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血の革命:2046  作者: 原田広


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第二十八章:最後の抵抗と拳の衝撃

タカコは、複製されたマスターキーのデータに最終的な実行コードを入力し終え、エンターキーに指を置いた。

彼女の瞳は、目の前のモニターではなく、遥か遠い、人類が個の存在から解放された「静寂の世界」を見つめているかのようだった。

「このシステムは、単なる監視装置ではないわ。これは、人類の魂を濾過し、再構築するための炉よ」

タカコは、システム起動の直前に、その恐るべき計画の全貌をサトシに語り始めた。

「このシステムによって、人の心を、魂を一箇所に吸い上げる」

「憎しみ合う者は、その激しい対立のエネルギーによって、互いにすり潰しあって消える。他人を拒否し、自己中心的な意思を貫く者も、統合の波に耐えられず、消えていく」

タカコの顔に浮かぶのは、恍惚とした、ほとんど宗教的な表情だった。

「残るのは、愛し合う者、慈しみ合う者、互いを理解し合う者だけ。彼らは美しく、緩やかに融合していく。そうして生まれるのは、善なる者だけの集合意識」

「支配も、差別も、富への渇望もない、完璧な調和の世界よ。これが、私の『解放』だわ」

タカコが、その冷たい指先でエンターキーを押そうとした、その一瞬。

サトシの脳裏に、Kの最期の驚愕の顔と、カオリの優しさに満ちた笑顔が、鮮烈にフラッシュバックした。個の「魂」と「意思」を消滅させるこの計画は、彼が命を懸けて守ろうとしたもの、Kが信じて死んでいったもの、その全てを否定するものだった。

「ふざけるな!」

サトシは、麻酔と疲労で重い身体に鞭打ち、残された最後の、文字通り命を削る力を、右拳に込めた。

彼は、タカコの理論や冷徹な知性に対抗する、言葉も理屈も持っていなかった。しかし、彼には、愛する者を守るという、原始的な、人間の「怒りの意思」があった。

タカコがシステムを起動させようとした瞬間、サトシの拳がタカコの頬を捕らえた。

鈍い、そして、予想外の衝撃音が部屋に響き渡る。

タカコの体は、その一撃の勢いを吸収できず、バランスを崩した。彼女の細い体は、制御盤のラックに激しくぶつかり、そのまま床に投げ出された。

倒れるタカコ。

システムへの起動コマンドは、寸前で実行されなかった。

サトシは、拳を突き出したまま、荒い息を吐き、よろめいた。彼の体は限界を超えていた。

床に倒れたタカコは、頬を押さえ、信じられないという表情でサトシを見上げた。彼女の計画に、「人間の感情的な暴力」が介入することは、完全に計算外だったのだ。

サトシの最後の抵抗は、集合意識による人類の終焉を、ただ一瞬だけ、引き延ばした。


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