5話 入学祝い2
➖自宅(部屋)➖
朝の6時半は起き、着替えてリビングに向かう。海兎と空の入学式があるので学校は休みになっている為少しゆっくりしながら階段を降りると、空が制服を着て見せに来た。
「雨歌兄さん、この制服どう?」
「似合ってるよ」
「えへへ」
空の方が背は高いので僕は少し背伸びしながら頭を撫でる。気持ち良さそうにしているので少しホッとしている。髪をセットした後みたいだったのでやってしまったと思ったけど、喜んでくれているからセーフかな。
リビングに二人で行った後に長男の碧兄さんに頭を撫でられていた時には怒っていた。
➖自宅➖
碧兄さんは高校三年になったばかりで髪は耳にかかるくらいで前髪で右目を隠している。身長は198㎝と大きい。次女の梨奈姉さんと双子で二人共生徒会に居る。
そういえば、緋華さんも生徒会に入ったらしいけど今年はどうしてるのかな?
「碧兄さん、緋華さんって生徒会辞めてないの?」
「辞めたぞ。昨日までは仕事をさせていたがな」
制服ではなく私服で来てたけど、着替えて来たのかな。緋華さんは生徒会の仕事はすごく出来ていたって話は聞いてたのに辞めたのは何故だろう。
「雨歌が生徒会に入らないっていう話をしたら辞めるって言い始めた」
僕がいつも座っている椅子に座る際に碧兄さんは舌打ちをした後に小声で、(嘘をつかなきゃよかった)と言うことが聞こえた。待って嘘ついたってなんて言ったのかを後で問い詰めてやる。
「碧、アンタは何をしてるのよ」
「あぁ? 飯を食ってるんだよ。文句あるのか、梨奈」
「まだ仕事が残っているから早く食べさい」
梨奈姉さんが碧兄さんに対して、書類を頭にぶつける。梨奈姉さんは普段は髪をポニーテールで耳より上で結んでいるけど、今日はおろしている。
碧兄さんは嫌そうな顔をしながら書類を受け取り、内容を確認して凄くめんどくさそうな顔をしながら梨奈姉さんを見る。
「おい、梨奈。これはどういうことだ?」
「見ての通りよ。アンタが仕事を放っていくから悪いのよ」
クソが……といいながら、書類に再度視線を落として確認をしている。碧兄さんは何も役職は持っていないと言ってはいたけど絶対に嘘だよね。
(碧は何も役職はないよ)
梨奈姉さんが隣の席に座りながら小声で教えてくれた。そのまま小声で碧兄さんがなんで役職を貰わないかを話してくれた。
なんでも生徒会に入る気は全くなかったらしくて現生徒会長に無理矢理入れられたみたいだった。
前会長に1年間だけという条件を突き付けてから入ったのは良いけど、ズルズルと引き延ばされて今に至るらしい。最初は生徒会の他メンバーからはやめろなどのことを一人の時に言われたりしていたけど、今となっては無くなったみたいで安心した。
碧兄さんを無理矢理に生徒会に連れて行ってくれた人には感謝しかない。
「碧兄さんが楽しそうでよかった」
「・・・楽しそうに見えるのか?」
「うん! それにカッコイイ」
数秒間固まった後にご飯を急いで食べ終えて食器を片付けて自室に行った。書類を置いて行ってしまったけど、いいのかな。
「私は副会長なんだけどなぁ」
「梨奈姉さんは元々カッコイイし、可愛いよ?」
「私の弟が可愛すぎる」
抱き着かれてしまった。食事中に抱き着かれても母さんは怒らないし、なんなら自分もと言いながら抱き着いてくるのが我が家での常識である。
碧兄さんは羨ましそうにこちらを見ているけど、梨奈姉さんに抱きつかれたいのかな?
