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天使を閉じこめる檻  作者: 宝月 蓮


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成人の儀

 あっという間に春が来て、アリョーナ達が暮らすアシルス帝国の社交シーズンが始まった。


「アリョーナ、緊張しているのかい?」

 宮殿に向かう馬車の中、ユーリは心配そうにアリョーナを覗き込んだ。

「ええ。成人(デビュタント)の儀、失敗しなければ良いのですが」

 アリョーナは力なく笑う。

「大丈夫。アリョーナは今まで頑張ってきたことを僕は知っている。それに、何かあっても僕が絶対にフォローするから」

「ユーリお義兄(にい)様……」

 ユーリの頼もしげな表情に、アリョーナは少しホッとする。

「ありがとうございます。(わたくし)、頑張りますわ」

 アリョーナはふわりと天使のような笑みを浮かべた。

 ユーリはムーンストーンを優しく細めるのであった。

(ユーリお義兄様の為にも、ストロガノフ伯爵家を強く出来るような家の方と知り合いたいわ)

 アリョーナは密かに拳を握った。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 アシルス帝国の宮殿は、豪華絢爛(ごうかけんらん)でアリョーナにとって見たことのないものばかりだった。

(流石はアシルス帝国を治めるロマノフ家だわ……)

 アリョーナは宮殿の造りに思わず見惚れていた。

 そんなアリョーナを見たユーリはクスッと笑う。

「アリョーナ、行くよ」

「はい、ユーリお義兄様。よろしくお願いしますわ」

 アリョーナはハッとし、差し出されたユーリの手を取った。

 チラリと横目で見るユーリは、やはり息を飲むような美しさがある。それだけでなく、エスコートはスマートで、アリョーナを気遣ってくれる。男性として満点なのだ。

 アリョーナはそんなユーリが自分の義兄(あに)であることにを誇らしく感じると同時に少しだけ切なくも感じていた。

(だって(わたくし)とお義兄様は義兄妹(きょうだい)だもの……)

 アリョーナとユーリは血の繋がりは薄いから結婚は可能である。しかし、同じストロガノフ伯爵家で育った者同士。貴族の結婚は家同士の繋がり重視である。だからユーリがアリョーナと結婚したとしても、ストロガノフ伯爵家が強くなるわけではないのだ。

 ユーリが生家のレポフスキー公爵家にいたままなら問題はなかったのだが。


 成人(デビュタント)の儀が(おこな)われる会場には、既に多くの令嬢がエスコートされて入っていた。

 成人(デビュタント)の儀は十五歳を迎えて社交界デビューをする令嬢達が主役である。

 今まで帝都にも来たことがなく、他の令嬢達とも会ったことがないアリョーナは友人が出来るか少しワクワクしていた。


 厳かな皇帝エフゲニーの祝いの言葉も終わり、いよいよダンスである。

 アリョーナはユーリにリードされてふわりと天使のように舞う。

 アリョーナのアクアマリンの目と、ユーリのムーンストーンの目は何度も絡み合い、お互い微笑み合った。

 まるで会場に二人きりになったかのような感覚になるアリョーナ。

 ユーリとのダンスは、アリョーナにとって特別なものだった。


「アリョーナ、素敵なダンスだったよ。君と一番最初にダンスが出来て光栄だよ」

 ユーリは嬉しそうにムーンストーンの目を細めていた。

「ユーリお義兄様のリードのお陰ですわ。ありがとうございます」

 アリョーナは天使のような笑みでユーリにお礼を言う。

 すると、ユーリは少し複雑そうにアリョーナから目を逸らした。

「お義兄様……?」

「これからアリョーナをストロガノフ伯爵家と関わりがある者達に紹介するけれど……君のその笑顔に惚れる男が多そうで心配だ。アリョーナがあまりにも天使みたいに美しくて可愛らしいから……」

 ユーリの言葉に鼓動が早くなるアリョーナ。

「そんなこと……ないですわよ」

 アリョーナは思わず頬を赤く染めて俯いた。

(ユーリお義兄様……)

 ユーリへの想いが溢れ出しそうで、アリョーナは必死にその想いに蓋をしていた。


 その後、落ち着きを取り戻したアリョーナは、ユーリと共にストロガノフ伯爵家と関係がある貴族達に挨拶をした。

 アリョーナは家庭教師から習った通り、美しいカーテシーで貴族達を感心させた。

「彼女はアリョーナ。僕にとって大切な存在です」

 ユーリからそう紹介されて、アリョーナの心臓が跳ねる。

(大切な義妹(いもうと)という意味よね……? 勘違いしそうになるわ)

 アリョーナはドキドキしながらも平然を装い、関係者に挨拶をする。

「お初にお目にかかります。ストロガノフ伯爵家長女、アリョーナ・イーゴレヴナ・ストロガノヴァでございます。義兄がいつもお世話になっております」

 すると、ストロガノフ伯爵家と関係がある貴族達は友好的な反応だった。

 アリョーナは好印象を与えることが出来たようで安心した。

 しっかり勉強していたアリョーナは、関係者達からの領地に関する質問にも答えることが出来た。

 また、先代ストロガノフ伯爵夫妻――アリョーナの両親イーゴリとエヴドキヤが亡くなってまだそれ程経っていないので、お悔やみの言葉を述べる者もいた。

「それにしても、アリョーナ・イーゴレヴナ様はエヴドキヤ様にそっくりですわね。その顔立ちも、髪色も髪質も」

 エヴドキヤと親しかった女性がアリョーナを見て懐かしげに微笑んでいた。

「先代ストロガノフ伯爵閣下も娘が最愛の妻に似て嬉しいと仰っていましたよ。本当に先代ストロガノフ伯爵夫人と瓜二つだ。目の色は……先代伯爵夫人の方がやや鮮やかな青でしたが」

 イーゴリと親しかった者も、懐かしげな表情である。


 アリョーナの艶やかでふわふわとした長いブロンドの髪は母エヴドキヤ譲りなのだ。しかし、目の色はアクアマンのような青い目。エヴドキヤはサファイアのように鮮やかな青い目だったのである。目の色を除けばアリョーナはエヴドキヤの生き写しなのだ。

 ちなみに、アリョーナの父イーゴリは黒褐色の髪にヘーゼルの目だった。


「アリョーナ、疲れてはいないかい?」

 挨拶回りがある程度終わった後、ユーリはアリョーナに優しい眼差しを向ける。

「大丈夫ですわ、お義兄様。ありがとうございます」

 アリョーナは軽く深呼吸をし、背筋を伸ばした。

(ユーリお義兄様に恥をかかせることはなかったわ)

 その事実に少しだけ安心するアリョーナだった。

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