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43話 好き嫌い2

自宅リビング

 おばさんからもらった着替えを紙袋に入れてクローゼットからジャージを取り出して着替えて伊月に紙袋を渡した後、そのままリビングに行った。おばさんから「その服着て欲しかったなぁ」と言われたが、伊月が「流石に雨歌で遊びすぎ」と言っておばさんに色々と言われた。二人を見ながら緋華さんは「伊月はおばさん似だよね」と言って笑っていた。確かに伊月はおばさん似ではあるけど、おじさんと同じ仕草をするから両方と似ていると思う。


「緋華ちゃんと伊月くんはカボチャって食べれるの?」

「私は大丈夫です」

「俺は……嫌いですね」

「なぁに嘘言ってんのさ、アンタ好物でしょ」


 おばさんからとんでもないことを聞いてしまった。伊月は「よくもバラしてくれたな、お袋?」と言いたそうな顔をしながらおばさんを睨んでいた。好物だったのなら何故嫌いって言ってまで僕に渡してきていたの?  アレかな伊月は僕のこと大好きすぎるのかな。今度カボチャのお菓子でも作ってあげるか。いやぁ〜伊月が僕のことを大好きだったなんてなぁ。なんて思っていたら伊月が僕の方に来て頬を摘んできた。


「ひふぁいぃ」

「いいか、今のは忘れろ」

「ふり」


 忘れるなんて出来ないくらいに衝撃的なことを今知ったばかりの……えへへ。にやけているのが顔に出てないか心配だな摘ままれているわけだし流石にバレてないよね。緋華さんが伊月の肩を叩きながら「ドンマイ。これからはそういう事がもっとあるから」と言っていた。僕のことを摘まんだまま伊月は「お前が苦手って言ってた裁縫は本当は得意だろ」と言って緋華さんを見ていた。僕を横目で見ると顔を真っ赤にしていて小声で(雨歌くんに会える口実が欲しかったんだもん)と言っていた。二人とも可愛いかよ?


 緋華さんそんなことしなくていつでも来てくれていいですよと言おうと思ったけど、そういえばこの人、元ストーカーだったわ。ついつい忘れてしまうけどヤバイ系の人なんだよな緋華さんって。僕は緋華さんに「裁縫で会う口実にはあまり出来ないと思うんですが」と言いたかったのに伊月に強く摘ままれているからうまく喋れないでいた。


「お前ら、飯だって言ってんだろが」


 兄さんが僕ら3人の頭をハリセンで叩きてきた。叩かれた際に頬は解放されたけど物凄く痛かった。兄さんのことを睨もうとした瞬間、兄さんと梨奈姉さんに僕の腕を掴まれてそのまま庭へと連行して行かれた。緋華さんと伊月はその後を小走りでついて来ていた。庭に設置してある椅子に座られて紙皿と割り箸、紙コップを渡された。僕はキョロキョロとしているとおじさんが「飲み物はコーラでいいかな?」と言ってきたので頷くだけにした。緋華さんは母さん達の女性勢に捕まり、伊月は兄さんと紫音さんに捕まっていた。海兎と父さん、政義さんは焼くのに集中していた。おじさんがコーラを持って来てくれたのでそれを受け取りコップに入れた。


「急で悪かったね」

「大丈夫ですが何故今日なんですか?」

「理由を話す前に隣に座らせてもらうよ。この歳になると立っているがしんどくてね」


 そう言いながらおじさんは僕の右隣にある椅子に座った。おじさんは「婚約のお祝いとは別に君に伝えないといけないことがあってね」と言われたが別にいつでもいいのにと思った。おじさんは僕を見て「今日なんだよ。君の祖父母が亡くなった日は」と言った。僕は今日が命日だということを忘れていたことに対して自分に怒りを覚えた。二人には凄くお世話になったのに……命日を忘れていたのはダメだろ。


「忘れてしまうことは仕方ない」

「え?」

「老いぼれ共の事は老いぼれ共が覚えているから今を楽しみなさい」


 何を言われているかがいまいち理解できない僕に対しておじさんは「孫に対して恩をきせるような人達ではないから君は生きなさい」と言われた。生きる気はあるけど、それは違うような感じがして……おじさんが僕の肩を指とチョンチョンとしてきたので見ると伊月が軽く能力を使っているみたいでおじさんが苦しそうにしていた。遠隔操作できるって相当凄いと思いながらやめるように伊月へ目で訴えるとすぐにやめた。一体何をしたかったのか分からないな。


「助かったよ。息が出来ないって辛いからね」

「何がしたかったんですかね?」

「愛されてるってことだね」


 おじさんは立ち上がり父さん達の所に向かった。入れ替わりで伊月と緋華さんが焼けた肉や野菜を持って僕の両隣に来た。伊月は「何もされなかったか?」と聞かれたが何もされてないので「されてない」と答えた。緋華さんは「雨歌くん、あ~ん」と肉を僕へと持って来ていた。別に一人で食べると言いそうになったけど今日くらいはいっかと思い食べた。食べると嬉しそうにしてもう一枚こちらに出してきた。緋華さんからの肉を食べながら伊月の方を見ると何も言わずにただ肉を食べていた。少しばかり元気がないような気がする。


 おそらく伊月はおじさんが僕に言ったことに対して何かしら罪悪感を感じているのだろう。気にしなくてもいいと言ってもそれを出来ないタイプだから僕はカボチャを箸で掴み伊月にそれを向ける。伊月は「何やってんだアホ」と言ってきたので「こっちの方がよかった?」といいながらカボチャを咥えて伊月に見せる。伊月は「わかーったよ。箸で寄越せ」と言ってきたから咥えているのを箸で持って伊月の口へと運ぶ。緋華さんから「大胆だね。1度咥えたものをあげるなんて」と言われて気が付いて恥ずかしくなり顔が赤くなるのがわかった。


「恥ずかしくなるならやめとけよ」

「・・・緋華さんもどうぞ」

「あ~ん」


 顔を赤くしながら僕は緋華さんにもあ~んをして食べさせる。僕ら3人を見ている他の親達はニヤニヤしながら「孫が生まれるのは早そうだな」や「雨歌ちゃんと伊月くんの子供ってどうするんだろ?」、「ウーくんに産んでもらうんでしょ」など孫トークで盛り上がっていた。聞こえてしまった僕はおばさんが言っていたことは深く考えずにするようにした。周りの会話を聞いていた僕は何故かピーマンをかじりながら無表情になっていった。

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