「俺の目の前でイチャつくな」
「なに? 嫉妬」
「違う」
食べずらいから離れてほしいな。っていうか、碧兄さんが戻ってきていることに気づいてなかったんだけどいつ帰ってきた? 音もしなかったんけど。
たまに気配を消してくるのはなんなの。
梨奈姉さんは抱き着くのをやめて右隣の椅子に座った。碧兄さんが持ってきたであろうパソコンを起動させて、書類の内容を打ち込み始めた。相当早く打ち込んでページをめくって書類を処理していく。
僕は残り少なくなったご飯を食べ食器を片付けて姉さんに手伝っても大丈夫かを聞く。
「う~ん、難しいと思うけど」
「やらせればいいだろ。分からなければ教えればいい」
「碧兄さんのことも手伝いたい」
兄さんが悶え苦しんでいて、それを見ている姉さんは冷めた目をしている。どういう状況なのよこれ。手伝っていいのかが分からない。
「どうしたの? お姉ちゃんが何かしてあげようか?」
「夕夏姉さん……仕事は行ってなかったの」
「今日もお休みなのです」
Vサインをしながらドヤ顔をしているけど、前は3日休みを取って痛い目にあっていたのを忘れているよね夕夏姉さん。
父さんに泣きついてなんとか仕事を終わらせたって聞いたよ。
「姉貴は仕事に行け」
「お姉ちゃんは仕事に行かなきゃ」
「私だけ仲間外れにするのhがひどくない」
「「ポンコツなのがいけない」」
「空と海兎の入学式を見たいんだけど」
今日は空と海兎の入学式だけど、保護者の父さんと母さん以外は入れないからね。なので今日はお留守番をしなきゃいけないのです。
伊月を誘ってどこかに出かけようと思ったけど用事があるみたいだから無理だったんだよね。
緋華さんも用事があるそうなのでどこかに出掛けたりする予定はないです。やることがないので、姉さん達の手伝いをしようと思った。
そうだ、空と海兎の入学祝いを買いに行こう。
–伊月視点–
雨歌の誘いを断ってまで来たのは家から徒歩一時間以上は掛かる廃墟でクラスメイトを待つ。
はあ、雨歌の誘いを断るんじゃなかった。
「はあ……帰ろう」
「ウチの情報はいらないんだ」
「雨歌に関する情報ならいるわ」
昨日から同じクラスになった妖狐紫央は転生者でこの世界の基になった恋愛ゲームのことを詳しく教えて貰うためにここに来たんだが、正直面倒になって来た。
「手短に説明だけしてくれ」
「せっかく再会ってのに」
小学生の時に1年間同じクラスになったことはあるが印象は最悪だったのでできるだけ会いたくない。今思い返せば、雨歌に色々とちょっかいをかけていたのは転生者だったからなのか。
そういえば俺にも助言みたいなのをしていたな。
「ゲームの内容を覚えている限り教えるから」
「全部は覚えていないのか?」
「覚えてないから。全部を覚えて転生できる人なんていないと思うけど」
他の転生者も全部を覚えていないとするなら、厄介ではないな。下手に動けないだろうから何か危害を加えてくる可能性は低いな。
まあ対策はコイツの話を聞いてから考えても遅くはない。
「まずはゲームの進み方なんだけど」
「タイトルは?」
「・・・思い出せない」
「思い出したら、教えてくれ」
妖狐の話では主人公の性別は男女を選べるらしい。攻略キャラの好感度を高めるのは当然で攻略対象はどちらを選んでも同じなのだと。
ハーレム、逆ハーレム、ボーイズラブ、ガールズラブもあるので前世では人気だったらしい。
「なんだそれ」
「主人公の設定で転生者ってことになってるのよ」
「なんだそれ」
「それしか言えないの?」
「とりあえず次は登場キャラを言ってくれ」
攻略キャラは俺、緋華、不澤家の双子×2、生徒会長、佐藤。ルートによって悪役になるキャラが、佐藤を除いた攻略キャラで、他は狗谷だけなのか。
アドバイスを言ってくるキャラが二人居て、クラスメイトの楢山と藍村と言う生徒か。
少ないと思っていたら、すでに見たことがあるキャラだけを言っているだけだった。雨歌はゲームと同じで俺と緋華の幼馴染であるのには変わりがない筈なのに出てこないのはおかしい。
