第十六話 拉致
駅で別れてすぐ高級車が横に付く、ウインドウが下がり三神さんが顔を出すと。
「乗りなさい事の顛末を教えてあげよう」
と言うので車に乗り込み話を聞く。
「まず何から話せばいいかな」
取りあえず車を発進させると話を切り出した。
「朝鮮解放戦線のことだが、強制退去になった元在日朝鮮人だと言うことが分かった。祖国に帰っても北中国に支配されて彼ら(・・)は冷遇されていたらしいそこで中国から独立しようとしたが悉くつぶされて日本に逃げ込んだそうだ。が彼らにも日本政府は冷たかった。せっかく祖国が統一されたのだから帰りなさいとまた強制送還だ」
ん?何か違和感を感じる。
「それじゃ北中国と何も変わらない。いや中国よりもひどいことじゃないかねこの国は飢えることも病気で苦しむこともない。まるで天国じゃないかね。」
やっぱりおかしい。三神さんがこんなに饒舌になることはあまりないはずだ。それに少し若く見える。
(『センスオーラ』)
やっぱりだ。いまこの三神さん『シェイプチェンジ』を使ったは偽物だ。こうなったら。
(『トリガー』『アンロック』『プロテクト』)
と次々に小声で唱えてドアを開け高速道路に飛び出した。「プップー」とクラクションが後続の車から鳴らされる。
『フライト』
で空に逃げて交わすと同時に車は一瞬止まりかけたが急加速。三神さんからわたされたままになっていた無線のスイッチを入れる。
「こちら原井。三神さん聞こえますか?」
そのまま道を厚木方面に走っていく車を追いかけながら無線に呼びかける。
『こちら三神どうかしたか』
「いま三神さんの偽物に誘拐されかかったので、逃げてる犯人を追跡中です」
『なんだかよくわからんが、無事なんだな』
「はいそれはもう、いま厚木方面に逃走中です、相手が車なんで追いかけるのがやっとの状態です応援を早く」
『よしそちらの位置はGPSで確認した今から緊急配備を行う』
「置き土産が役に立てばいいんですが…」
しばらく飛ぶと厚木近くで止まっている二台の車を発見。三人が倒れている。ゆっくり近づきもう一度『トリガー』で使った『スリープクラウド』を掛けた。
「こちら原井海斗、容疑者三名確保。繰り返す容疑者三名確保」
『どうなった容疑者三名確保だと。どうやったんだ?』
「詳しい話は後で、ジャミングがかかっていても誰かに聞かれるかもしれない。
まずいでしょう」
一瞬言葉に詰まり、「わかった」とだけ伝えてきた。
車から発煙筒を取り出して着火すると交通整理をする俺。三神さんが道路封鎖でもしてくれたのか車が来なくなるのはすぐだ、応援は十分後にヘリで来た。
「海斗君詳しく話してくれるかい?何をどうやったらこんなことができるんだい」
改めて鉄塔の上から去った後のことを話した駅で三神さん|(偽物)に声を掛けられ車に乗ったこと話が変な方向に行きかけて不審に思い、
『センスオーラ』の呪文を掛けて偽物だと気づき運転席のドアに『トリガー』と『スリープクラウド』を仕掛け車のドアを開けて飛び出したこと、その後、
『フライト』の呪文で追跡しこの場所にたどり着いたこと。等々…
驚いた表情で聞いていた三神さん、
「ギアスの時も驚いたがフライトで車を追いかけるなんて、どこまで非常識なんだい君は、トリガーだって?あんな扱いにくい呪文を使いこなすなんて」
高校生を事件に巻き込む人には言われたくないな。
「全部魔術書図書館にあった魔術ですよ」
それはそうだが、とブツブツと言う三神さん。
「ギアスを掛けなくていいんですかあの三人」
「それならもう部下がやっているよ、二度と呪文が使えないようにね」
この人本当にレベルいくつなんだろう?
「それじゃあ君を送りながら今回のこと少し教えようか」
車を呼んで乗り込む。
「…朝鮮解放戦線は概ねあの偽物の言ったことと一緒なんだがね」
と前置きをしてから言った。
「北中国の政策でもあるんだよ、この国の魔術師を減らすのは。向こうは少子高齢化がこの国と比べてもハンパないくらいだし、魔術師の若手も例の天安門事件の時、魔術書まで燃やしてしまってね」
ふぅー、と息をついて。
「さらに南北分裂だろ、世界の発言権も失うし国防も危うい。そこで登場するのが」
「朝鮮解放戦」
と俺が言うと、にゃっと笑い。
「他の国の魔術師を減らせば釣り合いがとれると考えたんだろうな、取りあえず反日感情が強い朝鮮族にこの国を襲わせているわけさ」
それはとんだとばっちりだな。
「そしてそれを後押ししているこの国の政治家もいるって事さ」
まさか内通者って国会議員?手を組んだのか。
「国会議員にはいないと信じたいが」
と言った。
「まあ、詳しいことは君が捕まえた四人に『クエスト』の呪文を使えば分かるだろう」
「シェイプチェンジを使った所をみると内通者は三神さんの近くにいるって事ですよね」
「考えたくないが、そういう事になるな」
家まで送ってもらった。