第一章:運命の邂逅と血の壁
サトシはB型だった。血の壁の「中」ではあるが、常に厳しい労働と監視に晒される生産階級だ。彼は工場のプレス機械の轟音の中で、ただ与えられた「B型の人生」を消化する日々を送っていた。
ある夕暮れ、政府の定めた階級間交流禁止区域を抜けた先の、古いレコードショップで、サトシはカオリと出会った。彼女はA型。窓辺から差し込む柔らかな光を浴びた彼女の横顔は、サトシの知る無機質なA型の支配層とはかけ離れた、温かい美しさを持っていた。
「この曲、知ってる?」
カオリが指さしたレコードジャケットには、革命以前の自由な時代のフォークシンガーが写っていた。サトシは息を呑んだ。A型の人間が、こんな古い、階級外の文化に興味を持つことはありえない。
二人は、誰にも悟られぬように逢瀬を重ねた。秘密のレコードショップ。人影のない裏通り。短い、しかし濃密な時間の中で、彼らは血液型の壁を越えた愛を育んだ。カオリの瞳の奥には、A型の特権階級の傲慢さはなく、ただ純粋な魂の輝きがあった。サトシは初めて、自分の「B型の人生」が、血に定められた以上の価値を持つことを知った。
だが、幸福は短い。
ある夜、二人が抱き合っているところを、秘密警察のドローンに見つけられた。警報が鳴り響き、武装した警備隊が押し寄せる。
「カオリ!」
「サトシ!」
カオリは力ずくで引き離された。サトシは抵抗したが、O型の警備兵たちに地面に叩きつけられる。彼の手が、カオリの伸ばされた指先に、あとわずかで届かなかった。
「なぜだ! なぜ俺たちが愛し合うことが許されないんだ!」
サトシの絶叫が、冷たい夜の空気に虚しく響いた。カオリは泣き崩れながら、特権階級用の装甲車に押し込まれていった。彼女は、A型の純粋性を汚した罪で、最も厳しい「再教育」に送られるだろう。
サトシは地面に這いつくばり、ただただ、流されたカオリの血(それはもちろんB型の血ではない)の代わりに、自らの涙を流すことしかできなかった。




