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お嬢は恋するお年頃  作者: ほづみゆうき
~第一章~
13/17

サプライズ・ゲスト? ~柊木side~

「安心する、か……お嬢の奴、無駄に期待させやがって」


 俺は病室のベッドに横になり、ボーッと天井を眺めながら呟いた。


 ちなみに、お嬢はちょっと売店へ行ってくると言い残して出掛けたから、今は自分一人である。


 とはいえ、ムキになった時に言ってくれたお嬢の気持ちは正直嬉しかったし、個人的にお袋よりもお嬢に世話を焼いてもらった方が、俺的にはイイに決まっている。


 だが、旦那様の気持ちを考えると……素直に甘えられないんだよな、これが。


 昨日の帰り際に「何かあったら、楓に頼めばいい」と言って下さったが、それじゃあ俺の立場が逆になってしまう。


 おまけに「本人が行きたいって言うて聞かへんねや」と今朝方も旦那様から電話がかかってきて、半ば困ったように話されていた。


 まあ、あの様子だと何を言っても無駄だろうし……今回は甘えさせてもらうかな。


 俺があれこれと考え事をしていると、ふいにガラガラと入口の戸が開く。


「ん?もう戻ってきたのか?早いな……」


 その方向に顔を向けると、ふいに視界が暗くなった。


「要、大丈夫なのっ!?もう怪我して入院したって聞いてびっくりしたわよぉーっ!」


「え?」


 お嬢じゃない、別の女か?


 というか、何処かで聞いたことのある声……のような。


 ムギュッ!!


「うぐぐっ……」


 そのうちにも、部屋に入ってきた女は俺の後頭部に両腕を回し、あろう事かそのまま抱きついてきたのだ。


 すっ、すげえ力だ……おまけに香水の匂いも鼻をつくし、たちまち息が詰まりそうになる。


「だけど、元気そうでよかったわ……」


 抱きついてきた女が、ホッとしたように呟いた。


 いやっ、だから俺は息苦しいんだって!


 俺は片腕で無言の抵抗をする。


 ガラガラガラ。


 再び戸の開く音がした。


 こっ、今度こそお嬢かっ!?


「ん?アンタ誰?」


 こっちだって聞きてえよ。


「あっ、あなたこそ誰よっ!」


 驚いたようなお嬢の声がした。


 そんな話は後でいいから、とりあえず俺を早く自由にしてくれっ!


「それよりも、まずは柊木さんから離れなさいよ」


 そうだそうだ!頑張れ、お嬢っ!


