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僕は元々図書室の女神が好きだから

作者: さや

「「面白ぇ女」は私じゃなくて双子の姉なんだよなぁ」 https://ncode.syosetu.com/n3524ix/ の別視点のようなものです。


僕、佐伯圭は本を読むのが好きだった。

その結果、小学生まではいじめられっ子だった。

元々海外の血が入ってる事から、周囲にはほんの少しだけ、奇異の目で見られていた。

今の僕なら分かるけど、前髪は長くてろくに顔見えないわ、見えた顔は綺麗系なのに面倒臭いからと人との接点を持とうとしないそんな人間、無視されるかいじめられるかのどちらかだよね。女の子みたいってからかわれたりもしたし。

けど、中学に上がる時に「さすがにこのままじゃマズイかなー」と一念発起。

前髪は切ったし、人と話す事を心掛けた。面倒臭がってちゃあいけないよね、便所飯とかイヤだし。

本を読むのが好きだった僕はまず、同じように本が好きな人達から話し掛けていった。

そうすると一気に友達は増えた。

そして


「好きです、付き合ってください」


中学1年生、夏休み前に女子に告白された。

その子はクラスの中心、皆の憧れのような女の子だった。

断る理由なんてないから付き合うよねもちろん。

けどそこから夏休みの間に別れた。

彼女曰く「なんか違う」と。




その後も何度も色々な人に告白されて付き合って、どちらかが「何か違う」と言い別れるを繰り返していると、元カノが中学の間だけで2桁になってた。

正直途中からは僕自身も「何か違うってならない女子は居ないかな」と積極的に女の子たちに声を掛けていってたし、そりゃあ元カノも増えるよね。女の子、好きだし。本と同じくらいには好き。

女の子も本みたいに積読とか出来ないかなって思った僕はきっとクズなんだろうな。




さて、そんな事をしながら元カノが2桁になっていた僕は高校生になった。

入学して数日、早々に僕は先輩に体育館裏に呼び出され、「顔がいいからって調子ン乗ってんじゃねーぞ!」と恫喝をされていた。

困ったなぁ、僕は女の子相手なら頑張れるけど、男相手に頑張りたくはない。でも、痛くされるのはイヤだなぁ。

これが本の世界なら都合良く助けてくれる人が来るけど、そんなご都合主義現実ではないよねー。

とか思ってたら。


「タゼーニブゼーとかダセーなーセンパイたち」

「げっ、結城…!?」


気付いたら先輩の中の1人はぶっ飛んでた。

突然やって来た人物が思いっ切り先輩をぶん殴ったからだ。

うわぁ現れて早々に人をぶん殴れる人間って本当に居るんだ!本の中でしか見た事ないよ!

