第十四章:盤上の駒、眼中にご座なく
サトシの瞳には、覚悟の炎が宿っていた。彼は拳を握りしめ、今すぐにでも敵陣へ飛び込み、すべてを破壊する準備ができているように見えた。
「俺は何をすればいい?」
サトシは短い言葉に、溢れんばかりの闘志を込めた。 「武器は? どこを襲撃する? 骨髄外科医のアジトか、それとも政府の庁舎か?」
その勢いに対し、タカコは呆れたように息を吐き、冷ややかな視線を送った。
「勘違いしないで。私達はテロリストではない」
タカコの声は氷のように冷静で、サトシの熱気を一瞬で冷ました。
「暴力で建物を破壊したり、要人を暗殺したりするのは、理性のない獣か、あるいは『白の組織』のような狂信者のやることよ。私たちは『支配』を消すと言ったでしょう? そのためには、銃も爆弾もいらない」
彼女は空中にホログラムのマップを展開した。そこには、巨大な政府機関や、星組の潜伏先、骨髄外科医の拠点などが表示されているが、タカコはそれらを指先で軽く弾き飛ばし、すべてを消去した。
「星組も、白の組織も、骨髄移植医師も、私達の相手ではない。政府すらも」
「……全部、相手じゃない?」サトシは眉をひそめた。「世界を牛耳ってる奴らだぞ。戦わなくていいのか?」
「彼らは『敵』ですらないわ。ただの『症状』よ」
タカコはサトシの顔を覗き込んだ。
「彼らと正面から戦えば、それは彼らと同じ土俵に乗ることになる。血を流して勝ったところで、勝者が新たな支配者になるだけ。それでは何も変わらない」
「じゃあ、どうやって世界を変えるんだ?」
「彼らの存在基盤そのものを崩すのよ。この国には、金で血液型を買った『偽りのA型』たちが大勢いる。政府高官、企業のトップ、メディアの支配者…彼らの多くが、実は元B型やO型で、裏で骨髄外科医の手術を受けてその地位を手に入れている」
タカコは薄く笑った。
「骨髄外科医は、その顧客リスト――通称『ブラック・ブラッド・リスト』を持っている。誰が元々何型だったのか、その真実が記されたリストをね」
サトシはハッとした。「まさか…」
「そう。私たちがやるべきことは、彼らと戦うことじゃない。彼らを自壊させることよ。もし、このリストが白日の下に晒されたらどうなる?」
「『高貴なA型の血』を誇っていた支配者たちが、実は金で血を買った『不純物』だったと知れ渡れば……血の権威も、政府の正当性も地に落ちる」
「その通り。星組のオカルトも、白の組織の平等論も、すべて吹き飛ぶわ。前提となる『社会』が崩壊するんだから」
タカコはサトシに近づき、彼の襟元を直した。
「だから君には、ヒロカワ医師の誘いに乗ったフリをして、骨髄外科医の中枢に入り込んでもらう。戦うためじゃない。彼らの最も大切で、最も危険な秘密を盗み出すために」
「奴らを倒すんじゃない。奴らの秘密を使って、世界そのものをひっくり返すのか」
「ええ。テロリストにはなるな、サトシ。詐欺師になりなさい。世界中を騙し、真実を暴くのよ」
「わかった」サトシは静かに頷いた。「俺の『B型の血』を使って、奴らの嘘を全て暴いてやる」
タカコの描く革命は、武力による制圧ではなかった。既存の全ての組織を「相手にする価値すらない」と断じ、彼らの足元にある嘘を暴くことで、システムそのものを瓦解させる。サトシは自らが囮となり、最も危険な潜入任務へと挑むことになった。




