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子作り推奨国に婿入りした男性主人公が、正式な妻たちから濃厚に甘やかされる物語

 柔らかな光に包まれて、ユウ・ミカヅキは目を覚ました。


 気がつくと、そこは見知らぬ天蓋付きのベッド。天井には見たこともない文様が描かれており、芳しい香の漂う空間に、現実感はなかった。


「ようこそ、フェルナリア王国へ」


 静かに語りかけてきたのは、紅のドレスを纏った気品あふれる美女だった。背筋の伸びた立ち姿、艶やかな亜麻色の髪、そして何より、その瞳には揺るぎない自信と優しさが宿っていた。


「私はリゼリア・フォン・フェルナリア。この国の第一王女です」


 彼女の名乗りと共に、ユウの意識は一気に覚醒した。


(……異世界? 召喚? 王女?)


 唐突な状況に戸惑いながらも、リゼリアの声にはどこか心を落ち着ける響きがあった。


「あなたはこの国の未来を支える“希望”として選ばれました。……正確には、我が国の繁栄政策の一環として、“高適合婿候補”として招かれたのです」


 詳しい話は、王宮の執務室で説明された。


 ここフェルナリア王国は、深刻な人口減少と魔力の衰退に直面しており、国策として他世界から高適合者を召喚し、繁殖力と魔力資質の高い子孫を残すことが求められている。


「……つまり、俺はこの国で子作りをするために呼ばれたってことか……」


 我ながら雑な要約に頭を抱えるが、事実として否定はされなかった。


「無理にとは申しません。しかし、あなたの資質はとても希少で……もし受け入れてくださるなら、この国の未来を共に築いてほしいのです」


 そう言ったリゼリアの眼差しは、政略だけではない本心を秘めているようだった。


 そして、彼の婿入りは正式に決まった。


 初日には盛大な歓迎会が開かれ、王国の重鎮たちに紹介された後、彼の住まうことになる“繁栄の館”へと案内される。


 そこに待っていたのは——


「ふふっ、お帰りなさいませ、ご主人様。これから、身の回りのお世話をさせていただきますね」


 笑顔でお辞儀するのは、黒髪を後ろでまとめた快活な雰囲気のメイド、ティナ・ルクレール。どこか親しみやすく、しかし彼女の仕草にはよく躾けられた“プロ”の気配があった。


