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絶望の果ての花  作者: 満月 れな
1/16

001話

もし、あなたが魔法を使えて。

あなたが大きな力を秘めていて。

あなたが、この世界を変えられるなら。


あなたは、今いるこの世界を、どの様に変えるでしょうか?




それとも、今のままが、いいのでしょうか。





馬車に揺られながら、窓の外を眺める。


「──ホントに最近、つまんないのよね」

「まぁ、弱いやつばっかだもんね。アタシたちホントにCランクかな?」

「今度、昇格試験受けてみる?」

「いいね! Bランクに上がったりして!」


などの会話を遠くに聞きながら。

そう。私達は、冒険者組合に所属する冒険者。


鬼灯(ホオズキ) 結雷(ユラ) 職業:盗賊(シーフ)

異世界生まれの巫女。ミレイの双子の姉。素早い動きで、敵を撹乱する。電撃系霊術を得意とする。


鬼灯(ホオズキ) 美鈴(ミレイ) 職業:騎士(パラディン)

異世界生まれの巫女。ユラの双子の妹。得意の防御系結界術で、味方を護る。しかし、攻撃技の威力もそこそこある。


そして私。

妖狐・くるみ   職業:聖魔導師(ホーリーウィザード)

神聖系魔法を操る。3人組の中では攻撃担当である。


皆、ランクはC+。ランクはGから始まる。冒険者登録をしたあとに、ランク昇格試験があり、その時点ではG。そこから、F・E・D・C・B・A・Sの順に昇格する。ちなみに、Sランクは1人もいないらしい。と言うのも、Sランクになるには、冒険者協会総帥(ギルドマスター)を倒さなければならないらしく、そのギルマスは、かつて魔王だったと言う噂もある。そして、誰1人勝てた者が居ないという現実が、その噂の信憑性を深めていた。

なので、Sランクは夢のまた夢として、皆の心の中の憧れとなっている。


「ねぇ、あそこ……」


ミレイの声でふと我に返った。


「えっ──!?」


ユラが、ミレイの指差す先を見て、言葉を失っていた。つられて私も見てみると──


「──えぇ!?」


そこにあったのは、血まみれの少女をおんぶする少年の姿だった。


「ちょ、ちょっと! 馬車停めて!」


私達は慌てて、御者さんに馬車を停めてもらい、2人のところへ向かった。


「ちょっとアンタ、大丈夫?」


1番に着いたユラが、少年達に声を掛ける。すると、少年が息を切らしながら答えてくれた。


「──お願い、します……妹が、妹が倒れて……」

「何でそんなに血まみれなの?」

「……襲われた」

「何に?」

「分からない……」

「そう、取り敢えずギルドに行こっか」

「その背負ってる子がアンタの妹?」

「あぁ、そうだ……」

「──くるみ!」

「な、何!?」


どうすれば良いのかわからないので、会話を聞くに徹していたら急に名前を呼ばれ、声が裏返ってしまった。


「アンタ、何人まで乗れる?」

「えっと、私が大きくなれば何人でも──」

「町まで何分掛かる?」

「本気で走れば、この距離だと3分──」

「くるみ早く!」

「わ、分かった」


この2人、私を乗り物として扱う気? って、今はそれどころじゃないか。

私は巨狐姿に変化して、4人を乗せた。


「御者さんは?」

「金はもう払ったわ。早く行って!」

「分かった」


そう言われた私は、周りを気にせずに全力疾走を始めた。


       ○


数分して、少年が診療室から出てきた。


「調子はどう?」

「俺の方は問題なかったよ」

「そう、良かったわね」

「……女の子の方は?」

「アイツは……重傷だって。今はベッドで休んでる」

「そっか……」


どうやら、少年はほぼ無傷だったらしい。怪我を負ったのは少女だけだったようだ。


「2人に何があったの?」

「……ちょっとは休ませてあげなさいよ」


ずっと気になってたことを聞いたら、ユラに怒られた。ミレイも呆れた顔をしてる。


「えっと、ゴメン……」

「いや、平気だ」


少年はそう言ってから、何かを思い出すような顔をした。


「まずは自己紹介だな。俺の名はエルガ。妹はエレナだ」

「私はユラよ。このパーティのリーダーをやってるわ」

「ユラがリーダー……? あ、アタシはミレイ。ヨロシク」

「私はくるみ。……いつの間にユラがリーダーになったの?」

「そ、それは今言わなくても良いでしょ!?」

「……誰がリーダーでも大差ないんじゃないか?」

「そうよ! ってか、早く話を聞きましょう!」

「……じゃあ、話すぞ?」

「あ、うん、前置きが長くてゴメンね」

「あぁ……」


少年──エルガ君は私達の会話に呆れながらも、事の一部始終を話してくれた。




そもそも俺たちが家を出たのは、居なくなったもう1人の妹を捜しに行くためだったんだ。それで、何か情報がないかと思って、自分たちの国であちこち探していたら、「竜魔国ドラグルシアにあるギルドの本部に行くと良い」って、言われたんだよ。

