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血の革命:2046  作者: 原田広


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第二十七章:リストの価値と真の目的

タカコは、車を市内の隠れ家へと滑り込ませた。二人はKの機械の身体を後部座席に残したまま、静かな地下の隠し部屋へと入った。部屋の中には、高性能な通信機器と、無数のモニターが設置されていた。

サトシは、麻酔の影響とKの衝撃的な正体、そして彼自身の生還の緊張から、まだ震えが止まらなかった。彼はタカコの冷酷さを理解し始めていたが、それでも問いかけずにはいられなかった。

「リスト…『ブラック・ブラッド・リスト』をどうやって公開するんだ?」

サトシは、自分が命懸けで持ち帰ったリストが、この国をひっくり返す最大の武器だと信じていた。公開すれば、国民の信用は崩壊し、支配者たちは失脚するはずだ。

タカコは、既に高性能なメインサーバーの電源を入れ、指先をキーボードに滑らせていた。彼女は振り向きもせず、淡々と言い放った。

「そんなことはしない。リストの取得には大した意味はない」

サトシは、その言葉に衝撃を受け、立ち尽くした。

「な、何だと? 意味がない? 俺は、俺とKは…あのリストを撮るために命を懸けたんだぞ!」

タカコは、タイピングを止めた。その冷たい視線が、サトシを射貫いた。

「サトシ、君はまだ、物事の本質を理解していないわ」

彼女はモニターを指差した。そこには、Kが複製したマスターキーの暗号化されたデータと、サトシが撮ったリストの映像データが並んで表示されていた。

「リストは確かに、この支配者たちが偽物であることの証拠よ。しかし、仮にリストを公開したとして、何が起きる?」

タカコは続けた。

「国民は怒るでしょう。支配者たちは動揺する。だが、それで血液型による支配構造が根本から破壊されるかしら?」

「…」

「いいえ。新しい支配者が、新しい嘘で、再び国民を管理し始めるだけよ。リストは、せいぜい『社会的な動揺』を引き起こす、一時的な火花に過ぎない。我々が求めるのは、火花ではなく、支配という概念そのものを消滅させる『永続的な炎』よ」

タカコは、マスターキーのデータに、慎重にアクセス権を設定し始めた。

「君が命を懸けて撮ってきたリストは、Kがシステムに侵入するための、完璧な陽動にはなった。リストの警備を厳重にするあまり、彼らはKが『認識制御システム』から何を奪ったのか、その真の危険性に気づくのが遅れるでしょう」

タカコは、ようやくサトシの方を向いた。

「サトシ、リストの本当の価値は、このマスターキーを手に入れるために、支配者たちの注意を引きつけた『最高のデコイ』という点にあるのよ」

彼女の言葉は、残酷なほど合理的だった。サトシの自己犠牲と、Kの命がけの献身は、すべてこのマスターキーのため、そしてタカコの最終目的のためだったのだ。

「このマスターキーが、この国の支配構造を根底から破壊する。君は、その瞬間を見届けるのよ」


タカコは、冷たい決意を込めた瞳で、最終的なコード入力へと向かった。

タカコ「このキーの価値は、これがあれば、全人類の記憶と人格にアクセス出来る。それが目的なのよ」

サトシは息を飲んだ。全人類の記憶と人格。すなわち、国民全員の脳内にマイクロマシンで構築された「認識制御システム」の、完全な制御権。

「アクセスして、どうするつもりだ? 新しい支配者になるのか?」サトシは、震える声で尋ねた。

タカコは静かに首を振った。

「違うわ。私は、人類の支配が目的ではない。私は、支配するもの、されるものという枷を外す。血液型による差別、階級、富の格差、その全てをね」

それは、カオリが望んでいた理想の社会のようにも聞こえた。だが、タカコの次の言葉は、その理想を一瞬で冷徹な現実へと変貌させた。

「しかし、サトシ。私は、人間の本質を理解しているわ。人間が富を求める存在である以上、比較し、優劣をつけ、搾取し合う。だから、支配という概念を消すのは不可能」

タカコは、モニターに映るネットワーク図を指差した。

「ならば、手段は一つ。富を求める必要がない存在に、人類を変革するのよ」

サトシの胸に、底知れぬ恐怖が湧き上がってきた。変革? それは一体、何を意味するのか。

「人同士の比較も優劣もない存在にするには、ひとつの意思に融合させる」

タカコの言葉は、神のような、あるいは狂気に満ちた宣言だった。

「支配も服従も、嫉妬も欲望もない、全人類の意識が統合された、ただ一つの集合知性。それこそが、支配という概念を永続的に、完全に消滅させる、血の革命の最終到達点よ」

タカコは、複製されたマスターキーのデータに、最終的な実行コードを入力し始めた。サトシは、彼女の究極の目的が、支配者層の打倒ではなく、人類そのものの終焉(あるいは超越)にあることを知り、心底から戦慄した。

彼の愛したカオリの願いは、「自由」だった。しかし、タカコの目指す「自由」は、個々の「意思」が消滅した後の、恐るべき静寂だった。

「そんなことは…許されない…」サトシはかろうじて呟いた。

「許されない? 誰に? 支配者たちに? 彼らが作ったシステムを使って、彼らが築いた世界を、根本から解体するのよ。これが、真の『血の革命』よ」

タカコは、エンターキーに指を置いた。彼女の表情は、すべてを悟り、すべてを達観した、異様な静けさに包まれていた。

タカコ「このシステムによって人の心を、魂を一箇所に吸い上げる。憎しみ合う者はすり潰しあって消える。他人を拒否する者は消えていく。愛し合う者、慈しみ合う者は融合していく。善なる者だけの集合意識」


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