004話
──冒険者組合・試験会場。
2人の番となった。私達は端の方で見学している。
まずはエルガ君からだった。
「ほう……これまたガキが冒険者かい? 目的は知らんが……火傷しても知らんぞ?」
召喚師の試験官、アルフレッドさんが顔をしかめてそう言った。
あの人、全員にそんな感じのこと言ってるんだよね。
「大丈夫だよ。おじさんが試験官か?」
「そうだ。あと、オレの名はアルフレッドだ。覚えておけ、ガキ」
「俺はエルガ。アルフレッド、ガキ呼ばわりはやめてもらおうか」
あれ?なんか今、2人の目線が交わったときにヒバナが見えたような……?
「お兄ちゃん……」
「なんかあの2人、今にも噛み付きそうな勢いね……」
「だね……」
エレナちゃんが呆れたような目でエルガ君を見ていた。
ユラとミレイも諦めたような顔でアルフレッドさんを見ていた。
「まぁ良いさ。好きなようにしろ。だが、死んでも知らんぞ?」
「フンッ、心配どーも。まぁ、安心しな。俺は強いからよ」
「そうかいそうかい、それはすまなかった。ならば始めようか!」
「うわぁ……アルフレッドさん……」
「もう、お兄ちゃんってば……」
「あの2人バチバチだね……」
「何で男ってあぁもキレやすいのかしら?」
やっぱり、ヒバナが見えるよ。
てか、アルフレッドさん、子供相手に何キレてるの……?
そしてエルガ君、自分で自分を強いって言うのはかなりイタいよ?
と言う私の心の突っ込みは無視され、アルフレッドさんは魔物を召喚した。
「今、お前はGランクだ。そしてこの魔物はFランクだ。これを倒せばFランクになれる」
「なるほど、ランクごとに魔物がいて、その魔物を倒せばそのランクで認められるんだな?」
「そ、そうだ……。頭は賢いようだな。Fランクは邪悪小鬼族だ。準備が整ったら合図を出せ」
「もういいぜ。始めてくれ」
「……分かった。さぁ、敵を倒せ!」
ダークゴブリンがその場に解き放たれた。
ちなみに戦闘場所は結界にて隔離されているので、私達に被害が及んだりはしない。
周りでは、アルフレッドさんとエルガ君の会話を聞いていた他の冒険者が沢山居た。
こう言うちょっとした戦闘でも、この世界では娯楽になるのだとか。前にそんな話をユラから聞いていたが……ホントにいっぱい居る。
「おい、あのガキ、アルフレッドに喧嘩売ってるぜ……」
「大丈夫かな? 子供みたいだけど……」
「子供なのにやるなぁ、アイツ。冒険者なんてさ」
「え、でも強いって言ってたよ……?」
「どうせ、言ってるだけじゃねーの?」
そんな会話がちらほらと聞こえてくる。そして、試験開始。
しかし、それは一瞬だった。
エルガ君は目に見えぬ速さでダークゴブリンを倒して見せた。
「なっ──!?」
「はい、次頼むぜ」
「は、速ぇ……」
「何あの子!? 子供なのに速すぎ!」
「え、マジで強いんじゃね? あのガキ……」
かなり衝撃だったようで、この場にいる全員が驚いていた。
そして、ユラ達も。
「は、速いわね……」
「ちょっと、見えなかったんだけど!?」
「エルガ君って、私達より強いんじゃない……?」
「……」
エレナちゃんは疲れた顔で、何も言わなかった。
「ふ、フン……ダークゴブリンくらい、誰でも倒せるさ……このくらいで調子に乗るなよ?」
「良いからさっさと次行ってくれよ」
「……良いだろう。その態度、あとで後悔するだろうさ……」
アルフレッドさんはそう言ってEランクの魔物を召喚した。
召喚されたのは……あれ何? なんか半透明で浮いてるけど……
「こいつは幽霊だ。物理攻撃は効かんぞ。準備が出来たら──」
「もう始めてくれ」
「──分かった。後悔するなよ!」
いやさっき、その態度後悔するだろう、とか言ってなかった!?
って、もういいや。どうせ聞こえてないし。
「さぁ、こいつを倒せ! 始めっ!」
そして、ゴーストが解き放たれた。
するとエルガ君は、右手を上に突き出した。
「大気圧裂断刃!」
エルガ君の右手の上に空気の玉ができ、その空気玉は刃の形へと変形し──ゴーストへと降り注いだ。
なんとエルガ君、魔法を詠唱無しで発動させたのだ。
私だって、そう簡単にはできないのに……!
