第十三章:B型の叫び、第三の決意
サトシは、タカコの言葉を噛みしめるように聞いた。骨髄外科医の「血の変更」も、星組の「運命の置き換え」も、白の組織の「新しい支配」も、すべてが彼を縛る新たな鎖でしかなかった。そして、カオリが安全に保護されているという事実は、彼に冷静な判断を可能にしていた。
タカコの目的――「支配」という概念そのものの消去。それは、彼の根底にある「なぜ俺たちは引き裂かれなければならないのか」という怒り、そしてB型として生まれ、常に他者の下に置かれてきた絶望を、最も深く救い出す思想だった。
彼は床に突き刺さっていたヒロカワの通信機を拾い上げ、握りつぶした。金属の筐体が軋む音が、決意の音のように響く。
「血を変えても、星を信じても、俺の人生は変わらない。俺が憎んでいるのは、俺がB型だということじゃない。誰かの血液型が、その人間の価値を決めるという、この世界の仕組みだ」
サトシは胸元の星組のカードを払い落とした。
「俺はB型だ。生まれたときから、努力しても、愛しても、全てを血で否定されてきた。もうたくさんだ」
彼はタカコを真っ直ぐ見つめた。その瞳には、かつての絶望の色はなく、純粋な炎が燃えていた。
「カオリを愛したことで、俺は気づいた。血液型なんか、ただの記号だ。階級を定めるための、クソッタレな記号だ!」
サトシの叫びが、隠れ家に反響する。それは、抑圧されてきたB型、O型、AB型の民衆全ての、魂の叫びのように聞こえた。
「あんたの言う『支配のない世界』が本当にあるなら、俺はそれを選ぶ。俺はもう、どの組織の用意した『階級』にも入らない。A型になんてなるか。星の運命なんかに従うか」
サトシは通信機の残骸を床に叩きつけた。
「タカコ。俺はあんたの計画に乗る。俺は、この血の階級制度を、この世界から消し去るために戦う」
彼の決意を聞いたタカコは、初めてわずかに口角を上げた。それは冷たい笑みではなく、まるで駒が完璧な位置に動いたことを確認したかのような、満足の笑みだった。
「ようこそ、サトシ。君は、自分の血ではなく、自分の意思で運命を選んだ。それでこそ、私が求めた『楔』よ」
タカコは振り返り、隠し扉を開けた。その先には、都市の深い闇へと続く、誰も知らない通路が伸びていた。
「我々の最初の標的は、『骨髄外科医』よ。彼らは君を利用しようとした。その通信機を拾い上げなかった、君のその決意を、彼らの闇の心臓に突き立ててやる」
「わかった」
サトシは、もはやB型の青年ではなかった。彼は、愛と怒りを原動力に、「支配」そのものに反旗を翻す、第三の道の闘士となった。カオリを救い、この血塗られた世界を変えるための、サトシの戦いが、今、幕を開けた。