「何よ、偉そうに!要とどういう関係!?」


 その女がお嬢に気を取られて少し力が弱まった隙に、俺はグイッと身体を押し出した。


「ぷはあーっ」


 ようやく解放された俺は、突然やってきた女を見上げる。


「……って、お前……」


「うふふっ。お久しぶり、要」


 腰まで伸びた金髪、厚化粧、ピッチピチのミニスカート……そして、見た目とギャップが激しすぎる低い声といえば。


「……あ、愛梨(あいり)、か?」


「柊木さん、この人と知り合いなの?」


 お嬢が怪訝な顔で俺を見る。


「知り合いですって?アンタが誰だか知らないけど、私と要は知り合いどころか、ずーっと昔からの特別な関係よ!」


 その女こと愛梨は、ほぼ人工的に作られた細い眉をつり上げて怒る。


「ずっと昔からの関係?」


「ああ。こいつは愛梨と言って、まあ何かと世話になってるオ○マちゃんだ。ちなみに、愛梨ってのは源氏名だけどな」


「え?おっ、オ○マ!?」


 お嬢が驚いたように目を見開いた。


「ち、ちょっと要!今時、その表現は古すぎるわよっ!今はニューハーフよ、ニューハーフっ!!」


「お前、自分がオ○マちゃんって認めてんだ」


「……人の話、聞いてんの?」


 俺と愛梨の会話を、お嬢はただポカンとした表情で見つめている。


「おっと、いけね。愛梨、紹介するよ。彼女が新堂楓さんだ」


「あっ、どうも……初めまして」


 お嬢は愛梨に向かって軽く頭を下げた。


 すると、愛梨はお嬢の全身を上から下まで舐めるように眺め、


「……ふうーん。アンタがこの頼れるナイスガイ要をフった()なの?へえーっ……」


 と皮肉をたっぷり込めて言う。


「フった?それはどういう事ですか?」


 お嬢も負けじと言い返した。


「じゃあアンタ達は付き合ってんの?」


 愛梨の意外な言葉に、俺とお嬢は顔を見合わせる。


「はあ?何でそんな話になるんだ」


「あら、意外な反応。私の情報網をバカにしてもらっちゃ困るわね」


 そう答えて、愛梨はフフンと得意気に笑った。


「……誰だ?そんなガセネタたれ込む奴は」


「私は、要に悪い虫がつかないように見守ってあげてるの。それでなくても、こんな野育ちのようなお嬢様の世話なんか引き受けちゃって、いい加減呆れてるっていうのに……」


 愛梨は天井を仰ぎ見ながら溜め息をつく。


「野育ちは失礼じゃないですか?」


「だってそうでしょ?あの新堂グループ会長の一人娘っていうから、さぞかし品行方正なお嬢様だろうと期待して来てみれば……ガックリだわ」


「おい、それは言い過ぎだろ」


「要も、こんなお嬢様のどこがいいの?私には理解出来ないわ!いつまでも子供の頃の淡い思い出なんか引きずっちゃって……」


「え?」


 お嬢が、一瞬驚いた顔を見せた。


「おっと、愛梨。何を言っているのかな」


 俺はさり気なく止める。


「あらまあ……秘密だったの?」


 愛梨はさも驚いた顔をした。


「淡い思い出って?」


 お嬢が俺の顔を見る。


「そんな事言ったか?聞き違いじゃね?」


 笑ってごまかすと、


「別に隠すことないんじゃないの?」


 愛梨がさらにけしかけてきた。


「しつこいぞ」


「……そんなに言うなら、内緒にしといてあげるけど」


 愛梨は笑いながらクルリと踵を返す。


「内緒って?」


 お嬢が再び訊ねてきた。


「気にすんなっ」


 俺は病室を出ようとする愛梨の後ろ姿を睨みつける。


「ま、そのお嬢様と仲良くするのはどうかと思うけど。せいぜい後悔しないように気をつけてよね」


 愛梨はそう言い残すと、ヒラヒラと片手を振りながら病室を後にした。



「……ったく。何しに来たんだ、アイツは」


 お嬢に背を向けながらベッドに横になる。


「柊木さん。あの人の話って……」


「お嬢もしつこい。もう忘れろ」


「……あたし、三崎さんに聞いたの。お父さん達が同級生だって……それと、小さい頃に柊木さんと三崎さんに会って遊んだ事も」


「……それは、良介が言ってた話だろ」


「ううん。その前に聞いてた」


 お嬢がポツリと答える。


「でも、いまいちピンと来ないんだろ?」


「……」


 返答のないお嬢の反応に、俺は小さく息を吐いた。


 いいんだ、別に。


 あんなガキの頃の口約束なんて、所詮はこの程度なのさ。


「だけど……あたし、柊木さんと何か約束をしたような気がするの」


「えっ?」


 お嬢の思いがけない発言に、俺は思わず上半身を起こそうとして、


「いっ、痛ってえ……」


 同時に、痛めている左肩に力が入ってしまい顔をしかめる。


「だ、大丈夫っ!?」


「……一瞬、怪我してたの忘れてた」


 ううっ、涙出そう……。


「昨日の今日だから、まだ安静にしてなきゃ駄目よ」


 お嬢が俺の身体に布団をかけながら言った。


「それもこれも、皆アイツのせいだっ」


「そうよっ!あたしもそれは同感だわ。野育ちだなんて失礼極まりないし」


 お嬢は頬を膨らませる。


「まあ、一概に否定は出来ないか」


「ち、ちょっと柊木さんっ!?」


「だけど、俺は今のままのお嬢で良いと思うぞ」


 そう言って、俺はフッと笑った。


「ホントに?」


「ホントホント。お嬢はそのままで十分可愛い」


「や、やだっ、改めて言われると照れるじゃないっ!」


 ペシッ!


 お嬢は顔を赤らめながら俺の肩を叩く。


「いっ、痛ってぇー……」


 しかも、よりによって怪我してる肩ときた。


「ああっ!柊木さん、ごめんなさいっ」


 慌てて謝るお嬢を、俺は涙目で訴えるように見つめる。


「だ、大丈夫っ?……じゃないよね」


 心配そうに見つめるお嬢の顔がすぐ目の前まで迫ってきた。


 お、おいおいっ。


 怪我してなかったら逆に押し倒すところだが、今は残念ながら出来ない。


 というわけで。


「……そうだな。このままキスしてくれたら許してやってもいいぜ」


「じ、冗談っ!」


 お嬢の身体が弾かれたように俺から離れる。


 うーむ……まだ無理か。


 そう思いながらも、何だか顔がにやけてしまう俺だった。



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