ある意味感激をしている僕をよそに、現れた人物は先輩たち相手に大暴れしていた。

そして先輩たちが逃げて行くのを見てから。


「お前、俺とナンパ付き合わねぇ?」

「……いいよ」


こうして僕は同じクラスだった問題児・結城和生とつるむ事になった。

彼はどうやら僕と同じように入学してすぐに先輩たちに絡まれていたらしい。

そりゃあそうだ、ド派手な金髪にピアスだもん。そういう新入生が先輩に目を付けられるのはお約束というか。

でも、和生と仲良くする様になってからは変な先輩に絡まれないし、2人組の女の子のナンパもしやすくなった。

和生が僕に声を掛けた理由も、2人組の女の子をナンパする為だったらしい。


「確かに2人居ればどちらか片方がタイプだったら女の子着いて来てくれそうだもんね」

「おーよ。成功率も上がったし本当に圭サマサマだわ」


こうして僕と和生はひたすら女の子たちと遊んだ。

正直遊び過ぎたまである。声を掛けた女の子が実は既婚者だったとか、ヤの付くお仕事されてる人の娘さんだったとか、まあ色々な事があった。

最終的に僕たちに付いたのは、表面上は「イケメンツートップ」、そして「2大悪魔」だ。

別に声掛けたり来る者拒まずしてるだけで、嫌がる女の子に声を掛けたりはしてないんだけどね。

彼女取られたも何も、彼氏に魅力が無かったとしか。




そんな僕たちも3年生になった。

僕たちの噂は校外にまで一部で広まっているらしい。

まあそんな事はどうでもいい、ここからが本題だ。

どうやら今年の新入生に、とてつもない美少女が居るらしい。

その子が図書委員になったと聞いて、元々本が好きだった僕は彼女を見に行った。

図書室の扉を開けた瞬間目に入る受付の新入生らしき女の子。

僕はその場に立ち尽くしていた。


「……あの、扉の前に立っていられると他の生徒が入れませんのでどいてもらっても良いですか」

「あ、ごめんね…」


艶やかな黒髪に怪訝そうに僕を見る瞳、冷たそうな外見にも見えるけど、そんな外見とは裏腹に愛らしい声。

恋に落ちた。

好きになってしまった。

初めて陥った感情に戸惑う僕は、とにかく彼女と話したかった。


「新入生?」

「はい」

「名前は?」

「花丘美音と言います」


僕に名前を聞かれたのが不快なのか、眉間には僅かにシワが出来ていた。

僕が話し掛けて眉間にシワを作る子は初めてで、面白いと思ってしまった。こんなに綺麗なのに表情で気持ちが分かるのも面白い。


「ねえ、最近推理小説にハマってるんだけど、オススメとかってある?」

「……どんな作品を好むかで変わります」


僕が少し考えてから好きな作品や作家を挙げていくと、彼女は「そんなちょっとマニアックな作品を…!?」と少し嬉しそうに言ってから、オススメの作品を教えてくれた。

僕はそれを借りて、「読み終わったら感想言うね」と彼女に伝えて図書室を出る。


「可愛いな…」


一目惚れって本当にあるんだって感動した。

綺麗で、可愛くて、ほんの少し表情が変わるだけで、僕はその顔を心の中に写真撮って保存したくなる。

こうして僕は、図書室に通うようになった。

オススメされた本を返却しに行った時に「美音ちゃん」と呼ぶと少し嫌そうな顔をしたけれど、本の感想を伝えていくと美音ちゃんと呼んでもそれを受け入れてくれたようで、眉間にシワが刻まれる事も無かった。

美音ちゃんを好きになって、話すようになってからどれくらい経っただろう。クラスの女子が僕に話し掛けて来た。


「ねーけーちゃん」

「なぁに?」

「1年生の図書室の女神って子に最近絡んでるってほんと?」

「絡んでるとは違うけど、仲良くはさせてもらってるかなぁ」

「ふーん…」


彼女は何かを考え込むようにしていた。

……まさかこれは、モテ男と仲の良い女の子に起きるという「アンタなんてあの人に似合わないのよ!」フラグ…!?

一瞬ヒヤッとしたものの、彼女は違う事を口にした。


「あの子、双子だよ?」

「え?」

「前にあの子が2人居るのを見たって子が居て、私も見掛けたんだけど全く同じ顔で、違う学校の制服着てた」

「へぇ、それで?」

「いや、星垣高の2大悪魔、それぞれで双子に手を出すのかなって」


いやいやそんな事する訳が無いよね!

第一和生は図書室とか行かないし、大人しい子に興味無いし。




なんて事を思ってた僕は本当に馬鹿だった。




「1年生に面白ぇ女が居るんだ」


和生がそう言った時確かに一瞬美音ちゃんの事が脳裏に浮かんだけど、いやいやまさかね。

そう思っていたけれど、和生がそんな話をしてからすぐに、1年生の下駄箱近くで聞こえてきた会話に僕は冷や汗をかいた。


「めちゃくちゃ否定するなお前」

「私は面白い女ではありませんので」


和生と美音ちゃんの声だった。

待ってねえ待って和生絶対美音ちゃんタイプじゃないよね嘘でしょ。和生の言う面白い女の子って双子のもう1人の方とかだったりしない?

そう思いながらも僕はとにかくこのまま2人きりにさせておきたくなくて、2人の前に姿を見せた。


「ダメだよ和生、美音ちゃん困らせたら」


僕は和生を羽交い締めにしながら「和生がごめんね?」と美音ちゃんに謝る。

和生に美音ちゃんは絶対渡さない。

帰ろうとしている美音ちゃんに僕は言う。


「また今度お勧めの本教えてね」

「はい、また図書室でお会いしましょう。ありがとうございました、さようなら」


ねえ和生、僕の方が美音ちゃん歴は長いんだよ。

立ち去る美音ちゃんを見送りながら、僕は和生を笑顔で睨み付けていた。




それからも和生は美音ちゃんに付き纏ったらしく、その結果窮地に陥った美音ちゃんを助けたとか言い始めるし。

僕だってさすがに好きな子が絡まれてたら助けるよ、けど和生と違ってしつこくしたくなくて、図書室以外では鉢合わせた時しか声掛けて無いのに…。

けど、そんな事言ってたら和生に出し抜かれちゃう。

僕は意を決して、校門を出て一緒に歩き始めた2人の跡を付け始めた。

まるでストーカーだ。

2人の会話は聞こえないけど、仲が良さそうだし美音ちゃんも時々表情が……嘘でしょ…?

