第四章:血の裏側、カオリの秘密
ある夜、カオリの部屋の堅固な電子ロックが、突然無音で解除された。入ってきたのは、指導員ではなかった。
「カオリ様、お迎えに上がりました。」
現れたのは、A型の制服を着た男だったが、その目は指導員たちの持つ冷たい狂信的な光とは違っていた。男はカオリの父、すなわちA型政府の最高幹部の一人に仕える忠実な部下であった。
「お父上が、貴女をここから連れ出すよう命じられました。急いで。」
カオリは立ち上がろうとしたが、体力の限界で足がもつれた。
「なぜ…父が?」
カオリの父は、階級制度の熱心な支持者であり、娘がB型と交際したことを知れば、彼女を破門にしてもおかしくない人物だった。
連れ出された先は、矯正施設ではなく、父が秘密裏に使用する、厳重なセキュリティに守られた隠し部屋だった。そこで待っていた父の顔は、いつも公の場で見せる冷徹な表情ではなく、疲労と不安に満ちていた。
「カオリ…許してくれ。だが、私はお前をここから出すことはできない。」
父はそう言うと、一枚の古びた書類を彼女に差し出した。そこには、革命以前の、カオリの本当の出生証明が記されていた。
カオリ:血液型 AB型
カオリは書類を見て、震えが止まらなかった。
「うそよ…私はA型よ。生まれた時に検査したわ!」
「あれは偽装だ…」父は低い声で言った。「『血の革命』が起こる前、私は極秘裏にこの制度の真の目的を知った。A型が支配層であることは建前だ。真の目的は、AB型という不安定で稀少な血液型を完全に隔離し、支配層の血統に組み込むことだ。」
AB型は、すべての血液型と関係を持つことができる、ある意味で「特別な血」だった。政府はAB型を最下層に落とし、その才能や遺伝子を完全に制御下に置こうとしていたのだ。
「お前は、この革命の裏側にある、真のAB型支配計画に必要な鍵だった。だから私は、お前をA型として育て、あらゆる特権で守り、目立たないようにしてきたのだ。」
カオリは頭が真っ白になった。愛したサトシはB型、しかし自分はAB型。血の壁は、彼女が思っていた以上に、二重、三重に張り巡らされていたのだ。
「サトシとの関係が発覚したとき、彼らはすぐに気が付いた。私がお前を守るために仕組んだ、A型としてのカオリという偽装が崩れたと。彼らは今、お前の真の血液型の秘密を暴き、支配計画の中心に引きずり込もうとしている。」
父は、震える手で小さな通信装置をカオリに渡した。
「これをある人間に渡しなさい。そいつは、この血の体制の不純さを知っている。お前と、そして…あのB型の青年の命を救う、最後の希望だ。」
父は、自らの命を懸けて娘を逃がそうとしていた。しかし、その時、隠し部屋の扉が爆音と共に吹き飛んだ。
「最高幹部殿。娘の隠蔽と、階級反逆者との交際は、血の純粋性に対する重大な裏切りとみなします。」
突入してきたのは、A型政府直属の、血統主義の最右翼である「純血監視隊」だった。
「行け、カオリ!生き延びるんだ!」
父の悲痛な叫びを背に、カオリは通信装置を握りしめ、爆発で開いた壁の穴から、夜の闇へと飛び出した。
カオリは、自分自身がこの「血の革命」の、最も重要な秘密を握っていることを知った。サトシに会いたい一心と、偽りのA型ではなく、真のAB型として生きるという覚悟を胸に、彼女の逃亡劇が始まった。