でも、この国に来る途中に、エレナが熱を出してしまって……。

俺は誰か人を呼ぼうと思ったんだけど、目を離した隙にエレナが何かに襲われたんだ──


「それで、急いで国に行こうとしたときに、3人に会ったんだ」

「そうだったんだね……」


居なくなった妹を捜しに行くなんて……。良い兄妹愛!

なんか、羨ましいな……


「なるほどねぇ。それは大変だったわね」

「もう1人妹が居るんだ……」

「あぁ、エレナの双子のい──」

「「双子!?」」

「あ、ハモった」


さすがは双子の巫女。やっぱり、姉妹って面白いよね~。


「あ、あぁ……そうだけど……」

「あ、ゴメンなさい! 言うの忘れてたわね」

「アタシたちも双子なんだ~」

「そ、そうだったのか!? だから、そっくりだったのか……」

「妹を捜してる……。あ、そうだ。2人とも冒険者になれば?」


冒険者になれば、いろいろな情報が入ってくる。だから、もしかしたら、妹の情報も入ってくるかもしれない。そう思って言ったのだが──


「いやアンタね、2人は子供なのよ?」

「そうだよくるみ。子供が冒険者なんて、危険すぎるよ」


と、2人に大反対された。まあ、言われてみればそうだよね。子供が冒険者なんて、確かに危険──


「それ良いな!」

「えっ──?」


今、エルガ君、なんて言った?


「え、ちょ、分かってんの!? 冒険者ってホントに危ない仕事しかないのよ!?」

「問題ないさ。それにここだけの話なんだが──」


問題ないんだ!?

ってか、もう、やる気満々みたい。これ、2人に何かあったら、私の責任かな……?


