武田勝頼
私にはかって、優秀な異母兄、義信がいた。
あの偉大な父・信玄が、なぜ、あの兄を死に追いやってしまったのか。それにより、飯富 虎昌などの優秀な家臣を失うことになってしまった。もし、あの異母兄が健在なら、私が武田の屋台骨を背負うこともなかっただろう。
それでも、父・亡き後、武田家を守るため、懸命に頑張ったが、徹底的に武田家の運命を決めたのは長篠の戦いであった。鉄砲の前には武田の騎馬隊も無力だった。
私とて、鉄砲の重要性はわかっていた。だが、武田家には鉄砲を購うだけの余力がなかった。鉄砲はあっても、弾がなかった。ない弾を調達せよと私に命じられたものは、さぞや、私を恨んだだろう。
長篠の戦いで、また、多くの優秀な家臣を失ってしまった私は、それでも、なんとか武田家を盛り返そうと頑張ってみたが、武運つたなく、破れてしまった。
姉婿である穴山信君も裏切った。妹婿であり木曽義昌も裏切った。
父ほどのカリスマ性を持たぬ私がいけなかったのか。異母兄ほどの器量を持たぬ私がいけなかったのか。
徳川の世になって、盲目の兄が武田家を名乗ることを許されたのは、わずかな慰めである。