おかえり、エリちゃん
エリちゃんの帰り道には、ちょっとコワイ人がいる。
ブレザーの制服を着た高校生。三重さんはいつも、エリちゃんの方をじっと見つめてはすっと目を逸らしていく。
彼女は決して、エリちゃんに何かしてくるわけではない。話しかけることも手を伸ばすことも、何もしない。エリちゃんを見つめる目もただただ無感情で、道端に咲くありふれた花を見つめるような目つきをしている。
三重さんはなぜ、エリちゃんをじっと見てくるのだろう? なぜ、すぐ視線を外しエリちゃんから遠ざかってしまうのだろう?
わからないままエリちゃんも、三重さんの目から逃れるようにその場を離れていく。
◇
夏休みのシーズンなのに、なぜランドセルを背負った子どもがいるのだろう。
最初はそう思ったが、塾か学童でもあったのだろうと思って気に留めなかった。
けど毎日、夕方ぐらいになるとどこか怯えた様子で歩くその姿が気になって……いつもなんとなく、目線をやっているうちに私は理解してしまった。いつも通学路にいる、道行く人々――それぞれ何か、よくわからない行動をしている人たちが誰一人としてその少女が見えていないことに。
「下校中に亡くなった小学生の女の子の霊がいるらしい」
そんな噂を、どこかで聞いた気がする。実際に新聞やニュースでそのような話が報じられたわけではないから、せいぜい「トイレの花子さん」とか「ひきこさん」みたいな都市伝説の類だと思っていたのだけど……ひょっとして事実だったのではないか。多少の誇張表現やデマが入り混じっていたとしても、実際に「小学生の女の子が死亡した」という事実は存在していたのではないか。
その少女が私にしか見えていない、いわゆる「幽霊」と呼ばれるものらしいことと悟った瞬間――その考えが一気に体の中を駆け巡り、同時に背筋が恐ろしいほどに凍り付いた。
(やばい。どうしようどうしようどうしよう)
私は今までの人生で何かオバケらしいものを見たとか、心霊現象に遭ったとかいう経験をしたことはない。なんなら金縛りだって、「今までの人生で何回かあったかなぁ?」というぐらいだ。
そんな私が、少女の霊を見ることになるなんて……純粋な恐怖と同時に「なんだって私が」という不満があふれ出した。
(こういう時、どうすればいいんだろう……除霊? いや、やり方がわからない。お寺とか神社に相談? ……そんな伝手ないよ……)
色々考えながら、それでも私は目を逸らすことしかできず……なんとなく居心地の悪さを感じながら、私は帰り道で少女とすれ違い続けた。
――そんな彼女の姿をここ数日、見かけなくなったので私は「勝手に成仏してくれたのかなぁ?」なんて思いながらちょっとほっとしていた。……八月は「お盆」という行事があることも忘れ……
「なんていったかしら、去年引っ越していった『岡さん』っていうお家ね。娘さんが亡くなったらしくて……エリちゃん、って名前でまだ小学生だったらしいわよ。可哀想にね……」
親戚の集まりでそんな話を聞き、私はまたヒヤッとしたものを感じたが……同時に、少し悲しくなった。
(……いつも帰り道にいるあの子が、いつか本当に帰れる日が来るのかな……?)
『エリちゃん、おかえり』
いつか、誰かがそう言ってあげればいいのだけど。
そう思いはするものの――私は今日も、彼女の目から逃れるように顔を背けることしかできない。