しばらく2人は歩いていたけど、途中で和生が足を止めた。

2人の進行方向から向かって来るのは


「美音ーーー!!」


美音ちゃんと同じ顔の女の子だった。

なるほど、彼女が美音ちゃんの双子の姉妹か。

3人はしばらく何かを話していたけど、途中で聞こえたのは信じられない言葉だった。


「だから花丘姉妹!2人とも俺と付き合え!」

「「は?」」

「おお!さすが双子!同じタイミングで同じリアクションとは!」


ちょっと待て。

和生なんて言った?


「花丘美音も花丘美色も、俺と付き合えば俺は両手に花!美人双子と付き合うなんてなかなか無いし楽しそうだ!」


あ、美音ちゃんの表情が抜けてる。

隣で双子の片割れちゃんはわなわなと震えて、そして


「っざけんじゃねぇぞ!!!」


おお!綺麗なストレート!

和生は「は?」って顔してるけど、いやそりゃあそうなるでしょ。


「殴る必要ないだろう!」

「誰が!お前なんかに可愛い妹付き合わせるか!私も断る!」

「断る必要もないだろう!?星垣高イケメンツートップだぞ!」


見てられなくなった僕は、隠れて跡を付けていたけど3人の前に姿を現した。


「別名星垣高2大悪魔とも言うけどね。和生、フラれた子に執着するのは恥ずかしいよ?」


僕を見て双子の片割れちゃんは怪訝な顔をしている。うん、美音ちゃんにそっくりだね!


「美音の言ってたイケメンのもう1人がこれ?」

「そうだけど……『これ』とか言うのはさすがに…」

「いや、2大悪魔って自分で言ってるし!」

「そう、星垣高2大悪魔……いやぁ、来る者拒まずな上に興味持った女の子たちに声掛けてたら、『人の彼女だろうが旦那が居ようがおかまいなしに口説くクズ』とか『関係クラッシャー』とか言われるようになって、最終的に周囲の男たちから悪魔呼ばわりってね!」


美音ちゃんに自分で2大悪魔だとバラすのはイヤだったけど、どうせバレるなら自分でバラして笑ってしまおう。

ヤケだ、もうどうとでもなれと僕は笑う。


「和生がごめんね?えっと、僕は無理矢理付き合わせたりしないから、これからも図書室でお勧めの本の話だけはしてほしいな?」

「……ああ、はい、分かりました…」

「やった!ありがとう美音ちゃん、和生は連れ帰るからね。えっと、双子の片割れちゃんもごめんね、うちの馬鹿が」

「さっさと消えろクズ」

「やっぱりお前たち姉妹は面白いな!この俺たちにそんな事言うのは…」

「消えろ馬鹿」


片割れちゃん、美音ちゃんの事大好きだなぁ。

だってなんか和生連れて行く時に聞いてはいけない事もボソッと言ってた気がする。

和生を引き摺りながら、僕は言う。


「ねえ和生」

「なんだよ」

「二兎を追う者は一兎をも得ず、って言葉知ってる?」

「……知ってる」

「僕は1人だけを狙うんだけど、和生はそうじゃないんだね?」


美音ちゃんだけを僕は愛したいと思って。

だからもう、和生とつるむのもやめ時かもと思ってたけど。


「……ここから、挽回出来ると思うか?」

「どちらの挽回?」

「…………一目惚れした方だ。正直、花丘美音に違和感はあった。初めて会った時に感じたものがなかったから」

「本気になるなら応援するよ。美音ちゃんはダメだけど」

「……!圭、お前…」


引き摺っていた和生から手を離して、僕はとりあえず思いっ切りチョップした。


「ってぇ!」

「一目惚れした子を勘違いするなんて、2大悪魔としてどうなのさそれ。あと、和生のせいで美音ちゃんに警戒されてそうだから今度フラぺ奢って」

「……分かった」

「素直でよろしい」


こうして僕と和生はそれぞれ花丘姉妹に猛アタックをし始めるけど、和生の姉妹もろとも発言のせいで好感度はもはやマイナス。

だけど僕は諦めない。




だって僕はクズだから!

どうせクズなら諦めない!ただしフラれた相手に執着するのはどうかと思うから告白は好感度上がってからね!




後日、星垣高2大悪魔をもてあそぶ美人姉妹の存在が噂になったけど、実際に当たって砕けてる和生の姿があちこちで目撃されたから仕方ないよね。

僕の方は……


「佐伯先輩、図書室だけでお勧めの本語り切れないので、連絡先教えてもらってもいいですか」


鋭意関係は前進中、マイナスからの再スタートだけど、また少しずつ仲良くなっていけたらいいなと思ってるよ。

いつかもっと話せるようになるといいな。


クラスの女子、ある意味大正解でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] でもまあ、どっちも結局クズだから止めておけとしか。
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