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絶望の果ての花  作者: 満月 れな
3/16

003話

 ──夜。

今日は満月だった。私は、エレナちゃんの様子を見ておくために、ギルドに残っていた。

エルガ君は、私達の家で休んでいる。

そして、私の隣では、エレナちゃんが星を見つめていた。私が、一緒に星を見よう、と誘ったのだ。

魔法の効果で、怪我はある程度治っているらしいので、怪我の方の心配は要らない。


「ねぇ、エレナちゃんって、友達とかいるの?」


エルガ君に話されたいじめの話から、エレナちゃんには友達はいなさそうに思えたが、決めつけは良くないと思い、尋ねてみた。しかしエレナちゃんは顔を、小さく横に振った。


「そっか……じゃあ、私と友達にならない?」

「──!?」

「あっ……」


思ったことをすぐに言う、悪い癖が出てしまった。

エレナちゃんも、驚きすぎて固まっている。


「ご、ごめん……変なこと言っちゃったね……」


嫌われたくないはので、謝っておいた。

しかし──


「なりたい……」


と言う、エレナちゃんの、めちゃくちゃ小さな呟きが聞こえたのだ。

これがもし、幻聴とかだったら私、落ち込んじゃうけど……


「……その、エレナちゃんは──」

「──昔は、いました……」

「えっ……?」


今のは確かに、喋ったよ! ちゃんと、口が動いてるのが見えたもん。

でも、昔はって……


「……お兄ちゃんから、聞きましたか……?」

「えぇっと、聞いたって……何を……?」

「……いじめの話……」

「ッ──」


そのとき、私の耳に、覚悟と後悔の音が聞こえた。

しかし、エルガ君とは違う、罪悪の念を表す音も聞こえてきた。


「──うん。聞いたよ」

「……そうですか」


エレナちゃんは俯いたまま。でも、その目には涙が溜まっていた。


「……変わりたいんです」

「変わりたい……?」


エレナちゃんはコクリと頷いた。そして、言葉を続けた。


「このままじゃダメだって……いつまでも逃げてちゃダメって……」

「……」

「だから……くるみさん達のこと、信じられるようになりたいんです……」

「エレナちゃん……」


人を信じることを恐れている、か……。

でも、人を信じられるようになるには、エルガ君から聞いたあの「トラウマ」を克服しなければならない。

エレナちゃんにとっては大きな傷だろうし、私達もしっかり支えてあげないとね。


「……大丈夫だよ!」

「えっ……?」

「きっとエレナちゃんなら、変われるよ!」

「くるみさん……」


エレナちゃんは希望を持った瞳で、でも、驚いた顔で私を見つめていた。

私は少し照れくさくて、ふと空を見上げた。空には、満天の星が輝いていた。


「……ほら、上見て。星が綺麗だよ」


私の声に、エレナちゃんも顔を上げた。


「──綺麗……」


真っ暗闇に瞬く星々。その輝きは温かい光で私達を照らしていた──


       ○


──そして、次の日。

エレナちゃんの怪我が完治! と言うことで家──拠点に帰っていた。


「エレナの部屋はここよ。エルガとは別だけど大丈夫?」


ユラの質問に、エレナちゃんはコクコクと頷いた。


「良かったわ。この部屋は好きに使ってもらって構わないわ」


エレナちゃんは再び頷く。やっぱり、喋らないか……。

昨日のこともあったし、ちょっと期待してたんだけどね。


(……ねぇ、くるみ?)

(な、何?)


急にミレイに念話で話し掛けられ、少し、驚いてしまう。


(いやぁ……エレナが、くるみのことずっと見てるからさ……昨日何かあったのかなぁ? って)

(えっ?)


ミレイに言われて気付いたが、確かに、エレナちゃんが私の方を見ていた。

しかし、私を見ているのはエレナちゃんだけじゃない。

ユラも私のことを見ていた。まぁ、ユラに関しては「見る」と言うより「睨む」だけどね。

そして、恐らくだが、ユラもこの会話を聞いている。


(いや……昨日、2人で喋ったんだよ。それで、仲良くしようねって──)

(ちょっと待て、2人で喋ったのか?)


うわ、びっくりしたぁ!

急にエルガ君が会話に入り込んできた。ってか、これ秘匿回線なんだけど……?

まぁいっか。どうせ話すつもりだったし。


(うん、そうだよ。昨日の夜、星を見ながら2人でね)

(マジで……?)


