【天使】養殖・第二話(3)
(帝国? 聞いたことない国名……)
まるきり別世界な富、権力、さらに【超準語】。
見たもの聞いたものに、ぼんやりしてよる少女。ほんで襟紗鈴。その横で、
「おお! こら【仙女】はんがた、きょうも皆さんお一方残らずご尊顔おうるわしゅう、慶びの限り……」
て、【天使長】が恐縮の大汗光らしてぺこぺこしてよる。
美女たちはそれに対して各女各様の茫漠とした笑みやうなずきで君臨し、そのおもてに表れてるんは、憐憫? 愛玩? 少女は思う。
(それとも軽蔑……?)
「この都市の物理的最上部は、低質なものを除くすべてが吾が帝土と言いて可そかり」
まわりに【仙女】たちを従え、【神女】が言う。
「よかったな、頭上に頂く相手が吾々で」
少女はむってなって、
「タワマンの上階を好き好むのは、ものの価値がわからない成金の人たちばかりって言いますよね?」
「なんか俗っぽいよね。高ければ高いほどいいとか、ちょっとがっかりかも」
て、襟紗鈴もあきれた顔してみせてよる。
すると【神女】は、
「成金? それを真に受けておるそかり?」
て、さも、おもろげに、
「その『定説』が意図して流されたものとは疑わざるや? 汝らが今すべきは嘲笑にてはなく感謝ぞ? 吾が族が仮宿とせねば、この種の住居はなべて有事の意図をもちて買い占められたるものを」
(有事? どう有事……?)
首をかしげる少女と襟紗鈴に、
「種々の使い道がある。政庁や企業ビルの監視、要人の車両追跡、海賊放送の送信……軍事衝突にありては局地的なEPMバーストのみならず、ドローンや爆撃機のためのガイドビームも発振可能。さらには各種装備を身につけた空挺コマンドも進発しうるそかり。そも部屋をただ爆弾で吹き飛ばすだけでもどれほどの破片と混乱がひろがる? 空戦支援にミサイルやチャフやフレアをばら撒くにも最高の立地そかり」
言われた用語の半分も意味わからんかったものの、言わんとするところは理解して黙りこむ少女と襟紗鈴。
満足そうに【神女】は微笑み、
「ときに【天使長】」
鉾先を変えた。
「へえ」
「汝の『精霊』はいかにしたるそかり?」
なにげない口調、なにげない仕草でサングラスをはずし、
「先刻捕らえた【邪天使】どもが見当たらんぞ」(『【天使】養殖・第二話(4)』に続)