1体はその場で倒れこんで、もう1体は2体の間に割って入る位置にいた。
割って入っているオルガノイドはクズハだった。
「もう勝負はついてるじゃない!なんでまだ攻撃を止めなかったの!?」
「なんでって楽しいからに決まってるじゃん。動けなくなったオルガノイド更にボロボロにして泣いて止めるようにお願いしてくるマスター。こんな表情はオルガノイドの戦いじゃないと見られないね!」
「・・・最低ね。いいわ。ここから先は私を倒してからにしなさい」
「ちょっと待てクズハ!何かってなこと言ってるんだよ!お前まだバトルなんてしたことないじゃないか」
追いついた時にはすでにクズハは1人の男となにやら争っていた。
「止めないでセイジ!この最低な人を懲らしめてやるんだから!」
「だからって今のままだとお前が返り討ちに会うだけだろ!」
「勝てないからって自分の身可愛さにこの惨状を見てるだけでいろって言うの?そんなの無理!」
そう言ってクズハは空から攻撃していたオルガノイドに飛びつこうとした。
くそ、こうなったら自棄だ!
まずは状況を把握するべく相手を観察する。
敵のオルガノイドはバードタイプの・・・・・・、多分イーグルモデルかな。
武装は重火器で固めているようだ。
足の付け根辺りに大型マシンガン2丁、そして背中に小さなミサイルを大量に打ち出す多弾式ミサイルの射出ポットが付いている。
多分相手の近距離武装の安全圏内で弾数に物を言わせて攻撃するタイプか。
近距離しか武装を持たないオルガノイドは成す術もなく蜂の巣にされるだろう。
それはクズハにも言えることだ・・・。
案の定飛び掛ったクズハの攻撃を相手のオルガノイドは更に上昇して回避する。
そして空中を落下するしかないクズハにしっかりと狙いをつけ着地際にマシンガンを乱射する。
直撃はしなかったもののクズハはかなりの数の弾を貰ってしまった。
「クズハ!」
「セイジ大丈夫!まだ問題ないよ!」
俺は慌ててスマートフォンのアプリを開きクズハのダメージをチェックした。
オルガノイドのソフトをインストールする際に専用のアプリを携帯にインストールすることができる。
これはオルガノイドと連動していてここで遠く離れていてもコミュニケーションが出来る他、オルガノイドの状態をチェックすることが可能だ。
幸いクズハの言った通りすぐに戦闘不能になるほどの致命的なダメージではなかった。
しかしそれでも損傷は多い。
攻撃しようとすると更に上昇して安全圏に逃げ込むのか・・・。
こんなの飛行ユニット以外どうやって戦えばいいんだ!
「そんなノーマル装備で俺に戦いを挑むなんてバカな奴だ。すぐにスクラップにしてやるよ」
「クズハ。相手の言うとおりだ。お前は初期装備で爪くらいしかないじゃないか!相手の弾切れまで地上で回避に専念するんだ!」
「そんなことしない!私は今すぐあいつを叩きのめしたいの!それに私にも遠距離武装くらいあるわ!」
そう言うとクズハは少し体を沈めて尻尾を敵に向ける。
尻尾の先がアンテナのように4つに割れると中には大きな銃身が存在していた。
そしてその銃身の先に火が灯り徐々に勢いを増していく。
火の周辺が熱量で歪み始めた時銃身から勢いよく渦巻状に炎が発射された。
がしかし、空高く飛んでいるオルガノイドは簡単に避けてしまう。
「確かに当たったら痛いが、そんな大技いきなり撃つなんて隙だらけだぞ!やれ!」
「クズハ避けろ!早く!」
「くっ、体が動かない」
相手のオルガノイドは動かないクズハに背中に装備している多弾ミサイルを全弾撃ち込む。
空中にバラバラに発射されたミサイルは全てスグハに向かって進み出す。
「クズハああああああああああ!」
クズハはそのまま動けずイーグルの攻撃が全て直撃した。
手元のアプリでダメージを確認する。
やはり全ての部位が機能を停止していた。
クズハは倒れこんだまま動かない。
「勢いよく飛び出してきた割にあっけなかったな。じゃあ仕上げといこうか。さっきの奴はどっか行っちまったし」
よく見たらさっきまで戦っていた人たちは消えていた。
きっと俺たちが戦ってるうちに退散したのだろう。
俺だって同じ立場だったら逃げるだろうし別に白状だとは思わない。
「おい、止めろよ!もう勝負は付いてるだろ!お前の勝ちなんだからどっか行けよ!」
俺の制止に奴は見ていて気持ちのいいものではない下種の笑いを浮かべながら言う。
「さっきの話を聞いてたろ。俺はこのために戦ってるんだ。嫌なら戦わないことだな。もっともお前に関係なく戦ってたみたいだけどなこのオルガノイドは。バカなオルガノイドを持って残念だな」
「確かにあいつはバカかもしれない。でもそれを俺は攻める気はない。正しいことをしたと思ってる。でも少しは言うことを聞いて欲しかったかな」
あいつは正しいことをした。
俺もこいつは許せない。
考えるだけでムカムカする。
でもクズハ頭に血が上りすぎだ。
もっと解決の仕様があったはずなのに。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。止めたきゃ止めろよ。射線に入ればオルガノイドはもう打てないぜ。もっとも打ち出された弾は止められないし当たったら怪我じゃすまないけどな」
あいつは更に大笑いしながらオルガノイドに攻撃の指示を出す。
上空にいたオルガノイドが高度を人二人分のところまで下げマシンガンを構える。
さっきあいつが言っていた通り射線に入れば止められる。
