第十九章:混乱の予兆
Kは街の片隅にある平凡なオフィスビル内のサーバー室で待った。
サトシが骨髄外科医の地下アジトで、偽装カメラによる情報収集を開始するタイミングで、Kは匿名回線を通じて警察と純血監視隊へ通報を完了している。
通報内容は、「極秘裏の血液型偽装手術が行われている」というもの。政府と骨髄外科医は癒着しているとはいえ、市民の目に触れる大規模な摘発には極度の警戒を払う。この通報は、警察と監視隊を出動させ、骨髄外科医アジト周辺に「外部の混乱」を引き起こすためのトリガーだった。
「…まもなく、混乱が始まる」
Kは、自分の腕時計型端末のスクリーンをタップした。画面には、サトシに埋め込まれた発信機からの信号と、外部の警察無線を傍受したノイズが表示されている。
サトシは今、骨髄外科医の「栄光の間」で、リストをカメラに収めるという命懸けの作業の最中だ。それは摘発が開始されるまでの時間稼ぎも兼ねていた。
Kは、そのサトシが作り出した地下の混乱と、自身が作り出した地上の混乱、その二重のショックが骨髄外科医のセキュリティシステムに一瞬の隙を生むのを待っていた。
このサーバーノードのセキュリティは、外部からのアクセスには鉄壁だが、大規模な緊急事態による内部のパニックには脆弱な部分がある。
Kは、無数のコンピューターが発する低い駆動音を聞きながら、静かに息を潜めた。
ノイズに混じって、警察無線の音声がわずかに大きくなる。
「…座標○○付近で、不審な車両の目撃情報。コード・レッド。純血監視隊に連絡、合同で現場へ急行せよ」
骨髄外科医の周辺で、取り締まりの出動が始まったことを示す、決定的なシグナルだった。
Kの表情に、微かな緊張感が走った。
「来たか」
彼が待っていたのは、この瞬間だ。政府の目がサトシと骨髄外科医に向けられ、分散システムのセキュリティ管理が一瞬でも疎かになる時。
Kは、手元の解析装置をシステムの心臓部に接続し、最終コードを入力する準備を整えた。サトシの命と、全人類の未来が、この一瞬の行動にかかっている。