雨歌は賢くないからもしかしたら受かってないのかもしれないな。
「アンタは原作の方ではグレているから」
「そんな訳ないだろ」
「不澤雨歌は死亡しているキャラだから」
なんで俺がグレているのかが一瞬でわかったし、相当辛かったのだろう。一番の親友で初恋である相手が死ぬとか耐えれないだろ。
しかも婚約の件もある訳だから、大変だな。
あの時、助けられなかったという事実を知ってしまって落ち込んでいたら、妖狐が口を開いた。
「本当はもう少し後に死亡していたんだよ」
ちょっと待て、もう少し後に死亡していた? ってことは父親は転生者でこの世界の……原作の流れを知っていたってことになるよな。
「雨歌は名前だけ出てきたのか?」
「ゲームにも特別な条件で出てきたし、小説で出てきてたよ」
小説だと……読みたすぎるけどあまり本を読まないから雨歌にでも読ませたら面白い反応しそうだな。それよりもゲームでの特殊な条件が気になるところだが、緋華が小説などでどう動いたかを聞いた方がいい。
「緋華はストーカーだったか?」
小説やゲームでストーカーでなければ転生者の可能性が高くなる筈なので雨歌から遠ざけることができるかもしれない。
「あ~やばいストーカー」
妖狐は続けて小説での緋華の行動を教えてくれたが、引いた。緋華の目線で小説が進んでいって最終的に雨歌と結ばれるというハッピーエンドなのだが、ストーキングは当然のようにしている。
高校生活の中で弁当を作って来ては雨歌に食べて貰っていたらしいが使っていた割り箸を持ち帰って保存している。
小説では苗字が違うので不澤家に引き取られていない世界線なのかもしれないが休日のほとんどが緋華の2個目の部屋に監禁されているとか……マジでヤバイ。ナイス不澤家のみんなと思ってしまった。
雨歌が一人暮らししている部屋は監視カメラと盗聴器を仕込んでいるという通報したら1発アウトなことをしている。
交友関係については何も言ってないのはまだ束縛は緩いのだろう。ゲームでの主人公の二人が出来ているのは以外ではあったが二人共、緋華に相手にされてないみたいで少し笑った。
小説の中の緋華なら雨歌を逃がすわけはないし、独占欲も相当強い筈だから交友関係を徹底的に調べ上げると思うんだが、何故かしていない。
「これは二次創作の小説か?」
「公式が出していたと思う」
ゲームをプレイしてみるしかないが存在しないものはできないから調べる手は無しだな。主人公が男女いるので確認しておかないといけない。
「主人公とされている奴はいるのか」
「いるよ。古村っていうやつ」
「あの転生者か」
「基の設定が生きているとは」
雨歌が転生者ではないかと警戒している奴だよな確か。アイツは雨歌とぶつかった後に普通なら聞こえない声のトーンで“なんで生きてる”と言ってたから警戒していたがまさか主人公だったとは予想外。
雨歌を見かけたことはあるかもしれないが死ぬことを知っているのはゲームを知っている奴しかいないだろ。
「雨歌が死亡キャラってのは有名か?」
「ウチの周りで知らない人は居なかった」
「主人公が知ったのは?」
俺と緋華の好感度をある程度上げた後なのか。古村は確定したが、緋華はまだ分からないから情報は何かないか。そもそも説明が雑なんだよ。
「お前から見て緋華は転生者に見えるか」
「分からないけど、その可能性は低いと思う」
助かった、今度お礼をするとだけ伝えて帰る。妖狐は二度目の人生を楽しもうとしているタイプな気がするから仲良くしても問題はない。
あ! カミサマのことを聞くのを忘れていた。
また今度でもいいだろう。今は雨歌に入学祝いを渡さなきゃいけないから会いにいくからな。それにまだあきらめていないから緋華に負ける可能性しかないが何もしないのは絶対にいやだからな。
緋華、覚悟してろよ。転生者でもそうじゃなくてもな。
➖ショッピングモール➖
空と海兎の入学祝いを考えています。一体何がいいかが分からず三時間以上は悩んでいるので誰かに相談すべきなんだけど、一緒に来ている人が誰もいないからどうしよう。