ほら早く走り出さないと間に合わなくなるぞ。
でも・・・・・・。
足が動かない。
あんな大きな銃の、それもマシンガンの前に出るなんてとてもじゃないができない。
クズハを守るためだって言い聞かせても本能が拒否をする。
オルガノイドが人間を傷つけることはない。
でもこの場合は別だ。
割って入ったところで射撃したものは止められない。
オルガノイドの事故は少ないがまったくないわけではない。
そしてマシンガンからついに弾が射出された。
動けないクズハに容赦なく降り注ぎ、すでにボロボロだったクズハが更に装甲が削れていく。
言い争いなんかしないでさっさとクズハを庇うべきだったんだ。
そうすればこんなことになることはなかった。
現場を見ていたわけでもないし、先ほどの奴もとどめは刺されていたが追い討ちはやられていなかったのでただの脅しだと思っていた。
心の底ではやるわけないだろ。
「やめろ!やめてくれ!」
俺は周りのことなど気にせず精一杯叫んだ。
「これだよこれ!みんな最初は強がってる癖にいざ始めるとこうやってわめき出す。これが最高に面白いんだ!」
あいつは俺を面白がるだけで止める気配が一向にない。
このままだと本当にクズハがもう動かなくなってしまう。
「止めろって言ってるだろ!!」
突然さっきまで大笑いしていた奴の体が吹き飛ぶ。
「マスター!」
吹き飛んだのを見てイーグル型オルガノイドが射撃をやめあいつに駆け寄った。
「大丈夫ですかマスター!」
「いてて・・・。イテーなこのやろう!」
倒れる前に立っていた位置には佐藤が普段からは想像できないような顔で立っている。
いつも陽気な佐藤からは考えられない。
「アァ?やんのかこら!オルガノイドじゃなくて直接相手になってやるよ!人間相手にオルガノイドは戦えないからな。こっちは二人だぞ!」
「くっそ・・・。覚えてろよ!帰るぞ!」
しばらく奴はその場で考えていたようで止まっていたが分が悪いと踏んだのか俺たちとは逆方向へと歩き出した。
「ふぅ・・・。白石早くクズハちゃんオルガノイドショップに持っていくぞ。ほら、手伝ってやるから」
「あ、ありがとう佐藤。助かった」
「ほら、まだ全然直る範囲だからさ。元気出せって。気持ち切り替えていこうぜ」
「お前喧嘩強かったんだな」
「いや、こんな不意打ちに強いも弱いもないだろ。ハッタリだってハッタリ」
先ほどのギョソウは面影もなく笑いながら佐藤は答える。
「お前が一緒にいてよかったよ。俺1人だったらと思うと・・・」
「弱気なお前なんて気持ち悪いって。それにしてもあんな最低なやろうがいるなんてな」
俺は佐藤に感謝をしてそれを佐藤が気味悪がりショップへ向かった。
「すみませんマスター!修理お願いしたいんですけど!」
佐藤がショップに入るなり大きな声で定員を呼ぶ。
店の奥で物音が聞こえ、少し待っていると人影が現れた。
「お、佐藤君久しぶりー。どうしたんだい今日は?」
現れたのは無精ひげが少し生えていて少しだらしのない男がが出てきた。
30代にしては若く見えるので恐らく20代だろう。
「用事があるのは俺じゃないんです。ほら、白石」
「あの、こいつを修理して欲しくて・・・」
店員にクズハを見せると店員は少し驚きながら手に取る。
「こいつはまた派手にやられたね。普通の戦いじゃこんなことにはならないはずだけど」
「はい・・・。勝負が付いたのに攻撃してこられたので」
それを聞いた店員は深いため息をついた。
「あぁ、いるよね。そういったマナーの悪い人。最近は減ってきたと思ったんだけどまだいたんだ」
「そんな人に負けたのがすごく悔しいです・・・」
「あれは仕方ないって。装備が整ってなかった上に初バトルだったんだ」
「初バトルでそんな人と戦ったのか。災難だったね」
「戦いたくて戦ったわけじゃないんですけどね。実はこいつが他のオルガノイドを庇ったんですよ」
「へえ、面白いオルガノイドだね。主人のために戦うモノは多いけど他人のオルガノイドのために戦うなんてなかなかないよ」
「でも少しは俺の言うことも聞いて欲しかったな」
「そこはお互いのことを理解し上手く制御できるようにならないとね。それじゃあこいつは預かっておくよ」
「はい、お願いします」
店員はクズハを持って店の奥に入っていった。
オルガノイドには一応自己修復機能が付いていてかすり傷や小さい凹みなどは充電しておけば元通りになる。
なにやらナノマシンがやってくれると言う話だがよくわからない超技術だ。
自己修復機能があっても部品が大きく破損したりすると流石に追いつかないらしくこういった専門のショップでの修理が必要となる。
破損っていうよりは大破って感じだったから1,2週間は掛かるだろう。
一応オルガノイドには保険がある。
こういった修理やメンテナンスは保険が利くのだ。
バトルをしていたら修理ばかりするはめになるのではないかと思うかもしれないが、ここまでな大規模な修理は滅多にないのでお世話になることは少ない。
ほとんどは自己修復の範囲内なのだ。
「よかったな。直りそうで」
「本当だ。まだクズハと会ったばかりなのにもうお別れとか嫌だからな」
「しかし修理費は高そうだ。ご愁傷様!」
こいつクズハが直ると知って遠慮がなくなったな。
いい笑顔で言ってきやがった。
「今月のバイト代全部消えたよまったく・・・。金欠だから何か奢れよ」
「まぁ、しかたないか。今回だけだからな」