ミレイが、こっちを見ずに、顔をしかめていた。


(うん、マジで)

(スゲぇな、くるみ……)

(やるわね、アンタ)

(だって、2人が私に押しつけるんだもん! 別に変じゃ無いでしょ?)

(いやいや、アイツが喋ったって……アイツは人を恐れてるんだぞ? 特にくるみは──あっ、すまない……)

(あ、そう言えば……)


そう言われると、私、(多分)1番恐れられてるのに、何も考えてなかったな。

もう少しエレナちゃんの気持ちに配慮すべきだったかな。


(まぁ、良いんじゃない?)

(そうよ、エルガ。あの子のことはあの子が決めるんだから。あの子が信じるって決めたなら、それでいいんじゃないかしら?)

(……それもそうだな。ユラの言う通りだ)


「ねぇ……」


念話で会話していたら、エレナちゃんがちょっと不思議そうにエルガ君を見つめた。

まぁ、ずっと黙ったままだったからね。


「ど、どうしたのよ?」

「い、いえ……」


少し気まずい雰囲気になってしまったので、話題を変えてみる。


「……冒険者登録する?」

「アンタ、急ね」

「ホントに、急すぎだよ……」


怒られた。ってあれ? 似たようなことが前にもあった気が……

取り敢えず、思ったことを言って誤魔化しておく。


「──だ、だって、早く5人で冒険したいもん!」

「……へぇ」


何か思ったのだろうか? エルガ君がそう呟いた。


「え、何?」

「あ、いや。何でもない」


エルガ君はそう言って、そっぽ向いた。


「え、何……? 教えてよ……」

「いや……くるみって素直だなぁって」


あっ、教えてくれた。


「……確かにそうね。くるみって素直かも」


エルガ君の答えに、ユラが賛成した。


「え? でも──」

「そうだね! 確かにくるみって馬鹿が付くぐらい素直かも!」

「え、何それ!? 馬鹿が付くぐらいって……」

「いや、良いと思うぜ? 素直なことは」


私がちょっと悔しい顔をすると、エルガ君がフォローしてくれた。って言っても、エルガ君のセリフが始まりだけどね。


「人って、成長していったら、なかなか素直になれないからな。くるみのそう言うとこは好感持てるよ」

「あ、ありがとう……」

「まぁ、素直すぎて危なっかしいけどな」

「うっ……」

「まぁ、そうね。危ないけど、素直なのは良いことよ」

「うぐぐっ……」


2人とも、私が危ないって……

確かに危ないかもしれないけど……


「仕方ないじゃん……音で大体分かっちゃうもん。嘘かホントか、人の性格とかも全部」

「んー……でも、アタシだって、嘘吐くの苦手だよ? だから、気にしなくて良いんじゃない?」

「そう言う意味じゃないんだけど──」

「──まぁ、ミレイの言うとおりだろ。気にすることないんじゃないか?」

「うん……エルガ君がそう言うなら──」


と、そのとき。


「しゅーしゃまぁ……」


と、可愛らしい声が部屋に響いた。


「もう起きたか」

「……そうみたい」


そう言いながら、エレナちゃんは空間に歪みを作った。すると、その歪みから、猫……? みたいな、羽の生えた謎の生き物が出てきたのだ。


「そ、その子は……?」

「あ、えぇっと……」

「エレナの眷属のメウだよ。特殊個体(ユニークモンスター)さ」


ユラの質問にエルガ君が答えてくれた。って言うか──


「ユニーク?」


そう、それ。


「ユニークモンスター? って何?」

「あぁ、ユニークってのは──」


エルガ君曰く。

この世界の魔物はいろいろな種に分類されるらしく、特殊(ユニーク)はその種の中の1つらしい。

特殊(ユニーク)以外は、ほとんどの魔物が、古代種、中世種、近代種の3つに分類されるとのこと。

しかし、例外も居るらしく、伝説種(レジェンド)と呼ばれる魔物もいるとか。


「レジェンドには、竜や魔王がばってきされているんだ」


今まで、ずっとこの世界で冒険してきたが、そんな話は聞いたことなかった。

そして2人は、夢でも見ているような顔をしていた。


「魔王……」

「竜……」

「アニメっぽいね」

「異世界なんだし何でもありなんじゃないの?」

「……2人とも?」


エルガ君が呆れたような顔で2人を呼び戻す。


「あぁ、ゴメンなさい。メウの話よね」