「スゲぇ!」
「魔法も使えるんだ!」
「しかも無詠唱だよ! 格好いい!」
エルガ君の人気が急上昇。
まぁ確かに、凄いかも……。
「──魔法ぐらい誰でも使えるさ。無詠唱はまぁ……凄いが……」
「次行こうぜ」
「……分かった。次はこいつだ」
続いてEランク。召喚されたのは骸骨剣士だった。
「ふぅん……不死系魔物か。始めよう」
「フン……ただのスケルトンじゃないぞ。油断するなよ?」
そして、スケルトンが解放された。スケルトンはカタカタと音を鳴らしながらエルガ君に斬りかかった。
「うぉっと!」
エルガ君は難なくそれをかわす。
結構余裕そう……。
「なるほどな。元騎士の死霊騎士か……ならば俺も剣で戦おう」
「ほう……余裕そうだな……だがしかし! そいつは元聖騎士だ! お前の勝てる相手ではな──」
「聖霊子連斬撃!」
「何ぃ!?」
聖なる刃にて、デスナイトは浄化された。
それも一瞬だった。
「スゲェェェ!」
「格好いいよ……!」
「あれで子供かよ!マジで強ぇな!」
周りは完全にエルガ君の強さに魅了されたようだった。
私達は驚きで言葉も出ない。
「神聖魔法も操るか……次にいくか?」
「次はCだよな?」
「あぁ、そうだ」
「──やるぜ。せっかくここまで来たしな。Bぐらいまで行くか」
「ッ──じゃあ、こいつを倒せ。Bランクはそれからだ」
そう言って召喚されたのは、下位悪魔だった。
「悪魔族か。楽勝だな」
「何だと──!?」
「始めようぜ」
「……よし、こいつを倒して見せろ!」
その声と同時に、デーモンが動き出す。しかし──
「七彩の終焉!」
慈悲の輝きを放つ虹色の光線で、デーモンは塵となった。
「ば、馬鹿なッ──!?」
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
「スゲェェェ! スゲぇよ!」
「めちゃくちゃ強いじゃねーか!」
この空間にいる人全員が興奮していた。
「凄いわね……あの子」
「うん……」
「もしかして、エレナも……」
私達はチラッとエレナちゃんの方を見る。
エレナちゃんは諦めたような顔だった。
「次はBだ。……やるか?」
「勿論だ」
「ならば……こいつを倒して見せろ!」
召喚されたのは──上位悪魔だった。
……あれ? あの魔物って……Aランクじゃなかったっけ?
と言う私の疑問は無視されて、戦闘は開始された。
「物理攻撃は効かねぇし……あ! エレナ!」
「……良いよ」
名前呼ばれるだけで分かるの!?
やっぱ、兄妹って凄い……
「サンキュー! って事で……聖霊子閃光撃!」
エルガ君が放った聖なる光で、グレーターデーモンはこの世から消え去った。
「嘘だろ──!?夢でも見てるのか!?」
「ヤバい、格好良すぎる……!」
「……Aランクに行くか?」
「いや、Bランクで十分さ。ありがとな、えっと……アルフレッド」
「フッ、久しぶりに楽しめたよ。こちらこそありがとな、エルガ」
今ここに、男の友情が芽生えた瞬間だった。ってそうじゃなくて!
「エルガ君、強すぎでしょ……」
「Aランクとか余裕そうよね?」
「ヤバい、私達よりも強いとかヤバい……」
「次、エレナだぜ。……? どうした? 浮かない顔して」
エルガ君、めちゃくちゃ元気そう。息一つ乱してないし……
「あ、いえ、何でもないわ。それより、エレナ。頑張りなさいよ」
「……はい」
そうだよ、次はエレナちゃんの番だ。
エレナちゃんは少し怯えた様子で、アルフレッドさんの方に行った。
「ほう……今度はお嬢ちゃんかい?またまた子供が冒険者だなんてねぇ……」
「……」
「まぁ、良い。始めようか。まずはFランクだ」
そう言って召喚されたのは、ダークゴブリンだった。もしかしておんなじ魔物が出てくるのかな?
「さあ、こいつを倒せ!」
ダークゴブリンが動き出した。
しかし。エレナちゃんは動かなかった。ってか、目も閉じてるんだけど!?
「今度は女の子だって。大丈夫かな?」
「流石にさっきの小僧とは違うんじゃないか?」
「あの子、目閉じてるよ?」
などなど、周りからは心配な声が聞こえてきた。
「エレナ、大丈夫かしらね?」
「どうなんだろ……?」
「エレナちゃん……」
と、そのとき、エレナちゃんは目を開け──
「──えっ!?」
ダークゴブリンが、バラバラになっていた。
エレナちゃんの方を見ると──その手には沢山の短刀が握られていた。そのナイフは、刃の部分が少しそっていて、赤色に輝いていた。あ、赤色ってのは、血の色じゃないからね? 刃の部分が赤みがかった色だと言うことだからね?
