運命の出会いはベッドの上で
「おい、朝だぞ。いい加減起きろっ!」
そんな男の人の声が耳に入ってきて、あたしはぼんやりと目を開けた。
うーん……。
パチッ。
「……っ!?」
そして、あたしの目は驚きでさらに大きく見開く。
てゆうか、この人誰っ!?
ガバッ!!
朝から思いっ切り腹筋を使って、あたしは寝ていたベッドから飛び起きた。
見事なまでの寝起きの顔にボサボサの乱れきった髪型になっているあたしを、ニヤリと意地悪そうに覗き込んでいるのは明らかに見知らぬ男の人だ。
その男の人は、見た感じあたしよりちょい上の二十代半ばぐらいだろうか、決してイケメンとはいえないが、黒のスーツをピシッと着こなしている姿を見る限り、多少なりともマシに見えたりするから不思議だ。
どうやら、ややタレ目なところが点数を下げている原因か……なーんて、のん気に考えている場合じゃなくて。
「ちょ、ちょっと!あんた誰よっ!!」
かなり出遅れて、あたしはようやく反撃モードに入った。
「あーあ……開口一番それですか」
そのタレ目顔の男は、さも残念そうに呟いた。
「か、勝手に人の部屋に入ってきて、そっちこそ失礼じゃないかって言ってんのよ!」
しかも、いつの間に入って来たのやら。
「……なかなか気の強いお嬢様だね。とりあえずは着替えてくれるかな?詳しいことは、後で旦那様から話があるってことだから」
あたしの反撃に全く動じる様子も無く、そのタレ目顔の男は淡々と答えた。
うぐぐっ……仮にも初対面なのに、この偉そうな態度は何って言いたい。
「わ、分かったわよっ!支度するから待ってて」
あたしはベッドから立ち上がると、奥にあるクローゼットへ向かう。
「了解。じゃあ、ここで大人しく待たせてもらいましょうかね」
そう答えながら、さっきまであたしが寝ていたベッドに座ろうとしたもんだから、
「ええーっ!何でそこなのよっ!」
と言いながら慌てて戻るあたし。
「は?待っててと言ったのは、そっちだろう」
当然とでもいうように、そのタレ目を少しつり上げて言い返してきた。
勝手に部屋に入られていただけでも気に入らないのに、着替えるところまで居座られたんじゃ、こっちはたまったもんじゃないってのっ!
あとで、お父さんにたっぷり説教してもらわなきゃ!
あたしは、タレ目顔の男の背中を全力で押しながら、やっとのことで部屋から追い出した。
新堂楓、十八歳。
高校生活最後の夏休みは、こうして最悪のスタートを迎えることとなった。