ハズレスキル【えんぴつ】しか持たない僕が憧れのあの娘と夏祭りに行くことになった
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。タイトルキーワードは「えんぴつ/夏祭り」ですが、実はキーワードを全て(↓)使っています。
天才/缶コーヒー/えんぴつ/ランドセル/量子力学/星座/夏祭り/チェックメイト/ひまわり/おふだ/体育祭/ポーカーフェイス/屋根裏
この世界では皆能力を持って産まれる。
1人1つ。殆どが、ある一点に限り筋力や知能が格段にパワーアップする特化型能力だ。
え?炎や氷の魔法能力はないのかって?
そんなものはない。漫画の読みすぎだよ。そもそも無から有を生み出すなど、物理法則を無視している。
……まあ、極々稀に無から有を生み出す能力もあるにはあるが、僕のは違う。
ところで、僕はクラスの皆と夏祭りに行くことになった。その中には憧れの東さんもいる。
美人で優しくて文武両道。能力を幾つも持っていそうな子だ。
「山田君、今晩は」
「あ、う……」
東さんは浴衣姿で耳の横にはひまわりの髪飾り。凄く大人っぽくて去年までランドセルを背負っていたとは思えない。
せっかく彼女から挨拶してくれたのにポーカーフェイスも作れず挙動不審になる僕。
「あっ、愛花ちゃん」
「りんご飴食べよ!」
僕が迷っている間に東さんは友達に囲まれてしまった。僕はなんてバカなんだ。恋敵は沢山いるのに。
【物理学】の能力持ちの鈴木は、中1で量子力学の本を読む天才。
【蹴る力】の能力がある佐藤は5月の体育祭での活躍に加え、缶コーヒーのリフティング動画で人気者に。
【書道】の能力とその容姿でファンが付き、書いた紙がおふだ扱いで売れる田中。
【チェス】の能力でプロ棋士を相手にチェックメイトした渡辺。
全員東さん狙いだ。
ハズレ能力しか持たない僕があいつらに勝てる所は星座占いの相性だけ。東さんとつきあうなんて2階からどころか屋根裏から目薬を注すレベルの無茶だ。
……でも諦めきれない。彼女に話しかけなきゃ!
「東さん! あっ」
彼女に近づく時に足がもつれて転びかけた。咄嗟に出た手がりんご飴の棒を掴む。
それも、東さんの持っている棒を。
「あ」
彼女の手に触れて興奮した僕は、うっかり能力【えんぴつ】を使ってしまった。
僕の能力は持った物を鉛筆に変える事ができる。大失敗だ。
東さんは鉛筆が刺さったりんご飴を驚きの目で見ている。
「これ、山田君の能力?」
「ごめん、食べられなくなったね」
惨めで泣きそうな僕に東さんは微笑む。
「大丈夫。見てて」
彼女が鉛筆に手を翳すと、それは細長い飴に変わった。
「え?」
「私、鉛筆を食べ物に変える能力持ちなの」
「ええ!?」
「ハズレ能力だと思ってたけど、山田君と一緒なら最高ね」
「えええ!?」
十年後、僕らは世界的平和賞を受賞する。
食糧難を救い、紛争地域の兵器を全て食べ物に変えた夫婦として。
めでたしめでたし。
お読み頂き、ありがとうございました!
去年書いたキーワード全部盛りの、なろラジ作品「ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺がデスゲームに巻き込まれた」
(https://ncode.syosetu.com/n5190hj)と、同じ世界観、同じ冒頭で書いてみました。
来年も可能なら書いてみたいです。
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