「す、スゲぇ……」
「格好いい……」
「速ぇ……」
これには、アルフレッドさんも驚いていた。
「驚いた……一瞬でやるとは……」
「長く生きると、嫌でも武芸は身につくから。この程度は造作もないわ」
「長くってのは気になるが……まぁ良い。次行くか?」
「勿論、行くわ。お兄ちゃんと同じ、Bランクは行きたいわね」
エレナちゃん、普通に喋ってるんだけど……?
「あの子、凄いわね……」
「エルガよりも速くない?」
「確かに……」
「アイツの方が戦闘には向いているんだ。俺は基本的な護身武術ぐらいしか知らないからな」
「そうなのね……」
つまりエレナちゃんは、ホントは強いってこと?
「え、でも、いじめられてたんだよね……?」
「まあ、人を傷つけるのに抵抗があったんだと思う。なかなか戦おうとしなかったからな。それに、あのときは幼かったし」
あ、なるほど……。
「それに──」
「それに……?」
「──アイツ、戦闘状態に入ってるぜ」
「バトルモード……?」
「あぁ。アイツは戦うときだけ、人が変わるんだよ」
そうなんだ……。だから、めちゃくちゃ喋ってるんだね。
「よし、じゃあ次はこいつだ」
召喚されたのは巨大蝙蝠3体だった。やっぱり試験を受ける人によって召喚される魔物は違うみたいだね。
「準備できたら──って、もう出来てそうだな……」
「……いつでも良いわよ」
「よし、こいつらを倒して見せろ!」
コウモリ達が一斉に襲い掛かっ──て来なかった。
エレナちゃんの覇気に怯えていたのだ。
そして、その隙を突くようにエレナちゃんは、ナイフでバラバラにする。
「すっげー!」
「強すぎでしょ!?」
「さっきのガキもそうだが、何者なんだ……?」
皆が再び興奮した。ホントに強すぎだよね……
「──次行くか?」
「勿論」
「よし、次はDだ。こいつらを倒せ!」
そして、召喚されたのはスケルトン10体だった。ってか、10って多くない?
「流石に死霊騎士は呼べんからな。こいつらを全員倒してもらうぞ」
「問題ない。早速、始めても良いかしら?」
「……よし、良いだろう!」
スケルトン達はカタカタと音を鳴らしながらエレナちゃんに迫る。
しかしエレナちゃんは、ナイフを床に落とした。
そして、祈るように手を組んで、魔法を発動させた。
「──全ての闇を浄化したまえ。聖霊子閃光撃!」
聖なる光がスケルトン達を包み込み、成仏させる。
ってか、あの魔法ってエルガ君が使ってたやつじゃ……?
「ねぇエルガ。あの魔法って……」
「あれはアイツの魔法だよ。さっき俺が使ってたのは、エレナの力を借りて、なんだ」
「え? どう言うこと?」
「魔法契約って言ってな。契約主の力を借りることが出来るんだ。っと言っても、事前に許可を得なけりゃいけないんだが」
「そんなのがあるのね」
「魔法って凄いね……」
そして、アルフレッドさんは──
「ッ──飛び級だ。今、Cランクだがどうする?」
エレナちゃんの強さを認めたようだった。
飛び級ってなかなか無いらしいから、ホントに凄いんだね。エレナちゃんって。
「次戦って勝てばBランクってこと?」
「あぁそうだ。どうする? するか?」
「勿論、やるわ」
「良し来た! さぁ、こいつを倒せ!」
そう言って召喚されたのは上位悪魔だった。
「デーモンなら……聖霊子溶滅撃!」
デーモンは全てを溶かす光によって消え去った。
ってか無詠唱で発動した! 凄い、2人とも出来るんだ……
──って言うか、一瞬で倒しちゃうのも慣れてきちゃったよ。
「ヤバいぞ……」
「一気に2人もBランクの子供が……!」
「あの2人オレらよりも強ぇよな?」
そんな声が聞こえてきた。けどね、それ、おんなじメンバーの私達も思ってるの。
怖いよね、新人に抜かされるのって。
「……Bランク合格、おめでとう。Aランクに行くか?」
「いいえ。Bランクで構わないわ」
「そうか。受付で冒険者カードを受け取ってこい。そしたら、正式な冒険者さ」
「そう。ありがとう」
エレナちゃんは、会話を終わらせると帰ってきた。
「アンタたち、凄いわね、ホント……」
「もう、凄いしか言ってないよ、アタシたち」
「エレナの魔法とか凄かったわね」
「確かに! 今度、魔法教えてよ!」
「い、良いですよ……」
凄く興味あるので、頼んでみたら、オッケーをもらった。
そして、バトルモードとやらが解けたのか、元のエレナちゃんに戻っていた。
「じゃあ、カードもらいに行くか」
「うん……」
そして、私達は会場をあとにした。
でも、まさか私達より強いなんてね……。少し、衝撃の方が大きかったけど、強い人が居るのは心強い。
2人の妹ちゃんが見つかってからも一緒に居たいって思ったのは、ここだけの秘密なのだった。
エレナ・立ち絵