俺をそっと見守る子が、とてつもない誤解をしているようです。
「よし、今度こそ恋人作ってみせる!」
高らかにそう叫んで、拳を天に向ける。これ、何度いってるだろう俺。
見た目不良に見えるらしい、黄金に輝くツンツンヘアースタイルの俺、佐伯 誠は花も恥じらう高校二年生である。時々、他校の不良に絡まれたりするが、逃げ足と匍匐前進が速いので何とか切り抜けて生きている。
決して不良ではない、ちょっとおしゃれに気を使ってる普通の男子高校生だ。
さて、高校に入って一年ちょっとが経過、もう二年生になるわけだが未だ彼女いない歴16年と少しを更新中。あぁ、周囲には同級生同士付き合ったりいちゃいちゃしたりしてる奴とか、甘いオーラいっぱいの奴がいるのだから腹が立つ。
こんな状況で、焦るのも仕方ないだろう!
しかし、しかしだ。
いつも告白しようとするとその相手には恋人がいたり、または好きな人がいたり、相手の好きな人が人ではなかったりで、なんでか俺の恋は告白する前に玉砕する。
でも、めげない諦めないところが俺のいいところだと自負している。
「諦めない佐伯君素敵だわ」って言ってくれる女子が隅っこのどこかにいるかもしれない。もしかしたら、それで告白とかされちゃったりしてとか考える。なんてことを随分前、親友に言ったら物凄く可哀想なものを見るような目を向けられた。何故だ、そんな夢見ることすらおかしいって言うのか?!
「いい、誠くん。恋する気持ちを忘れたら、一人寂しい老後とかになって後々大変よ。さっさと結婚して家庭を築いときなさいね」と言うのは、隣のお姉さんの言葉だ。
「……」
実は、そのお姉さんが俺の初恋の相手だったりする。お姉さんは十年前に結婚してしまって、見事に俺の恋は告白する前に終わってしまった。真っ白なウェディングドレス姿で微笑むお姉さんの姿は綺麗で、今でも色鮮やかに思い出すことができる。
精一杯の笑顔でおめでとう言いながら、心では泣いていたっけ。
しかし、それだけでは終わらない。あろうことか、花嫁さんのブーケトスが俺の手に落ちてきてしまったのだ。独身女性たちが血走った眼でブーケへと手を伸ばす中、ポツンと離れた場所に立っていた俺の方へ。
お姉さん、あれは振りかぶりすぎだよ。どうしてそんな頭が地面につきそうになるほど勢いよく投げるかな。横で花婿のむかつくアイツが呆れたように笑っていたのもまた腹立つ。けど、ブーケを手にした俺に対し、お姉さんが「誠くんが素敵な子と幸せになってくれるよう願ってるからね」って言われたら、何が何でも幸せになってお姉さんによかったと言ってもらいたいって思ってしまったのだ。
「……なんて、思い出に浸ってる場合じゃないな、今回こそ告白成功して恋人作ってやる」
そんなわけで、俺は初恋の人の願いでもある幸せへとまっしぐらに突き進むため、告白へと全力投球だ。
あぁ、そろそろ片思いの相手がこの中庭を通るはず。
今回一目ぼれした相手は園芸部に所属する同学年の白石 レティシアさんだ。外国人と日本人のハーフらしい。大きな碧眼にふんわり波打つ長い黒髪を腰元まで揺らしたお嬢様風な女の子で、ひそかに男子生徒から人気がある。
彼女との出会いは、つい今朝のこと。
とある女子生徒へ、告白する前に見事玉砕し泣いていた俺に、そっとハンカチを差し出し「佐伯君のめげない勇気、私もみんなも見てて励まされてるわ」と言ってくれたのだ。ほら、いただろ?! 陰でこっそり俺のこと見て、認めてくれる子! 相手から告白されるまでは至ってないけど、妄想も当たるものだと胸を張って親友に言ったらすっと視線を逸らされた。
それも物凄く青い顔されて、何故だ。問い詰めようとしたら周りにいた男子同級生たちが肩を叩いて生温かい目を向けてきた。教室の隅では女子たちが俺たちの方を見て「やっぱり、そうよ」「わかるわかる、そう思っちゃうよね」とか何か楽しそうに言って騒いでるのも意味が分からない。
真っ青な顔する親友が心配で声をかけようとしたものの、今はそっとしとけという同級生たちの言葉に渋々頷いて、お昼時、人生で何十回目かの告白へとやってきた俺。
