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絶望の果ての花  作者: 満月 れな
2/16

002話

「じゃあ、一緒に行動するって決まったし、私達は家の準備をするわね」

「え? 家の……準備……?」


ユラのセリフに、エルガ君はきょとん顔になった。


「うん。2人とも家とかないでしょ? だから、アタシたちの家の部屋を貸してあげるの」

「い、良いのか……? そんな、世話になってばっかりで……」

「良いよ、別に。もう仲間なんだしさ」

「……」

「……感謝する。ホントにありがとう」


エレナちゃんは相変わらず無口だが、エルガ君は今にも泣きそうな、でも、笑顔で礼を言った。


「い、良いよ! 礼なんて……!」


そう言うミレイだが、顔と音はとても嬉しそうだった。


「──じゃあ、ミレイ、行くわよ」

「あ、うん」

「え? 私は……?」


なんか、忘れられてる気がするんだけど……?


「あ、アンタは2人を見ててちょうだい。エレナは怪我もひどいから」

「そうそう。くるみは子供の相手するの得意でしょ!」

「え、そ、そうだけど……」


私は手伝わなくて良いのかな……? と、思ったが、2人の笑顔を見て諦めた。これは、拒否しない方が良いのだ。

それにエレナちゃんたち、子供じゃないけどな……。


「分かった……2人を見ておくよ」

「じゃあお願いね!」

「頼むわよ」


そう言って、2人は部屋を出て行った。

やることもなく、ふと、エレナちゃんの方を見てみた。


「……」


エレナちゃんの方も怯えた目で、私を見ていた。しかし、すぐに目をそらされる。

なんとかして、この子の心を掴まないと……! そして心を開かせる!