「──俺たち、100年以上生きてるんだ」

「「「──はぁ!?」」」


ここは3人でハモる。って、そうじゃない。100年以上、生きてる……? ちょっと何言ってるか分かりませんね。


「ホントに……?」

「あぁ、ホントだぜ」

「……」

「──くるみ、どうなの?」

「……嘘、じゃ、ないね」


ユラが私に尋ねてくるから答えたのに、ユラは納得しない顔だった。


「え、でも、くるみがそう言うなら、ホントなんだよね……」


ミレイがほとんど聞こえないような小さい声でそう呟いた。っと言っても、私にはちゃんと聞こえてるけどね。


「……くるみって、2人から凄い信頼されてるんだな」


エルガ君が驚いた顔で言ったが、確かに2人は私の言葉を、根拠がなくても信用していた。

普通は、こんなにも簡単に他人の言葉を信用するのは危険だ。

でも──


「ま、まぁね。私、他人の心音を聞き分けられるの」


私は、他人の心音を聞き分ける事が出来る。

心音は、心情に合わせてリズムも変わる。私はその音を聞いて、相手の心情を読み取れるのだ。

この技は、私が妖狐だから出来ること。普通の人には到底、真似出来ない技だった。


「え? 心音を聞き分けられる……? どう言うことだ?」


エルガ君も、理解できない顔をしていた。


「えぇっとね、簡単に言えば、他人の考えてることが分かるの」

「スゲぇな、それ……」


褒められた。素直に嬉しい。まあ、普段から2人に褒められることがあんまりないからね。それに、音を聞いてもお世辞とかじゃないから余計に嬉しいのだ。

と、そのとき、病室の扉が開いた。


「あのぅ……妹さんが起きました。……起きたのですが……」


扉の奥から、看病係のお姉さんが出てきてそう言った。しかし、疲れたような顔をしていた。


「あ、もしかして──」

「妹さんが、ご飯を食べてくれなくて……って言うか、そもそも、私達を怖がっているようでして……」

「す、すみませんっ!」


エルガ君は慌てて、部屋の中に入った。ついでに私達も部屋に入る。

すると中に居たのは──少女ではなく、布団ダンゴだった。って、そうじゃない! あの中に少女が入っているのだ。布団ダンゴが少女だと勘違いしたわけではない。


「ほら、これ食べて元気付けてくださいよ~! って言うかぁ~、食べてくれないと困るんですよぉ~! ほら、お嬢さ~ん!」


看病係のお兄さんが必死になっている。なんか、可哀想……。

エルガ君はエルガ君で、お兄さんに謝るように合掌していた。


「ほら、食べて下さいよぉ~!」


と、お兄さんがそう言ったとき、ようやく少女が顔を出した。


「あ!」

「えっ……?」

「可愛い……!」


頭に包帯を巻いているが、その大きな茶色い瞳はとても可愛らしかった。そして、ストレートの赤髪がまた、少女の可憐さを増していた。

この少女が、エレナちゃん──? ちょっと可愛すぎじゃありませんかね……? 

うぅ……羨ましい……


「あ、ほら! これ、食べて下さい!」

「──!」


お兄さんがご飯を食べさせようとさじを近づけると、エレナちゃんはまた、布団ダンゴの中に潜ってしまった。それがまた可愛い!


「あぁ、お、俺がやります! マジですみません!」

「へ? じゃあ、お願いして良いっすか? もう自分、心折れましたし……」

「やります! 心折ってすみません!」


お兄さんは、エルガ君に色々渡すと、そそくさと部屋を出て行った。あれ、面倒くさかっただけじゃ……? しかも、お姉さんも一緒に出て行ってるし。

どう見ても、「面倒くさい子供の世話を身内に押しつけた」ようにしか見えない……。


「ほら、エレナ。もう誰も居ないぞ」


エルガ君がそう言うと、エレナちゃんはちょっとだけ顔を出した。しかし、私達の方を見て、すぐに引っ込む。そして、一言。


「……居るよ」

「あ、えっと、あの人達は……違うんだ!」


エレナちゃんはちょっとだけ顔を出して、返事した。


「違わない……」

「だから、違うって! あの人達は優しいから! いじめたりしないから!」

「分かんないよ……」

「分かんなくないって! あの人達が、俺たちを助けてくれたんだよ!」


もう、エルガ君必死。なんとかしてエレナちゃんを説得しようと、大きな声で説明する。それに対してエレナちゃんは、私でもやっと聞き取れるぐらいの小さな声で、また、布団に潜ろうとしていた。


「……ホントにあの人達が?」

「そうさ! だから、大丈夫だって!」

「……でも、怖い……」

「大丈夫だって! ほら!」


互いに言葉を交わし合っているけど、どちらかというと、エレナちゃんの方が有利かな? 今にも潜りそうだもん。


「……取り敢えず、ご飯だけ食べさせたら?」

「そうだよ。アタシたち出て行くからさ」


ついに痺れが切れたのか、ユラとミレイが口を開いた。


「うん。その方が良いんじゃない?」


エレナちゃんの体調も考え、私も同意する。ホントはエレナちゃんの可愛さに癒やされたかったんだけどね。


「──すまない。また、あとで呼ぶよ」

「分かったわ」


と言うことで、私達は部屋を出た。


       ○


30分後。

エルガ君に呼ばれ、私達は、再び部屋に入っていた。


「この子がエレナなのね?」

「あぁ、そうだ。エレナ、自己紹介ぐらいしろよ」

「……」

「よろしく、エレナ」

「……」


ユラが手を出して握手を求めたが、エレナちゃんは無反応。人が苦手なのかな?


「──すまない、人見知りが激しくてな」


エルガ君が、申し訳なさそうに言った。


「良いわよ、別に。気にしないわ」


ユラが、優しい声でそう言った。ユラってちゃんと空気読めるんだよね。偉そうだけど。


「……なぁ、エレナ。冒険者にならないか?」

「……?」


エルガ君には反応するんだね。兄妹なら大丈夫なのかな?


「もしかしたら、アイツの情報とかあるかも知れないだろう? ギルドにはいろんな情報があるって話も聞いたんだ」

「……」


エレナちゃんは拒否するつもりは無さそう。少しうつむいて、考える仕草を見せた。


「どうだ?」

「……やる」

「おぉ! じゃあ決まりだな!」

「うん……」


どうやら2人は冒険者になるようだ。そこでふと、ある考えが浮かんだ。


(ねぇ、ユラ、ミレイ。)


私は念話で、2人に話し掛けた。


(な、何よ!?)

(急すぎだよ!)

(ご、ゴメン……でも、2人に相談したいことがあって)

(……何よ?)

