↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/86

第16斤

「どういう、ことなの……?」


 白野さんが、僕に詰め寄る。柔らかくて温かくて、ポテチの油にまみれた手が、僕の太ももに触れる。


「色々あってね」

「色々ってなに? ちゃんと教えてくれないなら……配信やめる」

「それ言えば断らないとでも思ってるんでしょ」

「う……!」

「その通りだけど」

「うべべららあ……」


 僕の行動でわっちんが引退するかどうか決まるというのであれば、焼きバター代表として引退しない道を選ばせていくしかない。とはいえどこからどうやって話せばいいだろうか。頭の中でよく誰かに説明してるくせに、いざ自分のことを説明しろと言われたら上手くできそうにない。考えがまとまらないまま、僕は一時停止が解かれた画面を指さす。


「中学時代、3人でこうやってYouTuberっぽいことをやってたんだよ。見ての通り、クオリティはお察しで再生数も多くて4桁って感じだったよ。伸びたのは大抵ヒナが可愛いだけの動画だった」

「この人たちは……クラスメイト?」

「うん。僕の隣を歩いてるさわやかイケメンはレート。本名は青ヶ丘《あおがおか》令斗《れいと》」

「ツインテールの女の子の方は?」

「ヒナ」

「本名は……なに?」


 白野さんが僕を縛り付けるかのような眼差しで睨みつけてきた。言わなきゃ駄目か。駄目だろうな。僕は白野さんに気づかれないようこっそりと深呼吸した後、再び口を開けた。


「この子の本名は……黒和《くろわ》……陽咲《ひなた》」


 僕がそう言った刹那、白野さんは目を見開き、口を開けて固まった。


「同じなんだよ。わっちん……黒和わわと」

「え……?」

「わっちんと……君と出会ったのは、偶然じゃないんだ。ヒナがいたから……僕は……君と出会って……」

「苗字が……同じ……」

「うん。だから名前を見た瞬間、君を知るしかない、君を見るしかないと……それにツインテールで……」


 駄目だ。自分でも自分が何を言っているのか理解できない。


 やっぱり、自分の説明は、上手くできそうにない。


『聞かせてよ、××××××××××××!』


 頭の中で、×××××××××××。


「どうして……やめたの……?」


 でも、いつものように言葉足らずな白野さんの言葉も、今ははっきりと理解できた。僕自身が、同じ状態になっているから。


「亡くなったんだよ。彼女」

「えっ……」


 白野さんは絶句した。僕だって正直まだ、心のどこかで、今もどこかで彼女が平然と生きているんじゃないかって思ってる。葬式だって親族だけで行われて、出席できてもいないから。


「配信前だし、重い話はやめよう。このことはいつかまた話すよ」

「う、うん……」


『渋谷にとうちゃーく!』


 僕は、僕たちがヘトヘトになって渋谷まで辿り着いたところで、少しだけ強引に、彼女からリモコンを奪った。そして再び、リムリムとめろんちゃんの配信を画面に流す。リモコンに付着した油はティッシュで拭いた。


『こっから撃っちゃお!』

『おっけぇ~』


 白野さんは僕の行いに反論も抵抗もせず、それ以上僕に何も聞くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。