って言っても自信ないんだよね……。

どうやったら信じてくれるのか。

そもそも、エレナちゃんに何があったのかを把握しないと話が進まない気もするし……。

これは難儀だなぁ……。


「──なぁ、くるみ」

「な、何?」


急に話し掛けられたので少し驚いてしまった。


「……くるみって、異世界人か?」


──異世界人、か……。

話はユラから聞いたことある。と言うか、ユラ達が異世界人であるため、知らないと言う方がおかしい。

異世界──今、私達がいる世界とは別の、魔力がない世界。魔法がなく、魔物も存在しないらしい。

しかし、ユラ達の生まれた場所は特殊らしく、今いる世界とは大差ないのだとか……。

それはともかく、異世界についての話は知っていた。しかし──


「……分からない」


私は少しうつむいた。


「分からない? 何で……?」

「……私ね──」


私はうつむいたまま、昔の景色を思い出そうと、目を閉じた。

けど──瞼の裏に、思い望む景色は映らなかった。


「──記憶がないの」

「えっ!?」

「……!」


私の言葉に、エレナちゃんも反応した。


「ど、どう言うことだ……?」


エルガ君がそう問うてきた。やっぱり、そう簡単に理解できないか。


「そのまんまの意味だよ。昔のことを全く覚えてないの」

「……記憶喪失?」

「うん。そうだね──って、え? 喋った!?」

「ッ──!」


思わず、大きい声で反応してしまった。


「ご、ゴメンね……」


せっかく喋ってくれたのに、私のせいでまた喋らなくなるのは残念なので、謝っておく。


「……」

「記憶喪失……覚えてる事は?」

「えぇっと、ユラ達に会ったときからのことは覚えてるの。でも、その前のことは全然──」

「そうか……」

「──だから、どこで生まれたとか、そう言うことは分かんないんだ。……でも、初めてユラ達に会ったときは、私もエレナちゃんと同じような感じだったよ」

「……」


そもそも、人がどんなものか分からなくて、怯えていたのを覚えている。

それで、余りにも怖くて、今のエレナちゃんのように、喋ろうともしなかった時期もあった。

2人にそのことを話すと、意外だったのか、言葉を失っていた。


「──それ、ホントか……?」

「……」

「うん、ホントだよ。でも、2人が諦めずに私に話し掛けてくれたおかげで、私も心を開けるようになったんだぁ」


私は過去を懐かしむように、そう言った。

すると──


「くるみさん……」


なんとびっくり、共感してくれたのか、エレナちゃんが私の名前を言ったのだ。まぁ、ホントに小さい声だけど。


「……! どうかした……?」


私は同じ過ちを繰り返したりはしない。今度は優しく、喋りかける。

しかし悲しいかな。


「な、何でもない──」


警戒心を解くことは出来なかった。


「……」

「……エルガ君?」

「──ちょっとくるみ、外に出ようか」

「はい!?」


エルガ君が、反応せずに固まってたので声をかけてみたら、いきなり部屋の外に引っ張り出された。


       ○


(エレナ)は再び、恐怖を感じていた。巫女服を着た姉妹は、すぐに部屋を出たが、くるみと名乗る、魔物? のような狐の人はずっと部屋にいた。

早く出て行って欲しいと願いながら、その狐の人を見つめていたら、目が合った。何か言われるのも怖かったので、私はすぐに目をそらしたが、何も言われなかった。

しかし、その後のお兄ちゃん(エルガ)狐の人(くるみ)の会話を聞いて、私は驚くこととなった。

記憶喪失だと言うのは正直、さほど驚かなかった。しかし、記憶を失ってすぐの時期は自身と似ていた、と言うことが信じられなかったのだ。

狐の人達(くるみたち)の会話などを聞いていて、そんな雰囲気は全く感じられなかったし、お兄ちゃんも同じ気持ちなのか、何も言えずに固まっていた。


「くるみさん……」


私は思わず、狐の人(くるみ)の名を呼んでしまった。さっき、記憶喪失かと聞いたとき、大きな声で驚かれ、怖かったのも忘れてだ。だからか、狐の人──くるみさんも気を遣って、優しく喋りかけてくれた。

しかし、会話自体慣れていないため、再び目をそらしてしまう。

その後、お兄ちゃんがくるみさんを連れて、部屋の外に出て行った。

私は、自分1人だけになったことに、少し安心し、落ち着いて、過去のことを思い出す。

──いじめられていた幼少期のことを。


             ○


部屋から引っ張り出された私は、掴まれた腕をさすりながらエルガ君を見た。


「な、何なの──」

「くるみ! お前に頼みたいことがある!」


凄く真面目な顔をして、エルガ君がそう言った。


「え、急に何!?」

「いや、まぁな──」


エルガ君は一度、深いため息をついてから、口を開いた。


「──その前に、アイツについてなんだが……知りたいか?」


アイツってエレナちゃんのことだよね?

知りたいか、と尋ねられたら、私は聞きたくなるのだ。勿論、知りたいと答えた。するとエルガ君は再びため息をついて、こう言った。


「今この現状、くるみが唯一の希望なんだよ……」

「えっ……? どう言うこと……?」


そんなことを言われても、すぐに理解はできなかったので、素直に聞いた。

私が唯一の希望……誰にとってどんな希望なのか……。多分エレナちゃんに関連するんだと思うけど、私、賢くないから、そう言う難しいのって苦手なんだよね。

しかし、その後のエルガ君の話を聞いて、私は絶句することになるのだった。


「エレナの人見知り──人嫌いが激しい理由なんだが──」


 ──アイツは昔、いじめられていたんだよ──


「えっ……」

「……事実だ。アイツは、いじめられていた。それも、狐と、魔人の子供にな」

「……」


狐に──って事は、私はユラやミレイよりも恐れられていたってこと……?


「聞きたくないなら別にいい。無理して聞く必要はな──」

「き、聞かせて!」


私は勢いよくそう言った。っと言うか、勢いが良すぎて、エルガ君が驚いていた。


「わ、分かった……でも、後悔するなよ……?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、話そう──」


エルガ君は目を閉じて、静かに語り始めた。



俺たちからすればずっと前の話。まだエレナが5歳ぐらいの時だった。

エレナは森の中で怪我をしてしまい、1人で動けずにいた。そのとき、3人の子供がエレナを助けてくれたんだ。

怪我の手当てをして、俺たちの家まで連れてきてくれた。

そして、それ以来、エレナとよく遊んでくれるようになった。

俺たちは貴族生まれだった。特にエレナは寂しがり屋だから、3人の存在は俺たちからしても嬉しかったんだ。



「えっ、ちょっと待って? 貴族生まれって──」

「あぁ、そう言えば言ってなかったな。家は、ベルウッド王国の貴族なんだよ」

「そうだったの!?」


貴族の子供なら冒険者の話とかしなかったのに……! って、2人の歳ならもう関係ないのかな……?