(えっとね、2人を私達のパーティに入れられないかなって思ったの)

(あぁ、それ良いね!)

(え、でも、エレナが無理じゃない?)


そう。2人の妹捜しを手伝えないかな、と思ったのだ。最近は、目的もなく、仕事に飽きかけてもいた。だから、5人で行動することで、私達は目的を得る、2人は妹捜しを手伝ってもらえる、と、互いに良いことがあると考えたのだ。

ミレイは賛成してくれたが、やはりユラには反対された。

しかし、そんなことは最初から分かっていた。ちゃんと、ユラを納得させる理由は持っている。


(エレナちゃんのこともそうだけど、私達が一緒に居てあげたら、エレナちゃんの人見知りも解決できるんじゃないかなって思ったの)

(……なるほどね。それなら賛成よ)

(じゃあ!)

(えぇ)

(うん!)


よし、決まり! 私はさっそく声をかけた。


「──ねぇ、2人とも」

「ん? 何だ?」

「……」


2人とも聞いてくれる様子(エレナちゃんには目を逸らされたが、多分聞いてくれている様子だ)を確認して、私は2人に提案した。


「えっと……私達と一緒に冒険しない?」

「えっ!?」

「──!?」


エルガ君は嬉しそうに、エレナちゃんは嫌そうに反応を見せた。


「そ、そんな……良いのか!?」

「え!? お兄ちゃん……?」

「良いも何も、アンタたち、分かんないことだらけでしょ?」

「どうせ、アタシたちも退屈してたんだ。妹ちゃん捜すの、手伝わせてよ」

「も、勿論だ! ぜひ手伝ってくれ!」

「お、お兄ちゃん!?」


エルガ君は、もう一緒に行くつもりのようだ。しかし、エレナちゃんの方がみるみる涙目になっていく。


「そんな……嫌だよ……」

「え、でも、2人だけじゃ何も出来ないだろ……?」

「でも、嫌だよ……怖い……」


恐怖。エレナちゃんの心音はそんな音だった。過去に何か、辛いことがあったのかもしれない。

その音は、その小さな身体に見合わぬほどに大きな恐怖を表していた。


「怖いよ……嫌だっ、嫌だぁ……!」


そう叫んだあと、ついには泣き出してしまった。

これは想像以上だった。


「……どうしよう?」

「そ、そうねぇ……。これは想定以上だわ……」

「うん、ちょっとアタシも驚いたよ……」


このままじゃヤバいよね……。

エルガ君も、困った顔をして何かを考えていた。


「どうしようかしら……?」

「そうだね……」

「どうしよっか……?」


私達が困り果てたとき、エルガ君が口を開いた。


「……なぁ、エレナ。お前の気持ちは分かるけど、きっとこの3人は違う。この3人は、お前からすれば命の恩人なんだぜ?」

「……でも……」

「確かにあいつらは最低だったと思う。けど、人間は皆が悪いって訳じゃないんだ」

「それは、分かってるけど……」

「この3人みたいな心優しい人達を、あの最低な奴らと一緒に見るのは失礼だと思わないか?」

「……」

「少しずつで良いさ。いろんな人と関わってみようじゃないか」

「……でも……また、アイツらみたいな奴らがいたら……?」

「そのときは容赦しなくて良いんだよ」

「えっ……?」

「もう、無理して我慢しなくて良い。やられた分をやり返せばいいんだよ」

「……分かった……怖いけど……」

「──そうか。納得してくれて俺も嬉しいよ」


す、凄い……。エルガ君が見事にエレナちゃんを説得してくれた。


「凄いわね……」

「うん……エルガじゃないと出来ないよね……これ」


さすがはお兄ちゃん。でも、エレナちゃんもきっと頑張っているんだと思う。

エレナちゃんは必死に戦っている。これから共に行動する以上、私達は、それを支えあげねばならない。


「──3人とも、そんなわけだ。よろしくな!」

「え、えぇ。よろしくね」

「ヨロシク!」

「よろしくね!」

「……」


こうして、私達は運命を共にすることになったのだった。









立ち絵・くるみ

挿絵(By みてみん)

はじめまして、みつきれなです。

この小説を選んで下さりありがとうございます。

この話は、僕が小学5年生の時から考え始めたもので、ずっと温め続け、今、ようやく投稿に至りました。

くるみとエレナと、ほか3人を中心とした5人の冒険譚をどうか、暖かい目で見守ってやってください……。

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