「……観察対象としては、悪くない。ふむ、魔力の流れも良好……今夜のうちに、検証してみるか」


 低く囁いたのは、グラス越しにこちらを見下ろす銀髪の少女——セレスティア・エインズワース。理知的な瞳の奥に、妙な執着と興味が見え隠れする。


 王族、メイド、魔導士。

 それぞれの理由で選ばれた三人のヒロインが、ユウの“妻”として、この館で共に暮らすという。


「いよいよですね、初夜の儀式……緊張なさらず、身を委ねてくだされば結構ですわ」


 リゼリアが柔らかく微笑む。


 だが、ユウはまだ現実感を掴みきれていなかった。

 異世界、婿入り、三人の花嫁、そして子作り……。


 その夜——

 館の灯りが落ちた後も、ユウの部屋の扉の前に三つの影がそっと立っていた。


 戸惑いと甘い予感のなか、静かに扉がノックされる音が響いた。


***


 その夜、ユウの部屋にはひとりの影が現れた。


 月明かりを背にしたその人影は、ゆっくりと静かに扉を閉じる。そして、何事もなかったように彼の隣へと腰を下ろす。


「眠れないのですか?」


 その声に、ユウは肩を跳ねさせた。柔らかく、けれども芯のある声。その主が、第一王女リゼリアであることに気づくまでに時間はかからなかった。


「リゼリアさん……こんな時間に……」


「今夜は、特別な夜ですもの」


 彼女は笑みを浮かべると、そっとユウの手を取った。細く、しなやかな指先が彼の手を包む。その温もりは、なぜだか心に沁みた。


「あなたを召喚するよう要請したのは、私です」


「……え?」


「選定において、最終的な決定権は王族にあります。そして私は、あなたの記録を見て、確信しました。この国の未来に必要なのは、あなたのような方だと」


 リゼリアはそう語りながら、ベッドに体を寄せてくる。


「ですが……不安もあります。あなたが、他の誰かに取られてしまうのではないかと」


 その囁きは、どこか切なげで、それでいて甘やかだ。


「……俺なんかを、本気で?」


「“なんか”ではありませんわ。あなたは、私が欲しいと願った人。だから、今夜は私のものになってくださいませ」


 囁くように、唇が彼の頬に触れる。


 ユウの胸が高鳴る。彼女の手が、肩からそっと腕を撫でる。


「優しくします。初めてでも怖がらなくていいように……ゆっくりと、私が導きますから」


 彼女の指が、頬から首筋へと、迷いなく触れる。 唇は近づき、言葉よりも甘く、静かな約束を伝えていた。


 リゼリアはゆっくりとユウを抱きしめ、額を彼の胸に押し当てた。その瞳は、王女としての誇りよりも、一人の女性としての情熱に揺れている。


「あなたの鼓動、早くなっていますね……ふふっ、可愛らしい」


 ユウの耳元にそっと囁きかけ、リゼリアはそのまま彼の頬にキスを落とした。指先は胸元から腰へと、丁寧に輪郭をなぞっていく。


「怖がらなくていいのですよ。私はあなたを傷つけたりしません。ただ、たっぷりと……あなたを知りたいだけ」


 灯火がゆらめく寝台の上、シーツが静かに揺れる。 ふたりの影が重なり、甘く穏やかな吐息が重なるたび、部屋の空気は静かに熱を帯びていった。



 朝。 ユウはシーツに身を沈め、天井をぼんやりと見つめていた。 その隣で、リゼリアが彼の胸元に頬を寄せ、満ち足りた吐息を漏らしている。


 窓の外では小鳥がさえずり始め、柔らかな朝日がふたりを包んでいた。


「……ふふっ、これで少しは、他の子たちに差をつけられましたわね」


 独占欲を覗かせながらも、リゼリアは満ち足りた笑みを浮かべていた。


***


 翌日の夜。

 ユウが部屋へ戻ると、ベッドの脇で整然とシーツを直す少女の姿があった。


「……ティナ?」


「おかえりなさいませ、ご主人様。寝具を温めておきました」


 黒髪をきゅっと結んだティナ・ルクレールは、完璧な笑顔と丁寧な動作で彼を迎えた。昼間は厨房に立ち、書類の手配までこなしていた彼女の姿とは少し違って見える。


「今夜は、私が“お世話”させていただきます」


 そう言って膝をつき、ユウの足元に手を添えるティナ。その仕草は控えめながら、どこか甘く、そして大胆だった。


「ちょ、ちょっと待って……これは……」


「リゼリア様とは、もう結ばれたのでしょう? では今夜は、私の番です」


