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天使を閉じこめる檻  作者: 宝月 蓮


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15/17

アリョーナの強さ

 ユーリはこの日もストロガノフ商会関係のトラブル対応で外出する必要があった。

「アリョーナ……すぐに帰るから……」

 アリョーナを抱きしめるユーリ。

 ユーリの顔色は悪く、目の下にも隈がある。

 悪夢などでユーリの精神状態はギリギリだった。

「ユーリお義兄(にい)様……本当に大丈夫ですか? 代理の者に任せてお休みした方が……」

 アリョーナのアクアマリンの目は曇っている。

「……そうしたいのは山々だけど、今回の件はそうもいかないらしい」

 ユーリは大きなため息をついた。

 そしてアリョーナにキスをして部屋を出る。

 その際、アリョーナが出られないようにしっかり鍵をかけ、外からも鎖をするのであった。


 ユーリが出て行った後、アリョーナはため息をつく。

 アリョーナはソファに座り、本を読んでみた。

 監禁生活が退屈にならないように、ユーリが用意してくれた本である。

 内容は非常にワクワクして心躍る物語なのだが、アリョーナの表情は曇ったまま。

 アリョーナはユーリに監禁されて以来、あまり笑わなくなっていた。

 最初はユーリへの恐怖が心を支配していたが、次第にユーリのことが心配になっていた。

(ユーリお義兄様……)

 アリョーナは再びため息をついた。


 その時、外が騒がしくなる。

(何……? 何の騒ぎかしら?)

 アリョーナは鉄格子の窓から外を覗こうとするが、特に何も見えない。

(……ここからは見えない場所で何かあったのね)

 何が起こったか気になりはするが、見えない以上は仕方ないのでアリョーナは諦めてソファに座った。


 その時、ドンドンと扉が大きくノックされた。

 アリョーナは驚きのあまり肩を震わせる。

「どなたですか? ユーリお義兄様ですか?」

 アリョーナは扉に向かい、恐る恐る聞いてみた。

 すると、扉の向こうから意外な声が返って来た。

「その声は、アリョーナ・イーゴレヴナ嬢だな?」

「アリョーナ様、エレーナです」

 何と扉の向こうにはユーリの友人フロルと、フロルの妹でアリョーナの友人であるエレーナがいた。

「フロル・マルティノヴィチ様、エレーナ様……!」

 アリョーナはアクアマリンの目を大きく見開いた。

「この部屋、頑丈に鍵がかかっているな……」

 扉の向こうにいるフロルは苦々しい声である。

「フロルお兄様、(わたくし)、ピッキングなら得意です。それに、鎖ならシチェルバトフ侯爵領の職人達が使っている鋏で切れますわ」

 エレーナがそう言った瞬間、パチンと音がして鎖が地面に落ちる音も聞こえた。

 そしてガチャリと扉が開いた。

「アリョーナ様、中々お会いできないから心配になりましたの」

 扉が開いて早々、アリョーナはエレーナに抱きつかれた。

「エレーナ様……ありがとうございます。あの、お二人はどうしてここに……?」

 アリョーナは力なく口角を上げる。

 久々にユーリ以外の者と話すので、少し戸惑っていた。

「この前、ユーリに会ったんだが、様子があまりにもおかしいから少し心配だったんだ。まさかとは思ったが、こんなことになっているとはな」

 フロルはアリョーナが監禁されている状況を見てため息をつく。

「アリョーナ様……このような形で自由を奪われていただなんて……」

 エレーナはアリョーナの両手首、両足首にはめられた手枷、足枷を見て絶句していた。

「本体は外せないが、鎖なら切ることが出来る」

 フロルは鋏でアリョーナの手枷、足枷に繋がっている鎖を切った。


 シチェルバトフ侯爵領は金属加工技術が有名で、どんな金属でも切ることが出来る鋏もあるのだ。


「アリョーナ・イーゴレヴナ嬢……ご令嬢にこんなことを聞くのも憚られるが……ここに閉じ込められて、その……ユーリに無理矢理抱かれることはあったか?」

「フロルお兄様、いきなりそれですか?」

 言いにくそうなフロルに、エレーナは眉を顰めた。

 アリョーナは首を横に振る。

「ユーリお義兄様とは……そういうことは一切ありませんでした」

 アリョーナは思い出しながら答えた。


 アリョーナは手枷、足枷がはめられて自由に動けない。ユーリはアリョーナを襲おうと思えばいつでも襲える状況にあった。

 しかし、ユーリは無理矢理アリョーナを襲うことはしなかった。

 いつもアリョーナを優しく抱きしめて眠るのみである。


「それにお義兄様は……(わたくし)がアンダードレスや入浴着を着るまでは、(わたくし)に背を向けてくれていました」

 アリョーナはポツリポツリと話す。

「そうか……」

 フロルは少し考え込む。

「アリョーナ・イーゴレヴナ嬢、こうなった以上、君はユーリの側から逃げても誰も文句わ言わないだろう。君の純潔も奪われていないから、ユーリ以外の者との結婚もまだ可能だ。ユーリから離れるという選択もあるぞ」