「……彼女なら俺の気持ち、受け止めてくれるはず!」
今度こそ、今度こそ決めてやる! 出会いも悪くなかったはず、どちらかというとあちらは俺のこと悪い印象で捉えてなかったみたいだし、すぐに恋人は無理でもまずは友人からというカタチにこぎつけれるように。
「あら、佐伯君? こんなところでどうしたの?」
「ししし、白石!」
あぁ、しまった。
こちらから声をかけるはずがあちらに気づかれて声かけられてるとか! せっかくかっこよく行こうと思ってたのに出だしからポカやらかしてしまった。頭を抱えてしゃがみこむ俺を彼女が心配そうな雰囲気で顔を覗き込んでくる。あぁ、距離が近い。いま、きっと俺の顔は真っ赤だ。なんでって、好きな相手が不意打ちに現れてこんな近い距離とか、平然となんかできるはずもない。
すると、微かな甘い香りとともに、ふふっと可愛らしい笑い声が届く。
「もしかして、またフラれた? 大丈夫、佐伯君のこと傍で見守って思ってくれる友人がいるじゃない」
「……あっ?」
「素敵よね、恋する気持ちへ真っ直ぐな佐伯君もそれを支える木瀬君も」
「…………木瀬?」
「あっ、ごめんなさい。外野がよけいなお節介やいちゃだめね。でも、佐伯君は恋に玉砕しても素敵な友人が近くにいるんだから幸せだと私は思うわ」
「じゃあ、めげずにまた告白頑張って」と去っていく彼女に、俺は口をぽかんっと開けたまま見送る。なんだろう、励まされたのに何か嫌な汗しか出ない。ぐるぐると回る思考の中、ぽんっと肩を誰かに叩かれる。驚いて振り返ると、さっき青い顔をして視線を逸らした親友の木瀬 歩が立っていた。とても複雑そうな顔で。
「……あゆむん」
「そのあゆむんって呼び方やめろよ。まぁ、それはともかく、いいか? 今、あの女子生徒に言われた言葉は忘れろ。お前は好きな女子にまっすぐ突き進めよ。振り返るな」
「はっ?」
親友が珍しく真剣に熱い言葉を投げかけてくる。いつも告白するって言う俺に冷たい目を向けて適当に相槌打つこいつが。俺の真っ直ぐな気持ちをわかってくれたのかと嬉しくなって、涙目で抱きつこうとすると物凄い勢いで離れられた。
なんでそんな数メートルも後ろに下がるんだよ? めっちゃ傷つくんだけど。
「あゆむん、なんで離れる」
「お前が飛びつこうとしたからだろ!」
「なんだよ、告白できなかった俺を励ましに来たんじゃないのかよ」
「あぁ、まぁ、背を押しに来ただけだから。俺じゃなくて相手に向かっていけ、じゃないと更にめんどいことになる」
最後の方は声が低くて何を言ってるか聞き取れないが、とりあえず、俺の恋への気持ちは応援してくれるようだ。
「よし、次こそいくぜ!」
「あー、はいはいー」
「さっきは応援してくれたくせに、声が冷てぇなあゆむん!」
「あゆむんやめろ、近づくな、前を行けよっ」
「なんだよ、ひでぇな」
また少し、顔を青くして不機嫌になる親友に首を傾げつつ、我が教室へと向かう。
とりあえず、彼女には告白する前に誰かへの告白玉砕したと勘違いされてしまったけど、まだ、好意的に見えたし大丈夫なはずだ。
「よし、明日こそ彼女に告白する!」
「がんばれ、さっさと成功してくれないと俺が安心できないから」
「あぁ、あゆむんの想いに応えるためにも頑張るさ!」
「……おまえ、その言い方やめろって。だから周りが誤解をさ」
「はっ? なに? 遠くて聞き取れないんだけどあゆむんー」
「近寄るな、今は前を行け、さっさと行ってくれたのむ」
そんな俺たちのやり取りをこっそりと彼女が影から見守ってたことに、気づかない俺と気づいていたらしい親友。
「やっぱり、友情が愛情にかわる日が近いわ、応援してるわ! 佐伯君」
なんて、頬を赤らめてみてたなんて。
あらぬ誤解に俺が顔を真っ青にして親友に泣きつき、恐ろしい顔で平手で張り倒されるのは数日後。
そして、何故か親友を巡る恋のライバルと勘違いされて、猫耳少女に威嚇される日々が始まるのである。
俺の恋を応援するのもいいけど、自分の方もどうにかした方がいいと思うぞ、あゆむん。