 微笑みながらも、その言葉に宿る“意志”の強さに、ユウは言葉を失った。


「ご主人様には、もっとリラックスしていただかなくてはなりません」


 ティナはベッド脇に膝をつくと、そっとユウの肩に手を添えた。いつもは控えめな微笑みの奥に、どこか意地悪な光が宿っている。


「お背中、凝ってますね……私が丁寧にほぐして差し上げます」


 彼女の指先が、優しく、だが迷いなく肩から背筋をなぞっていく。くすぐったさと心地よさが入り混じり、ユウは言葉を失った。


「……くすぐったいよ」


「では、力を少し強めにしましょうか。……ふふっ、逃げちゃダメですよ? “ご主人様”なんですから♪」


 耳元に囁かれたその声に、ユウの背筋がぞくりと震える。


 気づけば彼はベッドに押し倒され、ティナがその上に跨っていた。小柄なはずの彼女の瞳は、まるで獲物をとらえた猫のように、満足げに輝いている。


「こうして上から見下ろすと……なんだか、ご主人様が私のものになったみたいですね」


「ティナ……お前、なんでそんな……」


「昼間はおとなしく尽くします。でも夜は、私がたっぷり甘やかす番。だから今夜は……されるがままになってください」


 唇が頬に触れ、指が胸元を撫でる。灯火がゆらりと揺れ、ふたりの影が交錯する。


 ベッドの軋む音が、夜の静けさの中に溶けていった。



 朝日がカーテンの隙間から差し込むころ、ユウはティナに腕を絡められたまま、天井を見上げていた。


 満足げな寝間着姿のティナが、彼の胸に頬を寄せる。


「ご主人様、今夜のこと……全部覚えていてくださいね。忘れたら、もっと強めに“お仕置き”しちゃいますから♪」


 その声には、従者の仮面を脱いだ少女の素顔があった。


 そして、彼女はそっと囁いた。


「……これで第一夫人にも、少しは張り合えるかな♪」


 微笑むその横顔には、メイドらしからぬ勝気な光が宿っていた。


***


 翌晩、ユウが図書室でぼんやりと読書をしていると、どこからともなく涼やかな声が響いた。


「ようやく、ふたりきりになれましたね」


 本棚の陰から現れたのは、銀髪の魔導士——セレスティア・エインズワースだった。紫の瞳が、冷ややかさと熱を同時に湛えている。


「君には、いくつか検証したい反応があるのです」


 そう言って、彼女はためらいもなくユウの腕を取り、立ち上がらせた。


「え、ちょ、ちょっと待って……セレスティアさん?」


「拒否権はありません。これは王命に基づく実験ですから」


 微笑すら浮かべずに言い切った彼女は、そのままユウを連れて“研究室”と呼ばれる私室へと連れて行った。


 淡い香の漂う部屋。そこには魔術陣の描かれたカーペットと、ふかふかの長椅子。


「安心してください。痛みは伴いません。……むしろ、快感の連続ですから」


 そう言いながら、セレスティアはユウの目の前に屈み込み、じっと彼の表情を観察する。


「鼓動の速さ、目の動き……はい、実験開始です」


 彼女の指が、ユウの頬に触れる。その動きには、魔導士らしい精密さと、少女としての微かな熱が同居していた。


「これは……魔法なの?」


「半分は魔法、半分は……私の興味、ですね」


 囁きながら彼の胸元に手を這わせ、そっと耳元に唇を近づける。


「まずは、皮膚の感度から。反応を見るには、直接的な接触が最適です」


 セレスティアの手が、滑らかに首筋から鎖骨、そして肩先へと移動する。ごくわずかな力で撫でるような触れ方が、むしろ神経を逆撫でするようだった。


「鼓動、早まってますね。顔も赤い。……いい反応です」


 彼女はすぐそばで囁きながら、ユウの手を取り、自らの太ももへと導く。


「触覚の共有反応、興味深いです。……これが“好きな人に触れられている”という感情かしら」


 セレスティアの声には理性的な響きがあるのに、その表情はほんのりと熱を帯びていた。


「今夜、あなたの反応すべて……記録させていただきます」


 魔力灯が淡く揺れ、ふたりの影がゆっくりと重なっていく。



 深夜、ベッドの上。


 ユウは肩で息をしながら、髪の乱れたセレスティアに見下ろされていた。


「想像以上でした。まさか、これほど反応が良いとは……」


 彼女は自らの指に触れた彼の髪をくるくると巻きながら、満足げに微笑む。


