第1話 始まり
世間ではオルガノイドで盛り上がっている。
どこに行ってもオルガノイド、どこを見てもオルガノイド。
帰り道、街中を見て俺、白石 正示は深いため息をついた。
学校では一応オルガノイドは禁止され、校内に入れることができないが主人のことを待ちきれないオルガノイドが校門で待っている。
世間でもオルガノイドは地位を獲得していて、不当な扱いを受けないようにロボット保護団体なるものも立ち上がっている。
そんな世間で盛り上がっているオルガノイドだが、残念ながら俺は持っていない。
男の子ならわかると思うが、ロボット同士の戦いは憧れの一つだ。
しかし量産が進んだとは言え、オルガノイドは自立型ロボットで最先端の技術が導入されている。
高額になるため気軽に親に買ってもらうものでもないし、バイトしても学生の身にはなかなか買える額ではない。
他の学生でも持ってる人はいるがそれは家族共有のものであったりして、自分の物で無い場合が多い。
でも諦めたら何も始まらないので今年から高1になった俺はバイトをしているのだが・・・。
それでも購入できるようになるには後1年はかかる計算だ。
そんな長い月日を考えればため息の一つや二つも出るものだろう。
いつものようにオルガノイドのことで思い老けていると帰宅が終了する。
そうすると玄関の前に恐らくこれから出かけるのであろう母さんが立っていた。
帰宅した俺を見つけると母さんは手招きして。
「いいところに帰ってきたわね!これから母さんはタイムセールだから行って来るわ。今日デパートにお母さんの注文したものが届いてるから今から取ってきてくれない?」
「えぇー、嫌だよ。今帰ってきたところだし」
「そんなこと言ってると夕飯がどうなるかわかってるわよね?お金は玄関に置いてあるからよろしくねー」
母さんは言いたいことだけ言って俺に気にせずママチャリに乗って走り出してしまった。
封筒に入ってるとはいえ、大金を玄関に置いておくなよ・・・。
本当ならここでシカトを決め込みたいところだが、この母親は本当に夕飯に細工する。
以前同じようなことがあり、母さんの頼みを聞かなかったらご飯の味付けが俺のだけ露骨に変えられていた。
とてつもなくマズイのだが、無理をすれば食べられるレベルまでに抑えてあり、それが食べ終わるまで席を立たせてもらえなかった。
そんな拷問にも近い教訓を思い出し、無視することはできないと考え仕方なくデパートまで行くことに。
家から自転車で20分ほどでデパートに到着。
いつものようにデパートは人で賑わっているのだが今日はいつもとは違う雰囲気に包まれている。
しかし深く考えず、頼まれたブランド品の店まで行き予約表を渡し、玄関に置かれたお金で会計を済ませる。
普段ならここで見送られるのだが、定員は更に10枚の紙を取り出し手渡してくる。
「今週からこのデパートで10周年の福引が始まりましたのでよかったら引いていってください」
福引券を手渡してくる。
なにやらデパート内のお店が商品を出し合ったらしく、ここのお店も出しているそうだ。
しかしそこはブランド品のお店なので2等でないともらえないらしい。
1等はこれまたわかり易く海外旅行券だった。
温泉旅行ではないことからこのデパートの本気具合が伺える。
1等は当たらなくても3等4等なら当たるかな?
大したものが当たらなくてもやっぱり当たりが当たればうれしいものだ。
最初は不機嫌だったが今日買い物を頼んだ母さんに感謝し福引会場に足を向ける。
「大当たり~!3等おめでとうございます!」
並んでいる最中にも当たりが結構出ている。
福引券は10枚あるしこれなら全部はずれってことは無いだろう。
「お待たせしました!福引券10枚ですね!それでは10回回してください!」
やっと順番が来て少し緊張しながら福引を回転させる。
「残念!はずれです!それではもう一度どうぞ!」
うん、そう簡単に当たるわけないか。
そして何度も回すが7回連続でハズレ。
最初から期待してなかったとしてもこれだけハズレるとちょっと凹む。
後3回ここいらで当たってほしい。
当たりを願いながら回転させる。
2,3回ガラガラと周りながら飛び出したのはハズレの白ではなく、黒。
1等が金で2等が銀、3等が赤だったはず。
ならこれは何等なんだろうと考えていると福引係の人が慌てながら鐘を鳴らす。
「お、おめでとうございます!出ました特賞です!」
「え、何ですか特賞って?」
「実物を見てもらったほうが早いでしょう。こちらになります」
「こ、これは!?」