第十章:偽装された逃亡とタカコの計画
サトシがヒロカワとオリオンの二重の誘惑に晒され、精神的に極限状態にある頃、タカコは静かに行動していた。
カオリは「純血監視隊」から逃亡した後、確かに夜の闇へと飛び出した。
カオリが身を隠した裏路地で彼女を待ち受けていたのは、タカコの腹心の一人、元情報部の潜入工作員であった。その工作員は自身をKと名乗った。カオリはすぐに政府の追跡ルートから外され、都市郊外の廃墟となった教会に匿われていた。
教会の地下室。カオリは、父から渡された通信装置を握りしめながら、保護してくれたKを見つめた。彼女の顔には、逃亡の疲労よりも、真実を知ったことによる複雑な感情が浮かんでいた。
「あなたは…?」
「敵ではありません。私はタカコという方の下で動いています。そのタカコ様がサトシ君を保護しています」
「サトシを?」
「はい。タカコ様は、カオリ様の安全を最優先しています。そして、貴女が持つAB型の真実と、お父上からのデータ。これこそが、彼女の計画に不可欠なのです」Kは落ち着いた声で答えた。
「サトシは…彼はどうなっているの?」
「彼は無事です。タカコ様は彼を、血の秩序を崩すための『楔』として利用しています。彼は今、ヒロカワ医師と星組の使徒、オリオンの双方から、誘惑を受けている頃でしょう」Kは淡々と状況を説明した。
カオリは唇を噛んだ。サトシが危険に晒されている。しかし、タカコの目的も理解できた。サトシを巡る組織間の争いを激化させ、政府の注意をそらすこと。そして、その混乱に乗じて、AB型の秘密を公にし、血の階級制度を内側から崩壊させること。
「なぜ…なぜサトシにすべてを話さないのですか?」
「話せば、彼は『B型のサトシ』としてではなく、『A型になりすましてカオリを救う』か、『星の使命を負う』かを選んでしまう。タカコ様が必要としているのは、純粋な愛のために、理性を捨て、無謀な行動を取る『情熱のB型』なのです」Kは無感情に言った。
カオリは、父から託された通信装置に保存されていたデータを、Kに渡した。それは、AB型の遺伝子に関する政府の最高機密データであり、血の革命の真の目的を暴く、決定的な証拠だった。
「わかったわ。私は待つ。タカコさんの計画が成功するまで」
カオリは、自分が単なる「愛する女」ではなく、この革命の「鍵」であることを理解した。彼女の逃亡は、サトシを覚醒させ、三大組織を煽動するための、タカコによる緻密な舞台演出だったのだ。