「ユーリお義兄様から……逃げる……離れる……」

 アリョーナは俯き、少し考え込む。

「ユーリ・ネストロヴィチ・レポフスキー、そしてユーリ・ネストロヴィチ・ストロガノフという男は、アリョーナ・イーゴレヴナ嬢が思っているよりも色々と闇を抱えている。ユーリの過去を、ユーリが知ってしまったストロガノフ伯爵家や君の秘密を、君は受け入れることが出来るのか?」

 するとアリョーナはアクアマリンの目をハッと見開く。

(そういえば……ユーリお義兄様がレポフスキー公爵家でどんな生活を送っていたのかはあまり聞いたことがなかったわ。叔父一家と折り合いが悪いとだけしか教えてもらってない。それに……ストロガノフ伯爵家や(わたくし)の秘密……)

 アリョーナはフロルに目を向ける。

「フロル・マルティノヴィチ様は、(わたくし)が知らないユーリお義兄様のことをご存知なのですね?」

 すると、フロルは首を縦に振る。

「教えてください。(わたくし)が知らないユーリお義兄様のこと、それから、ユーリお義兄様が知ったストロガノフ伯爵家と(わたくし)の秘密を」

 アリョーナは真っ直ぐフロルを見た。アクアマリンの目は、力強かった。

「分かった……。教えよう」

 フロルはゆっくりと話し始めた。


 実の両親が亡くなって以降、ユーリがレポフスキー公爵家で叔父一家から虐げられていたこと、可愛がっていた猫を殺されて激昂したユーリが従兄(いとこ)ゲラーシーに対して激しい暴力を振るったこと。ブラドレンの方は、不運な事故で亡くなり、ユーリが殺したわけではないこと。

 そしてストロガノフ伯爵家にやって来てからは、ユーリがイーゴリやエヴドキヤから暴力を振るわれていたこと。

 アリョーナはエヴドキヤの不貞により生まれて子供であること。エヴドキヤが違法薬物をイーゴリに使用していたこと。イーゴリがエヴドキヤ似の女性を襲っていたこと。

 アリョーナは全てを知った。


「お父様とお母様が……! (わたくし)は……お父様の子ではない……!」

 アリョーナはストロガノフ伯爵家や自身の秘密を知り絶句していた。

「ユーリお義兄様は……自分も(つら)いのに(わたくし)を守ろうと……」

 アリョーナのアクアマリンの目からは涙が零れる。

 エレーナもユーリの過去を聞き絶句していたが、ハッとしてアリョーナにハンカチを渡した。

「だからユーリお義兄様は、(わたくし)のお父様とお母様を殺そうと計画を立てたのですね」

 アリョーナはかつて見たメモについて思い出した。

「ああ。ただ、アリョーナ・イーゴレヴナ嬢のご両親が亡くなった件にユーリは関与していない。あれは本当に純然たる事故だ」

 フロルがそう言い切ったことで、アリョーナは全身の力が抜ける。

 それをエレーナが支えた。


 アリョーナは今までのことをゆっくりと思い出す。

 確かにアリョーナを監禁した時のユーリは怖かった。しかし、それと同時に放っておけなかった。更に、今のユーリは何かあれば壊れてしまいそうで、アリョーナは心配だった。

 そしてアリョーナの脳裏には、今までの優しいユーリの姿が浮かぶ。


(わたくし)は、ユーリお義兄様から離れたりはしませんわ。この先も、ずっとユーリお義兄様の側にいるつもりです」

 アリョーナのアクアマリンの目からは強さが感じられた。

「そうか……」

 その様子を見たフロルは少し安心した表情になった。

「ユーリお義兄様に……今すぐ会いたいです。会って、話がしたいです」

 アリョーナはポツリと呟いた。

「ユーリ・ネストロヴィチ様は確か今ストロガノフ商会におりますわよね?」

「ああ。じゃあ早速ユーリがいるストロガノフ商会に向かうか」

「はい」

 アリョーナは力強く頷いた。


 アリョーナはユーリの全てを受け止める覚悟が出来ていた。

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