十七歳、夏。
「何か、 今日は暑いね……」
十七の夏ーー。
私の恋が終わった。
「暑いね……」
そう言って笑った。
黙ったまま俯く彼を置いて 「じゃあね」
背を向けて歩き出した。
”恋”と言う程の物ではない。ただちょっと好きかもって思っただけ。
自分に言い訳をした。
「ごめん……」 ポツリと言われても、こっちが惨めになる。
別に付き合ってた訳じゃない。そんな顔しないでよ。
蝉の鳴き声がうるさい。夏の太陽も本当腹立つ。
何でこんなに今日は天気がいいの?
生ぬるい風が吹き、着ているワンピースの裾を揺らしては汗だくの足に貼りつく。
叶わぬ恋もある。
手をかざし、空を見上げた。
青い空が広がり、虚しさが増す。
風井晴香 十七歳。都立高の二年生。普通の女子高生。
私を振った相手。中里達也
ハタチ。都内専門学生。
私の高校の友達の彼氏の友人。
余り男性とは縁のない私を思い、彼氏の友人を連れてきた。
単なる遊び仲間。学校帰り、四人で遊ぶ様になり、ハタチの彼が大人に見え、いつしか芽生えた別の想い。
しかし儚くも散った叶わぬ想い。
最初から分かってたんだ。私は唯の友達だって。良く遊ぶ友達……。
だけど、抱いてしまった別の想い。
出会いは半年前。
学校帰りに友達のまゆが言った。
「今から彼に会うんだけど、 あんたも来ない?」
「は? やだよ。 何で?」
「彼の友達も来るんだ」
突然言われて驚いた。
「また急だね……」
「まあいいじゃん。 今から会うから一緒に行こ」
半ば強引に連れて行かれた待ち合わせの場所。
「お待たせ。 連れて来たよ」
「おー! 来たか。 こんにちは晴香ちゃん。 あ、 こっちオレの友達ね」
「どうも……。 中里達也です。 や、 いいね。 女子高生は」
人懐こい笑顔で挨拶をした。
「風井晴香です……」
ハタチって大人なんだよね。
第一印象は、同級生と大して変わらない感じだった。
「今日何処行く?」
「冬の海がいい!」
まゆがはしゃいでそう言った。
「寒いしやだな……」
まゆの彼氏はとにかくでかい。
なので思い切り見上げて言った。
「車だよ? いいじゃん」
「分かったよ……」
仕方ない。まゆの彼氏の車に乗り込んだ。
運転はまゆの彼氏。助手席はまゆ……。
初対面の中里さんと私は後ろの席に座る。
余り慣れないな。男の人……。
そんな思いを乗せ、車は走り出す。
私達は制服のままだが、まあいいか。
暫く走り海へ到着。
やっぱり寒い……。
「コート貸そうか?」
「いえ、 大丈夫です」
最初は余り話さなくて。て言うか話せなくて。
でも何度か遊んでいる内に、仲良くなった。
私一人で彼の家に遊びに行く事もあったし。
四人で色々遊びに行ったし。
それがいけなかったんだ。
勘違いしてしまったんだ……。
色々遊んで半年後。私は告白することにした。
「当たって砕けるから。 慰めてね」
「砕けておいで」
休日彼を呼び出した。
待ち合わせ場所は近くの公園。
「どしたの? 急に」
「あの! ずっと好きでした……」
そう言って終わった。
「ごめん……」
一言で幕を閉じた。
砕けて粉々になった私の気持ち。
どうくっつける?
「当たった。 砕けた」
「そっか……。 よくやった」
友達に慰められて。暑い夏は終わりを告げる。
「泣くなら泣きなよ?」
「泣かないよ……」
涙は出ないが汗が流れて、しょっぱい。
「本当腹立つくらい暑いよ」
私の十七歳の夏。
見事に砕けて散った。