「記録はばっちりです。あなたの弱点も、反応する箇所も、全部覚えました」


 そしてそっと、ユウの額に唇を落とす。


「今後も継続的に観察させてくださいね。もちろん、対象は“あなたひとり”です」


 セレスティアの声には、理性と執着が甘く混じっていた。


***


 その夜、ユウの部屋の扉が、いつもより早い時間にノックされた。


「ユウ様、今夜は……その、お時間をいただけますか?」


 最初に現れたのはリゼリアだった。寝間着姿で、やや不安げな瞳をこちらに向けている。


 しかし、続けてもう一度ノック音。そしてすぐに、ティナが顔をのぞかせた。


「えっ、リゼリア様……まさか、今夜の当番……?」


「当番など決めた覚えはありませんわ」


「ですが、昨夜は私が……」


 気まずい空気が流れるなか、ドアの隙間からもう一人の声が飛び込んできた。


「ふたりとも、主観的な割り込みは非効率です。今夜は私が、“検証の続き”を行う予定だったはずですが」


 銀髪を揺らしながら入ってきたセレスティアが、当然のように部屋に上がり込む。


 狭い室内に三人の美少女が並ぶと、自然と空気がピリついてくる。


「……もう、こうなったら、順番とか譲り合いとか、無しですわね」


 リゼリアが腰に手を当て、ふわりと微笑む。


「つまり……ご主人様は、全員に平等に愛されるべきだということですね」


 ティナがにっこりと微笑んだ瞬間、ユウは思わず後ずさった。


「ちょ、ちょっと待って!? 俺の意志はどこに……」


「“委ねる”というのも、立派な意思表示ですわよ」


 リゼリアがそう囁き、ティナが笑いながら灯りを落とす。セレスティアはすでに魔力灯を封じ、室内は柔らかな月明かりだけになった。


 ——そして夜が始まった。


 ふたりの手が同時に肩に触れ、ひとりの唇が耳元に寄せられる。誰がどの位置にいるのか、もはや分からない。


「ユウ様、力を抜いて……ね、こうしてると落ち着くでしょう?」


 リゼリアがそっと髪を撫でながら、彼の胸に頬を寄せる。


「ご主人様、ちょっとだけ……このボタン、外させてくださいね」


 ティナが柔らかな手つきで襟元に手をかけると、セレスティアはすかさずその動きを観察するように寄ってくる。


「興味深い反応ですね……ここを触れると、こうして肩が震えるんですね」


「ふふっ、セレスティアさん、それ以上分析的に言うとユウ様が恥ずかしがってしまいますわ」


「え、いや、ちょっと待って、本当にこれは——」


 抗議は最後まで口にできなかった。ふたりの手が交互に、あるいは同時に彼の身体を探るように触れ、リゼリアが唇で彼の額にそっとキスを落とす。


「今夜は、ひとりになんてさせませんわ。わたくしの愛も、ティナの尽くしも、セレスティアの興味も、全部……あなたに注ぎます」


 その言葉のあと、さらに深い沈黙が訪れた。だがそれは不安ではなく、甘く、心地よく、全身を包み込むものだった。


 灯火が消えた部屋の中で、シーツの上を滑る指先、そっと交わる吐息、交錯するぬくもり。


 すべてが優しく、少しだけ狂おしい夜だった。



 翌朝。


 ユウはベッドの中央で大の字に伸びていた。両腕にはリゼリアとティナが、足元にはセレスティアが寄りかかっている。


 体は重く、心はふわふわと浮いていた。


「……なんか、夢だったんじゃないかって気がする」


 そうつぶやくユウの頬に、リゼリアがそっとキスを落とした。


「夢じゃありませんわ。これが、現実の“愛される責任”というものですのよ」


 その言葉に、ティナとセレスティアも微笑みながら、彼の体に絡みついてきた。


 甘くて、逃げ場のない現実が、今日も始まろうとしていた。


***


 朝食の席で、ユウは珍しく食が進まなかった。


 豪華な食器に並ぶ色鮮やかな料理。リゼリアは笑顔で紅茶を差し出し、ティナはさりげなく好物をよそい、セレスティアは沈黙のまま時折視線を送ってくる。


 だが——彼の胸には、妙なざわめきが残っていた。


 あの夜、夢のような甘い時間。確かに幸せだった。

 けれど同時に、心のどこかがざわついている。


 ……これは、本当に“愛されている”のか?

 それとも“役割”として求められているだけなのか?