あ、ちなみにベルウッド王国ってのは、この世界にある国の1つね。


「……続き、話して良いか?」

「あ、うん。ゴメンね、話し遮っちゃって」

「いや、構わないよ。言ってなかった俺も悪い」


エレナちゃんの話のつもりが、エルガ君達の意外なことも分かっちゃったよ……。

まぁ、身分の話は置いといて。私も、意識を話に戻す。



あの3人は良い奴らだと、俺も思っていた。

けど、ある日のこと。

──奴らは、本性を現したんだ。

ある日、エレナが3人と一緒にいたとき、3人はエレナに、小さな子供からものを奪うように言われたらしい。

勿論アイツはそれを断った。

すると、子供の1人が大きな狐の姿になって、エレナを脅した。

そのときから、エレナは2人の子供と、狐にことごとく脅され、アイツらのいいなりになってしまったんだ──



「そんなっ……。ホントにそいつらサイテーだね!」

「あぁ、まぁな。……そのせいでアイツは人を信じることを恐れるようになったんだよ」

「周りに助けを求めたりしなかったの?」

「勿論、アイツだけじゃなく、俺たちも、周りの大人に言ったさ。けど、誰も相手にしてくれなかった。父さんと母さんだけさ。助けようとしてくれたのは──」

「そんな……何で? 何でなの……?」

「分からない。けど、大人達の対応も、エレナの現状に関係してると思うんだ」

「そっか……」


いじめの話はユラから聞いていた。けど、ホントにあると、上手く言い表せないけど、何か、悲しい……。

エルガ君の心音も、苦しそうで重たい後悔と、不甲斐ない自身を責める様な音だった。


「……そう言えば、頼みって?」


私は、忘れかけていた本題について尋ねた。すると、エルガ君の心音に覚悟の音が混じった。


「あぁ、それなんだが──」


また、大きなため息をついて、言葉を続けた。


「──俺たちだけじゃ、アイツを助けることは……出来なさそうなんだよ……。でも──」


そう、一度言葉を句切ってから、エルガ君は私の方をチラッと見た。


「……でも?」

「──でも、くるみなら……」


エルガ君は、今にも泣きそうになっていた。目は真っ赤になり、うるうるしていた。

私は、そんなエルガ君の姿を見て、思わず黙ってしまう。


「……くるみなら、アイツを助けられるんじゃないかって……思ったんだ……」


そう言って、何かを思い出すように目を閉じて。大粒の涙を流した。

思わず私も泣きそうになる。けど、我慢してエルガ君を宥める。


「エルガ君……大丈夫……?」

「うぅっ……すまない、悔しくて……」


一度泣き出したら止まらないのか、涙を拭いても拭いても、止めどなく溢れていくようだった。


「──あの時だって、何も……何もしてやれなくって……アイツが助けを求めても、何も出来なかった……。アイツが怪我したときも……俺がそば居たら……そばに居てやれたら、あぁはならなかっただろうに……」


大きく響く、悲しい、後悔の音。

今ここで、今まで我慢してきた、エルガ君の思いが全て、涙と共に溢れ出したのかもしれない。


「──俺は結局……誰も……誰一人、守れやしなかった……。俺は……俺はっ……!」


自身の弱さを咎める、そんな音に変わった。

もしかしたら、兄妹以外にも誰か、大切な人を失ったことがあったのかもしれない。

それ程にまで、自身を咎める心音は、私の心をも痛めつけた。


「エルガ君、大丈夫……?」

「あぁ……すまない。……情けないとこを見せたな」


エルガ君を宥め、落ち着いたのを見てから、私は問うた。


「うぅん、気にしないで。……それで、私は、どうすれば良いの?」

「……くるみには、アイツのそばに居てやって欲しいんだ」

「エレナちゃんのそばに……?」

「あぁ。……2人を見ていて、ホントは驚いていたんだ」

「えっ……? どう言うこと?」

「実は……アイツの方から他人に何か言ったのは、今日が初めてだったんだよ。いつもは、俺の後ろに隠れたりして、目を合わせようともしなかったんだ」

「そ、そうだったの!?」


エルガ君は何も言わずに頷くだけ。

そうだったんだ……。まさか今日が初めてだとは思わなかった。てっきり、少しだけならしゃべれるかと思っていた。だから、余計に驚いてしまった。


「それに、くるみは妖狐だろ?」

「うん……」

「別にあいつらと一緒だとは思ってない。それに……アイツが喋ったんだ、或いは、と思ってな……」

「……なるほどね」

「──頼む。アイツのためにも……そばに居てやってくれないか……?」


まだ潤んだその目で、真っ直ぐに私を見つめながら、エルガ君はそう言った。

そんな質問、最初から答えは決まっている。


「勿論だよ。エルガ君の思い、エレナちゃんの為にも、私が引き受けるよ」

「……! ──感謝する、くるみ……」


そのときのエルガ君の心音は、とても嬉しそうだった。

けど、私は最初から、エルガ君に頼まれなかったとしても、エレナちゃんのそばに、ずっといるつもりだった。

と言うのも、初めてエレナちゃんを見たとき、ふと、懐かしく感じるものがあったのだ。

何を懐かしく感じたのかは分からない。

でも……何かを感じたのは確かだった。

だからこそ、エルガ君の頼みを断るわけにもいかなかったのだ。


──しかし。

この出来事が私達の運命を変えることになるなど、誰1人、知る由はなかったのだった。







立ち絵・ユラ

挿絵(By みてみん)

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