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血の革命:2046  作者: 原田広


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第九章:星の囁き、運命の誘い

サトシは、ヒロカワ医師から渡された高性能通信機を、隠れ家の暗い床に突き刺すように置いた。彼の心は、カオリを救うという純粋な願いと、「血を捨てる」という背徳的な誘惑の間で激しく揺れていた。

「骨髄移植…A型になれば、カオリに会えるのか?」

その時、隠れ家の排気ダクトの中から、澄んだ、しかし異様に響く声が聞こえてきた。

「血を変えても、運命は変わらない。君を縛っているのは、もはや血液型ではない」

サトシは飛び上がり、声の主を探した。

隠れ家の隅、ほとんど物置と化している場所の影から、一人の青年が姿を現した。穏やかな顔立ちで、どこか浮世離れした印象のその青年は、夜空の星座を模したような刺繍が施されたローブを着用していた。彼の名は、オリオン。「星組」の使徒である。

「誰だ!どうやってここに…」

「私は星組からの使者だ。オリオンと呼んでくれ。君を探していた」オリオンはサトシの驚きを意に介さず、静かに続けた。「ドクター・ヒロカワの誘惑は、血の絶望が生んだ、新たなる鎖だ。骨髄外科医は君を『A型』という偽りの階級に入れ、カオリという『AB型』を取引の材料にしようとしているだけだ」

オリオンはサトシに近づき、床の通信機を指さした。

「彼らは血の価値に囚われている。だが、君とカオリの愛は、そんな矮小な『血』の定義に収まるものではない。君たちの出会い、引き離された運命、そして君が今抱く怒り…すべては宇宙の意志によるものだ」

オリオンは、静かにサトシの前にしゃがみ込み、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

「君は、我々『星組』が待ち望んだ『変革の星』の元に生まれた。血液型が何であろうと関係ない。君の真の使命は、この腐敗した血の社会を、『星座の統治』という新たな秩序で置き換えることにある」

サトシは言葉を失った。骨髄移植という現実的な選択肢を突きつけられた直後に、今度は「運命」「宇宙の意志」といった、壮大すぎる教義を提示されたのだ。

「カオリ君の真の血液型がAB型であることも、彼女の父親が最高幹部であることも、全ては星々の導きだ。AB型は『統合の血』。君の星と彼女の血が合わさることで、初めてこの世界の変革は可能となる」

オリオンは、一枚の金属製のカードをサトシに差し出した。カードには、無数の星々が複雑に絡み合った「星組」の紋章が刻まれている。

「タカコは、君を闇の取引へと導くだろう。それは、彼女の個人的な目的のためだ。だが、もし君がカオリとの真の再会と、この世界を根本から変える力を望むなら、彼女の用意した道から逸れることだ」

「私にどうしろと言うんだ?」サトシは混乱した声で尋ねた。

「簡単だ。全てを忘れ、我々の聖域へ来るのだ。そこで君は、血の呪縛から解放され、君自身の『星の運命』を悟る。ヒロカワの誘惑に乗ることも、タカコの陰謀に付き合うこともない。君自身の血と、カオリの血が、真に祝福される道を選べ」

オリオンは、ヒロカワの通信機を指で軽く弾いた。

「血は、人間を縛る愚かな鎖だ。だが、星は、君に無限の可能性を示す。君の愛は、血に定められた悲劇ではない。星によって導かれた、必然の栄光だ」

オリオンの言葉は、ヒロカワの現実的な誘惑とは異なり、サトシの心の中の「なぜ、俺たちは引き裂かれなければならないのか」という根源的な問いに、宇宙的な意味付けを与えた。

彼は、ヒロカワの誘いをタカコに話すべきか、それともオリオンが示す「運命」に乗るべきか、究極の選択を迫られていた。この瞬間、サトシの周りで蠢いていたすべての勢力が、彼を巡って一つの点に収束し始めたのだった。


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