第二章:謎の女、タカコ
数週間後、仕事を解雇され、絶望の淵に沈んでいたサトシの前に、一人の女が現れた。
薄暗いバーのカウンター。グラスを傾けるサトシの隣に、彼女は音もなく座った。全身を黒い合成繊維のコートに包み、鋭い眼差しを持つ、年の頃ならぬ女性。
「随分と、虚ろな目をしているわね。B型の下っ端が、A型の女に手を出した報いかしら?」
サトシは飛び上がった。自分の秘密を、この女がなぜ知っている?
「あんたは…誰だ?」
女はグラスを回し、サトシを射抜くように見つめた。
「タカコと呼んで。そして、あなたの『なぜだ!』という叫びの答えを知っている人間よ。」
タカコは静かに話し始めた。その声は、重厚な真実を運ぶようだった。
「この世界は、あなたが見ている血の階級だけがすべてではない。水面下では、無数の組織が血の壁を打ち破ろうと動いている。」
タカコはサトシの顔の前に、ホログラムの画像を映し出した。それは、薄暗い手術室の映像だった。
「一つ目は『骨髄外科医』。闇の医師団よ。彼らは、莫大な金を積んだ者に対して、非合法な骨髄移植による血液型変換手術を行っている。O型がA型に、B型が特権階級に成りすまそうとしているわ。」
次に、白いマスクを被った集団のシンボルが現れた。
「二つ目は『白の組織』。彼らは、血液型に関係なく誰もが使える人工血液『ユニバーサル・ブラッド』を開発し、血液型の価値を無意味にすることで平等を訴えている。政府にとって最も危険な存在よ。」
そして最後に、星が絡み合った、異様な紋章が示された。
「そして最も異質なのが『星組』。彼らは『血』ではなく、誕生星座こそが人類の真の運命を決定すると信じている。この星の配列を利用して、階級も血液型も関係なく、世界を支配しようと画策している狂信者たちよ。」
タカコはホログラムを消し、サトシの胸元を指で突いた。
「カオリはただ、血のルールに違反しただけではない。彼女は、この蠢く陰謀のどこかのピースに触れてしまったのよ。」
サトシの心臓が激しく脈打った。愛するカオリが、ただの階級破りの犠牲になったのではない。彼女の周りに、世界を揺るがす巨大な力が働いている。
「俺に…どうしろと?」サトシは声が震えるのを感じた。
タカコは不敵に笑った。
「あなたには、あなたのB型の血ではない、『星組』すら知らない、特別な『何か』が流れている。そうでなければ、私がわざわざこんな場所に来るはずがないでしょう?」
彼女は立ち上がり、バーの出口へ向かいながら言った。
「カオリを救いたいなら、私について来なさい。あなたの運命は、もう階級表には載っていない。」
サトシは、愛する者を奪った「血の壁」を打ち破るため、そして、カオリに隠された真実を探るため、タカコの後に続いた。彼の、定められたはずの人生は終わりを告げ、多数の勢力がうごめく世界で、その運命は動き出した。




