第二十章:偽装端末とシステムの隙
骨髄外科医の地下アジト周辺に、純血監視隊の車両がサイレンを上げ始めた時、Kは政府のサーバー室で最終的な行動に移った。
警察無線のノイズが最大になった瞬間、Kは持っていた特殊な端末を、サーバーラックの裏側にあった隠しポートに接続した。
通常、無登録の端末がこのシステムに接続された場合、即座に最高レベルの警報が鳴り響き、サーバー室は完全にロックアウトされる。しかし、Kの端末は違った。
その端末は、休暇で現在不在の係員Aのものに完全に偽装されていた。
Kの頭脳は冷静に計算していた。
「このレベルのシステムで、不在係員の端末が稼働していること自体が異常事態だ。本来であれば、それだけで怪しまれる」
しかし、今、外部で警察と監視隊が骨髄外科医を取り締まろうと動き始め、セキュリティチーム全体が警戒レベルを最大に引き上げている。
「混乱の最中なら、注目度が削がれる」
タカコの指示が正しかった。システム管理者は、外部の混乱と、地下アジトの状況(サトシが引き起こしている)に全意識を向けているはずだ。その時、ごく小さな、「異常だが、緊急ではない」アラートにまで意識を割く余裕はない。
Kの端末が接続を完了した瞬間、警報システムは一瞬静かに点滅したが、すぐに「係員A:セキュア接続」という表示に切り替わった。
「よし」
Kは小さく安堵の息を吐き、すぐさま端末の操作を開始した。
彼の目的は、システム全体を掌握する「マスターキー」を奪取すること。そのためには、システムの中枢コードへ一気に深く潜り込まなければならない。
画面には、緑色の文字が猛烈なスピードで流れ始めた。Kの指が、キーボードを叩く。彼は、サトシが地下で麻酔を打たれ、手術台に横たわるまでの数分間という、命がけの時間稼ぎが作り出した、この「システムの隙」を最大限に利用し始めた。
サトシの潜入という陽動、そしてKの仕掛けた地上の混乱。二つの偽装工作によって、政府の最強の「認識制御システム」の防御壁に、ついに小さな穴が開いたのだ。




