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絶望の果ての花  作者: 満月 れな
7/16

幕間・1

豪華な部屋。その部屋で、男は嗤う。

赤みがかった黒髪は少し長めに伸ばしている。上には服を着ておらず、半裸状態ではあったが、少し古びたように見える布をマントのように身に付け、身体を隠していた。

男は、何よりも特徴的な紅色の瞳を輝かせて、水晶玉を見つめていた。

そして、再び嗤う。


「フッ……あの女め、また動き出したか……」


水晶玉に映るのは、5人の人物だった。

しかし、巫女服の2人や女狐には余り興味なかった。

男子のことも少し気になったが、1番興味を持ったのは、赤髪の少女だった。


「アイツ……相変わらず演技が上手いやつだ。人間など、恐れておらぬだろうに」


思わず、思ったことを口に出す。すると──


「なんか、良いもんでも見てはんの?」


男しか居ないはずの部屋に、女の子の声が響いた。


「何だ、いたのか?」


男は扉の方を見た。

すると、扉の奥から少女が出てきた。

金髪のショートヘアーに黄金色の犬耳らしきものが生えている。そして、背中には3本の大きな尻尾が見えた。

少女は──妖狐だった。


「どうせ気付いとったんやろ? で、何見とるんや?」


男の覇気に臆することなく喋りかける少女。

それは、少女が男の直属の眷属だから許されることなのだ。

少女の名は輝雷(キラ)。ただの妖狐ではなかった。


「弟の娘が再び動き出したのだよ」

「へぇ……って事は、ヌシの姪っ子っちゅーことか?」

「そうだな。お前には兄弟とかいないのか?」

「せやね……姉貴がおったわ。昔に死んだけどな」

「そうか。すまないことを聞いたな」


特徴的な喋り方をする(関西弁で喋る)キラ。

──キラは異世界生まれだった。

あるとき、突然この世界に召喚された。そして、召喚主に捨てられたところを今の主であるこの男に拾われたのだ。


「構わへんよ。それより、その女、なんか気になんねんな……」


キラは女狐の姿を見てそう言う。


「この狐か?」

「せや。ウチとおんなじ、妖狐やろ? (やっこ)さん、異世界生まれとちゃうんかいな?」

「さぁな。水晶玉からじゃ分からん。だが、この巫女服の2人は異世界人らしいぞ」

「へぇ……巫女ちゃんか。懐かしいなぁ……」


キラは過去を懐かしむように目を閉じていた。


「そうか。確か、この狐はくるみ、と呼ばれていたな」

「くるみ……明らかにこの世界の人の名前ちゃうよな?」

「巫女服の2人が名付けたそうだ。記憶が無いと言っていたな」

「ほぉん……記憶喪失か。まぁ、世界渡っとるんやったらあり得るな。どないなん?」

「今は分からん。だからこれからも監視するつもりさ。あの女がいるからな……」


男は再び水晶玉を見つめる。


「その、ヌシが言うとる女って、この赤髪の小娘かいな?」

「あぁ、そうだ」

「ほな、こいつがヌシの姪っ子ちゃんってことか?」

「そうだ」

「でも、何でそんなにこいつのことが気になんの?」


キラは水晶玉をつつきながら、そう質問した。


「フッ……あの女はこの世界にいてはいけないのだよ。だから我が消してやろうと思ってね」

「消すんか……ってか、なんでおったらあかんのよ?」

「あの女は……いや、お前は知らなくて良い」

「え、何よ、教えてぇな~!」


キラは口をとがらせてそう言った。しかし、男は教えようとしなかった。


「そのうち教えるさ。それまでにAランクぐらいになってくれないか?」

「……分かった。どうせ教えてくれんのやろ? それに、今はCランクやし、Aやったら余裕でいける。任せといて!」

「あぁ、頼むぞ」


キラは張り切って部屋から出て行く。

再び1人になった男はまた嗤う。


「なぁ、お前は何故生きる? お前は必要とされていないのだ。おとなしく眠れば良いのにな」


男は静かにそう呟き、赤髪の少女を見つめたのだった。


          ○


石壁で出来た部屋の中で、少女は静かに、机に向かって座っていた。

髪の毛は少し暗い赤色に輝いており、肩より上で切り揃えている。身長はまだ小さく、10歳くらいの子供に見えるが、そんな幼い見た目には関わらず、黄金の瞳は何の感情も宿していなかった。


「──お姉ちゃん」


静かな空気を破るように、部屋に、嬉しそうな明るい声が響いた。

声がした方を見ると、別の、赤髪の少女が立っていた。その子は、いつも少女が見ている姿とは違っていた。

長く伸びた髪の毛は、ツインテールで纏めており、服装も、黒いドレスの服に変わっていた。


「エレナ……? いつもと服が違うね」


ツインテールの少女──エレナは、(感情)を取り戻した少女の側に行き、笑顔を見せた。


「エヘヘッ! ユラさんに作ってもらったの! 似合ってるかな……?」

「似合ってるよ。ところで、ユラって……?」

「あ、えっとね、昨日出会った人達の1人。他にも、くるみさんとミレイさんもいるよ」

「へぇ……」


少女はエレナのことを、エレナが生まれたときから知っていた。それ故に、今、少女の目に映るエレナの様子はとても信じられないものだった。


「──怖くないの?」

「……怖くないって言えば嘘になるけど──」


エレナは、強い覚悟を秘めた瞳で、少女を見つめた。


「信じてみようって、思ったの。3人のこと、信じてみようって」


そう言って笑顔になるエレナ。そのときに、少女は全てを悟った。


(──遂にあなたも、希望を得たのね……)


恐らく、エレナの言う3人は、エレナにとって重要な存在になる。エレナの、希望たる存在に──


「……そう、良かったね、エレナ」

「うん! 今はまだ、怖くて喋ったりは出来ないけど、それでもいつかは……」

「……そうだね。いつかはきっと出来るようになるよ」

「──うん!」


少女は暗い表情を何とか隠して、エレナの話を聞いた。


(……ユラ、くるみ、ミレイ、ね……果たして、本当にアナタ達は“希望”になれるかしら──)


少女は知っている。エレナの秘密を。

──この世界の絶望を。

それ故に、エレナの希望を、軽視することは出来なかった。

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