 そんな思いが、ふと胸をよぎる。


「ユウ様? お口に合いませんでしたか?」


 ティナの声に、ユウはハッと我に返った。


「いや、そんなことないよ……美味しい」


 笑って応じながらも、その笑みはどこか曇っていた。


「……よろしければ、少しお時間をいただけませんか?」


 リゼリアが静かに言った。場所は、王宮の中庭だった。

 風の吹き抜ける木陰で、ふたりきり。


「迷っていらっしゃるのですね。私たちの気持ちに……」


「……うん。みんな優しくて、綺麗で、すごく嬉しい。だけど、それに甘えてるだけなんじゃないかって」


「真面目なのですね。あなたらしい」


 リゼリアは微笑むと、そっと彼の手を取った。


「確かに最初は“国のため”でした。けれど今は違いますわ。私はあなたに触れたとき、心が震えました。あなたの笑顔を見るたび、胸があたたかくなる」


 その瞳は、嘘偽りのないまなざしだった。


「私だけじゃありません。ティナもセレスティアも……それぞれの形で、あなたを想っている」


 ユウは、その手の温もりを感じながら、ゆっくりとうなずいた。


「……俺も、向き合いたい。ちゃんと、皆のことを、大事にしたい」


 その言葉に、リゼリアはそっと目を細め、微笑んだ。


「では今宵、改めて私たちの元へいらしてくださいませ。今度は“あなたの意思”で」


 それは、ただの義務や役目ではない、互いの気持ちを確かめ合うための、次の夜だった。


***


 夜。


 ユウは、扉の前で深く息を吸った。意志を込めてノブに手をかけ、静かに扉を開ける。


 そこには、彼を待つ三人の花嫁がいた。


 リゼリアは微笑み、ティナは嬉しそうに目を細め、セレスティアは無言のまま彼に手を差し出す。


「ようこそ、私たちの“新しい夜”へ」


 リゼリアの声に導かれ、ユウは部屋へと足を踏み入れる。


 今夜は、彼が選んだ夜。求められるのではなく、自らの意志で応える時間。


 灯火の灯る寝室で、まずユウはリゼリアの前に立った。


「リゼリア……改めて、ありがとう。君が最初に選んでくれたこと、今ならちゃんとわかる」


 その言葉に、リゼリアの瞳がうるむ。


「あなたが、来てくれて本当に良かった……」


 彼女を優しく抱きしめ、静かに唇を重ねる。深く、長く、気持ちを込めるように。


 次にユウは、ティナの手を取った。


「君がいつも支えてくれたおかげで、俺はここに立っていられるんだと思う」


「ご主人様……もう、照れますよ……」


 照れ笑いを浮かべながらも、ティナはそっと彼の頬にキスを落とす。


「今夜は私も、支えるだけじゃなく、愛されてもいいですか?」


「ああ、もちろんだよ」


 そう言って、彼女を強く抱きしめる。メイドではなく、一人の女性として。


 そして最後に、セレスティアと向き合った。


「……何か、記録しますか?」


 小さく問いかけたユウに、セレスティアは微かに微笑んだ。


「今夜だけは、感情を優先します。理論は……あとでまとめますから」


 その言葉に、ユウも笑って応える。


「じゃあ今は、お互いの気持ちだけを確かめよう」


 ふたりの手がそっと触れ合い、静かに抱き合う。


 やがて、三人の花嫁とひとつの寝台に並んだユウは、それぞれの手を取り、ゆっくりと目を閉じた。


「これからも、君たちを大切にするって、約束する」


 誰からともなく、彼にキスが落とされた。


 甘くて、静かで、温かくて——。


 言葉以上にすべてを伝え合う、愛の夜が、始まった。



 数日後。


 ユウは書斎の椅子で、紅茶を片手にのんびりと腰掛けていた。穏やかな午後の光が差し込む中、リゼリアがそっと彼の隣に座る。


「ユウ様……ちょっと、いいかしら」


 恥じらいがちに微笑む彼女の手には、王宮医師からの書状があった。


「……実は、少し体調が優れなくて。診ていただいたら、ね……」


 言葉を濁すリゼリアの頬が、ほんのりと朱に染まる。


 ユウは一瞬ぽかんとしたあと、すぐに目を見開いた。


「もしかして、それって……!」


「ふふっ、ええ……まだ確定ではありませんけれど、“兆し”はあるようですわ」


 そこへ、ティナが慌てて部屋へ飛び込んでくる。


「ご主人様っ……わ、私も……っ!」


 彼女の手にも、同じような封書が握られていた。


 さらに少し遅れて、セレスティアが静かに現れる。無言で書簡を差し出し、頷く。


 三人の“可能性”を前に、ユウは言葉を失う。

 だが、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。


「……これから、大変になりそうだ」


「でも、それ以上に幸せになりますわ」


「がんばっていただきますよ、ご主人様♪」


「観測は、継続します。母体側の変化も、あなたの協力が不可欠ですから」


 それぞれの言葉に、ユウは苦笑しながらも、しっかりとうなずいた。


 これは始まりだ。

 愛して、増やして、育んでいく。——そんな未来の、第一歩だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


異世界に婿入りし、三人の花嫁に“たっぷり甘やかされる”という

男の夢と妄想を詰め込んだ本作、いかがだったでしょうか?


包容力と気品を持つ【王女・リゼリア】


快活で尽くし上手な【メイド・ティナ】


理知的でちょっと執着気味な【魔導士・セレスティア】


三者三様の愛し方で、主人公ユウを巡る夜の取り合いは、書いていて非常に楽しいものでした。


物語としては一区切りですが、

読者の皆様からの反応があれば、

「その後の甘い日常」や「ヒロイン視点で描く一夜」など、

外伝という形でお届けできるかもしれません。


ブクマや感想をいただけると、作者が喜んで妄想を膨らませます。


それではまた、別の作品か、もしかしたらこの続きをどこかで——

ありがとうございました!

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