第七章:星組の囁きと「変革の星」
地下都市の最奥、湿った空気に満ちた廃天文台のドームが、「星組」の秘密の聖域だった。ドームの天井は破壊され、代わりに無数の精密な光学レンズが設置されており、昼夜を問わず星の運行を監視していた。
中心には、組織の預言者であるトキコが座っていた。彼女は全身を紫のローブに包み、肌はしわくちゃだが、その瞳だけは異常なほど鋭い輝きを放っていた。彼女の目の前には、古代の星座図と最新の軌道計算ホログラムが重ねて表示されている。
「…来た、来たわ。あのB型。彼は動いた」
トキコは、低い唸り声のような声で呟いた。彼女の助手である、穏やかな顔つきの青年、オリオンは、静かに記録を取る。彼らにとって、サトシの行動は、単なる階級破りの青年の逃亡劇ではない。それは、宇宙が定めた「変革の時期」の到来を告げる、必然的な事象だった。
「サトシの誕生チャート。血の革命の混乱期に、正確に『王座の星座』が地平線に昇った瞬間に生まれている。これは、支配構造を破壊し、新たな『星の統治』をもたらす者の証」
トキコは、水晶玉ではなく、サトシがA型の女性と愛を交わした現場の盗撮映像を映し出していた。
「血の概念に囚われる愚かな者たちよ。彼の真の運命は、血に定めることなどできはしない。彼こそが、我々が待望した『ルミナリエ(導きの光)』だ」
彼らは、カオリのAB型という真の血液型にも気づいていたが、それすらも「星の運命」の壮大な筋書きの一部として解釈していた。AB型という「すべての血を受け入れる」特性は、彼らにとっては「すべての星座を統合する」象徴に他ならなかった。
トキコは、オリオンに命じた。
「骨髄外科医や白の組織のような俗物に、彼を捕まえさせてはならない。彼らはサトシの血や愛を利用しようとしているが、我々は彼の魂、彼の『星の使命』に触れる」
「どのように接触を?」オリオンが尋ねる。
「カオリは今、逃亡中だ。そしてサトシは、彼を闇の世界へ引き込もうとする女、タカコと共にいる。サトシは今、『天秤の時期』にある。彼は選択を迫られるわ」
トキコは、不敵な笑みを浮かべた。
「タカコは、サトシを闇市場の取引現場へ連れて行くはずよ。そこで、我々のメッセージを届ける。彼の目を血の現実から、星の真実へと向けさせるのだ」
オリオンは頷き、聖域の奥へ消えていった。彼の任務は、サトシがカオリを探す道の途上、最も心理的に追い詰められた瞬間に現れ、「君の愛は血の運命ではなく、星の運命によって定められている」と囁きかけることだった。
星組は、サトシが持つ純粋な愛と、彼が生まれ持った「変革の星」の力を利用し、彼を血の呪縛から解放する代わりに、彼を宇宙的な規模の支配計画の旗手へと仕立て上げようとしていた。彼らの目論見は、サトシの心を血の絶望から救い出すように見せかけながら、最終的には彼を「血の革命」を上書きする、さらに巨大な狂気の主役へと変えることにあった。




