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監禁生活

「アリョーナ、これからはここで僕達二人きりで生活するんだ。一生二人だけで生きていこう」

 相変わらずユーリのムーンストーンの目からは光が消えている。

「ユーリお義兄(にい)様と……二人きり……」

 今までなら手放しで喜んぶことが出来たが、ユーリの本性を知った以上ビクリと身震いした。

「ああ。アリョーナが好きそうな家具も揃えたんだよ。君が過ごしやすいように」


 部屋には確かにアリョーナ好みの家具ばかりが置いてある。おまけにユーリの執務机もある。

 しかし、この部屋はまるで檻のようだった。

 窓には頑丈な鉄格子。扉にも厳重に鍵がかけられており、アリョーナは鍵の場所を知らない。

 更にアリョーナは簡単には外すことが出来ない手枷と足枷がはめられている。手枷と足枷が繋がれた鎖も、この部屋を動き回れる程度の長さしかない。


 アリョーナは嫌でも逃げられないことを悟った。


「アリョーナ、もう夜遅い。そろそろ寝ようか」

 ユーリは口角を上げ、アリョーナをベッドに横たわらせた。

(あ……)

 アリョーナは体を強張らせる。

 こんなことになってしまったが、ユーリは一応アリョーナの婚約者なのだ。

(もしかして、ここでお義兄様に純潔を散らされてしまうの……!?)

 これから起こるであろうことを想像し、アリョーナの呼吸は浅くなる。

 しかし、ユーリはそっとアリョーナを抱きしめるだけ。

「もしかして、閨事を想像した? 大丈夫、何もしないよ。ただ、僕がアリョーナを抱きしめて寝るだけ。何もしないから」

 ユーリの声は、とても優しく、それでいてどこか悲しさと寂しさが混ざっていた。

 アリョーナを抱きしめる腕も、少しだけ震えている。

(ユーリお義兄様……どうしてそんなに……寂しそうなの……?)

 アリョーナよりも大きな体。力もアリョーナより遥かに強い。アリョーナに現在恐怖を与えている存在。それなのに、今のユーリにはどこか弱さも見えて、アリョーナは放っておけなくなった。もしもアリョーナがいなくなってしまえば、ユーリが壊れてしまうかもしれない。アリョーナはそう感じてしまったのである。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 翌朝。

 アリョーナはゆっくりとアクアマリンの目を開ける。

(ユーリお義兄様……)

 ぼんやりとしたアリョーナのアクアマリンの目に、まだ眠っているユーリの姿が映る。

 アリョーナはユーリに抱きしめられて眠っていた。

 ユーリへの恐ろしさよりも眠気が勝ったらしい。

(どうしてこんなことに……?)

 アリョーナは表情を曇らせる。

 ユーリと想いが通じ合い、幸せだった。しかしその幸せは簡単に砕け散ってしまうものだった。

 その時、ユーリのムーンストーンの目がゆっくりと開く。

「おはよう、アリョーナ」

 やや掠れ声だが、甘く優しい声である。

 しかし、やはりムーンストーンの目からは光が消えている。

「……おはようございます」

 アリョーナは戸惑いながら、ユーリから目を逸らした。

 ユーリはベッドから起き上がり、何かを取りに行く。

 ユーリが持って来たのはアリョーナの着替えである。

「アリョーナ、着替えようか。僕は後ろを向いておくから、アンダードレスだけは自分で着て欲しい。そこからは僕も手伝うよ」

 ユーリはアリョーナに新しいアンダードレスを渡し、後ろを向いた。


 アリョーナは言われるがままアンダードレスを着て、ユーリに着替えを手伝ってもらった。

 アリョーナの着替えを手伝うユーリはどこか満足そうな表情である。


 アリョーナが着替え終わった後、ユーリは朝食を持って来た。

 よく見慣れた、ストロガノフ伯爵家の料理人が作る朝食である。

 アリョーナはふと、鉄格子の窓の外に目を向けた。

 あまり見慣れない景色だが、昨日目隠しされていた時間はそこまで長くない。また、恐らくストロガノフ伯爵家の使用人が料理を運べる距離である。

(つまり、ここはストロガノフ伯爵家の帝都の屋敷(タウンハウス)敷地内。……多分……離れかしら?)

 アリョーナはそう予測した。

「さあ、アリョーナ、口を開けて」

 ユーリはアリョーナの口元に、一口サイズにちぎったパンを持って来る。

「……自分で食べられますわ」

 アリョーナはそれを拒否すると、ユーリはそのパンを自分の口に入れよく噛んだ。

 そしてアリョーナを押し倒し、口移しでパンを食べさせたのである。

「僕としてはこの食べさせ方でも良いんだけど」

 そう笑うユーリは、妖艶だが悍ましかった。

 アリョーナは諦めて、ユーリにされるがままである。

「アリョーナ、君は僕に依存したら良い。僕がいなければ生きていけないようにしてあげるから」

 ユーリはどこまでも真っ直ぐで、どこまでも仄暗い笑みだった。


 アリョーナの生活は一変した。ユーリの用事がある時以外、ユーリから離れることは許されなかった。

 本や刺繍など、暇つぶしが出来そうなものが全て取り揃えられている。しかし、常に隣にユーリがいるのでアリョーナは何もする気になれなかった。

 おまけにユーリが書類仕事などの執務を(おこな)う時、アリョーナは彼の膝に乗せられて身動きが取れない状態になってしまう。

 ユーリは執務を進めながら、アリョーナの頬にキスをしたりするなど余裕そうである。

 何もかも、ユーリにされるがままであり、アリョーナはユーリに身を委ねる以外の選択肢を奪われていた。

 しかし、着替えや入浴の世話までユーリにされるアリョーナだが、彼に生まれたままの姿を見られることはなかった。アンダードレスや入浴着を着用するまでユーリはアリョーナに背を向けていたのだ。無理やり体を暴かれて抱かれることもなかった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 そんなある夜。

 アリョーナはすぐ隣から聞こえる呻き声で目を覚ました。

「ユーリお義兄様……?」

 アリョーナはユーリに目を向ける。

 ユーリは苦しそうな表情だった。

「お義兄様、どうしたのですか?」

 アリョーナはどうしたら良いか分からずユーリを控えめに揺らす。

「アリョー……ナ」

 ユーリのムーンストーンの目はぼんやりと虚ろだった。

「ユーリお義兄様、大丈」

 アリョーナが「大丈夫ですか?」と聞こうとして瞬間、ユーリから強く抱きしめられた。

「アリョーナ……愛してるんだ。……どこにも……行かないで……」

 その後、ユーリはスヤスヤと穏やかな寝息を立て始めた。

(ユーリお義兄様……悪夢を見ていらしたのね……)

 アリョーナはユーリの寝顔を見ていた。


『アリョーナ……愛してるんだ。……どこにも……行かないで……』


 ユーリの悲痛な声が、アリョーナの耳にこびりついて消えない。

 おまけにアリョーナを監禁してからは、ユーリの光が消えたムーンストーンの目の奥から寂しさが感じられた。

(ユーリお義兄様……一体どうしてそんなに苦しそうなの……?)

 アリョーナはユーリの手により自由を奪われた生活をしているのだが、ユーリが心配になり離れることは出来なかった。

 更に、ユーリがアリョーナの両親毒殺計画のメモを思い出す。

((わたくし)を守る為……。一体どういうことなの? (わたくし)の秘密というのも、全く心当たりがないのだけれど……)

 アリョーナの疑問は深まるばかりであった。

読んでくださりありがとうございます!

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