第六章:サトシに注がれる視線
サトシはタカコに導かれ、血の階級社会の闇へと足を踏み入れた。B型という一般的な労働者階級であった彼が、突如として最高幹部の娘(元A型、現AB型)の逃亡事件の中心人物となった事実は、水面下の組織にとって、無視できない大きな波紋を広げていた。
彼らは、それぞれ異なる理由で、サトシという「駒」に熱い視線を注いでいた。
「白の組織」は、血液型という概念そのものを無価値にする人工血液「ユニバーサル・ブラッド」の開発と普及を目指している。彼らは理性的で、感情的な反乱よりも、科学と平等に基づく社会変革を志向していた。
彼らにとって、サトシは理想的なプロパガンダの素材だった。
「彼こそが、我々の訴えるべき、真の階級を超えた愛の象徴だ」
彼らのリーダー、元大学病院の血液学者であるイイタカは、モニターに映るサトシの映像を鋭く見つめていた。
「B型労働者階級の青年が、A型の特権階級の女性を愛した。これは単なるスキャンダルではない。『血の壁』は、愛の前には無意味であるという、最も強力な証拠だ」
白の組織は、サトシを救い出し、自分たちの理念を世界に訴えるための広告塔として利用しようと考えていた。
「彼とカオリを保護し、その愛を公表するのだ。我々の『ユニバーサル・ブラッド』があれば、彼らは血液型という鎖から解放される。彼は、血統主義を否定する我々の運動に、感情的な共鳴と大衆の支持をもたらす触媒となるだろう」
しかし、彼らはサトシの行動力や、タカコという謎の人物の介入を警戒していた。彼らにとって、サトシは純粋で理想的な「犠牲者」であってほしかったのだ。
「骨髄外科医」は、倫理を捨て、巨額の利益のために非合法な血液型変換手術を行う闇の組織である。彼らは、血液型の希少性と社会的な価値を取引の材料として見ていた。
彼らにとって、サトシは、カオリという「希少な獲物」を釣り上げるための、安価で便利な餌に過ぎなかった。
「カオリの血液型はAB型。あの血は、金になる。彼女は、我が組織の支配力を飛躍的に高める、究極の資源だ」
組織の元締めである冷酷な闇医師、ドクター・シマダは、細い指で葉巻の灰を払った。
「カオリの父親がA型政府の最高幹部であるという事実も重要だ。彼女を人質に取れば、我々は最高機密の骨髄ドナー情報や、手術に必要な規制緩和を引き出せる」
サトシはB型であり、彼自身の血には市場価値はない。しかし、彼はカオリに深く愛されている。
「サトシを泳がせておけ。奴はカオリを探すために、必ず情報を求めて闇の世界に接触してくる。その時、『カオリの安全を保証する代わりに、我々の支配下に置く』という条件を突きつけるのだ」
彼らはサトシの純粋な愛を利用し、彼をカオリとの再会という希望で繋ぎ止め、組織の意図しない行動を取らせないよう、徹底的に制御下に置こうと画策していた。
「星組」は最も異質な組織であり、「血の革命」を単なる通過点と見なしている。彼らは、個人の運命は血液型ではなく、誕生星座によって定められているという、オカルト的な教義に基づいている。
彼らにとって、サトシの「血」は関係ない。重要なのは、彼が持つ「星の配列」だった。
「あのB型の青年は、我々が待望していた『変革の星』の時期に生まれた。彼の行動は、宇宙の意志によって必然的に導かれている」
星組の預言者、ミセス・トキコは、水晶玉を覗き込み、サトシの誕生チャートを解析していた。
「最高幹部の娘と恋に落ち、血の壁を打ち破ろうとする。これは、階級制度を破壊し、我々の『星の支配』を確立するための最初の導火線だ」
星組は、サトシを単純に利用するのではなく、彼を「神の意思によって選ばれた者」として神聖視し、彼に彼らの教義と行動を刷り込もうとしていた。
「サトシを我々の聖域へ導け。彼に、彼自身の『星の運命』を悟らせるのだ。彼は血の支配を崩壊させ、その後、我々が計画する『星座の王冠』を被るための先鋒とならねばならない」
星組は、サトシを「血」の呪縛から解放し、「星」の使命を与えることで、彼を組織の中核として迎え入れ、最終的な世界制覇のための旗頭にしようとしていた。
サトシは、自分が知らぬ間に、この三大組織の思惑の中心に立たされていた。彼の愛、彼の運命、そして彼自身の存在が、それぞれの組織の野望と密接に絡み合い、物語はさらに複雑な様相を呈し始めるのだった。




