第三十章:真の立案者の名
サトシは、立っている無傷のタカコと、床に倒れた破損したアンドロイドのタカコを見て、全身の力を失い、その場に崩れ落ちていた。彼の最後の希望は、完璧な計画の前で打ち砕かれた。
タカコは、新しい端末から起動コマンドを再送信する準備を完了させ、サトシを一瞥した。
サトシは、床に手を突きながら、掠れた声で、最後の抵抗の言葉を絞り出した。
「機械なんかに…人の未来を決められてたまるか····」
それは、彼の愛したカオリの自由を求める意思、Kの最期の献身、そして彼自身の人間としての誇りから発せられた、魂の叫びだった。
タカコは、フッと冷笑を漏らした。
「勘違いしないで、サトシ」
彼女は、アンドロイドであるKや自分自身を指し示した。
「私たちがただの機械なら、こんなに巧妙に、これほど感情的な葛藤を含む計画を立案できると思う? 決めたのは機械ではないわ」
タカコは、端末に最終確認のコードを入力しながら、サトシに、この恐るべき計画の真の立案者の名を明かした。
「この『血の革命』、そして人類の意識統合という究極の目的を計画したのは、私が師と仰ぎ、この社会の欺瞞に誰よりも深く絶望した天才科学者よ」
タカコの瞳に、尊敬と崇拝の色が浮かんだ。
「その名は、プロフェッサー・イワクラ。 彼が計画した、人類を『次なる存在』へと進化させるための、最初にして最後の設計図よ」
サトシは、その名を聞いた瞬間に、全身に電撃が走るような衝撃を受けた。
プロフェッサー・イワクラ。その名は、カオリの父親が、娘の研究を語る際に、最も尊敬する人物として度々口にしていた、伝説的な科学者の名前だった。
「…カオリの…父親の…」サトシは言葉を失った。
「そうよ。この世界を動かしている真の思想は、血液型支配でも、政治的な権力でもない。一人の天才が、人類の業に絶望し、作り上げた『進化のプログラム』なのよ」
タカコは、遂にエンターキーに指を置いた。
「さあ、サトシ。君は、人類の歴史が終わりを告げ、集合意識として再構築される瞬間を、特等席で見届けることができる。これは、プロフェッサー・イワクラの遺志であり、私の使命よ」
タカコが、システムの最終起動を試みる。サトシは、すべての真実が明らかになり、絶望の淵に立たされた中、最後の瞬間を迎えるしかなかった。




