みじかい小説 / 040 / サプライズ
「鶴は千年、亀は万年」
彰が大きな声で繰り返す。
「どれ、じいじにも見せてくれ」
俺はそう言って彰の手元をのぞきこむ。
そこには彰の手によって折られた色とりどりの折り紙が並んでいる。
「これはなに?」
「カエル」
「じゃあこっちは?」
「キツネ」
「うまいもんだ。どこで教わったんだ?」
「学校。友達と休憩時間に折ってる」
そう言いながら彰は黙々と手を動かしている。
「ただいまー」
玄関の方から声がした。
「お、誰かな?」
「ママだ!」
彰はぱっと顔をあげると、一目散に玄関の方へと走っていった。
「ケーキ、一番大きいの買っちゃった」
そう言って彰を半分ひきずりながらリビングに入ってくるのは娘の伊織だ。
その後ろには夫の和彦の姿も見える。
「さあじゃあ準備しましょうか」
妻の和子がそう言ってリビングを片付けだす。
そうこうしていると、息子の智樹とその妻の美香が到着した。
皆がそろい、軽くお茶をした後で、待ってましたと一番大きな部屋に集まった。
「じゃあスタートするよー。みんな中央に寄ってー」
和彦がスマホを設置した三脚の向こうから声を張り上げる。
「おっけー、じゃあいきます。せえの」
「ひいおじいちゃん、お誕生日、おめでとー」
それは和彦の手により編集され、予定通り俺のところへメールで送られた。
次の日、俺はタブレットを携え市立病院の一室に向かった。
「おめでとう、親父」
もう90を超えた父に反応は見られないが、その目に映る約2分半に及ぶ動画を、本人はきっと喜んでいることだろうと思った。
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