「あ、うん。理解してくれてるのなら良かったよ」

「ん~、だぁれー? この人たち……」


2人の意識が戻ってきたのを見計らってか、メウちゃん……? が喋った。


「えっとね……この人達が私達を助けてくれたの」

「そうなのー? メウ、優しい人好きー!」


可愛い……めちゃくちゃ素直で、子供みたい……。


「──メウって女の子なの?」

「多分、メス……だと思う」


あ、良かった。メウちゃんで合ってた。


「……種族は?」

「メウはねー、猫魔族(ネコデビル)なのー!」

「ネコデビル……?」

「メウは確か、能力獲得による進化でユニークになった……よな?」

「そうだよー!」

「やっぱり、この世界って不思議ね……」

「だね……」


恐らく、ユラとミレイは理解できてないと思う。私も理解できてないもん。

そんな2人を見て空気を読み、エルガ君が口を開いた。


「──さて、ギルドに行くか!」

「そうだね!」

「……でも……」

「大丈夫よ。私達がいるわ」


エレナちゃんが恐れているのはおそらく、ギルドにいる他人のこと。

しかし、自分で言ったからか、私達を信じるようだった。


「じゃあ、行こう!」

「あぁ、そうだな」


       ○


と言うことで私達はギルドにいた。

2人は、受付で登録手続きを行っていた。


「──それでは、こちらに記入をお願いします。分かる範囲だけで結構ですよ」

「はーい」

「2人とも、何ランクになるかしら?」

「う~ん……そうだね……Cランクとかじゃない?」

「意外と強かったり!」

「でも、やっぱ貴族の子ならそこまで強くないんじゃない?」

「──よし、書けた」

「……私も」

「では、確認させて──え!?」


受付のお姉さんが驚いていた。何かあったのかな?


「う、うる……キル……」

「大丈夫か……?」

「あぁ……えっと、どの部門にて識別試験を受けますか?」

「何があるんだ?」

「えっと、討伐、探索、採取の3つが主な部門です」

「どれにする……?」

「──じゃあ、俺は討伐にするぜ」

「え……? ま、まぁ、1番簡単なのは討伐部門ですが、名前の通り、魔物の討伐が試験ですので、1番危険ですよ……?」

「問題ないさ。お前はどうする?」

「……討伐……」

「えっ……な、何かあったときは自己責任となりますが……」

「大丈夫だ。さっそく試験を受けたいんだが……」

「わ、分かりました……」


なんか、お姉さんがショック受けてるみたいなんだけど……?

やっぱ、貴族ってことに驚いてるのかな?


「あの……」

「何だ?」

「あ、いえ……人違いだったらゴメンなさい……ウルキルアハートって──」

「あ、多分、思い浮かべてるやつで合ってるよ」


ウルキルアハート……? 2人の姓かな?


「や、やっぱり──!? 大丈夫なんですか……? 家の方とか……」

「あぁ、親が見聞を広めてこいって、送り出してくれたんですよ」


うわ、エルガ君、平気で嘘言ってる! まぁ多分、誰も違和感とか持たないと思うけど……


「なら良いんですが……まさか本物の貴族に会えるだなんて……私、ドレスとか憧れてたんですよ~! やっぱり、お嬢様って、フリフリなの着たりするんですか?」


お姉さんはキラキラした目でエレナちゃんを見つめていた。やっぱり、お嬢様とか憧れるよね~。

そしてエレナちゃんは、流石にしゃべりはしないが、頷いて、反応はした。


「へぇ! 良いなぁ……! 私もドレス着てみたい……」

「……お姉さんなら似合うと思う……」


「ホントですか!? 嬉しいです! ありがとう、エレナさん!」


凄い! 自分から喋りかけた!

これは進歩してるよ。この調子ならすぐに問題なく喋れるようになるんじゃないかな。


「あのぉ……」

「ご、ゴメンなさい! 試験ですよね! 会場にご案内しますね」


エルガ君……まぁ、男の子とかには分かんないのかもね。女の子って難しいもん……。

2人は、お姉さんに案内されて、試験会場に行った。私達もそれに付いて行き、見学する。

でも──2人とも、何ランクなんだろう……?

楽しみだなぁ……





ミレイ・立ち絵

挿絵(By みてみん)

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