4話 入学祝い1
➖喫茶店➖
伊月と緋華先輩を呼びに行った時に伊月が緋華先輩に掴みかかっていたので喧嘩をしていたのかと思って止めに入ったのはいいが伊月の膝が頬に当たってしまい、少し痛い。
すぐに謝ってくれたし、事故だったので許したのけど、その後の緋華先輩を止めるのが大変で凄く疲れています。
疲れたので休みたかったけど、店に入った途端に店員さんと常連さんたちに抱きつかれたり頭を撫で回されて、余計に疲れてしまった。
「ごめんね、雨歌くん」
「大丈夫ですよ、一年ぶりですから」
「それならいいんだけど、二人はどうしたの?」
外が見えるテーブル席で隣同士で座らせている二人を見ながら、気にしないで大丈夫ですよと言って注文をした。
新作のイチゴパフェを楽しみに待っていると、緋華先輩が話しかけてきた。
「許してはくれないの?」
「許して欲しければ仲良くしてください」
「伊月が私の雨歌を取らなければ」
「それはこっちのセリフだ。雨歌を取ろうとするな」
うーん、どっちもどっちなんだけど、ここで何かを言うとまた悪化するから何も言わないのが正解かな。
あと、まだどっちのものでもないからね。勘違いしないで欲しいなあ。
まだ仲良くしないので有ればアレを言おう。
「仲良く出来ないから僕は二人の友達をやめます」
小学生まで効いていた言葉なので仲良くするだろう。二人は僕に嫌われるのは嫌みたいだからね。
伊月は言葉を聞いた瞬間に一瞬だけ固まって、何かを考えている。緋華先輩は僕の隣に移動をしていた。
いつの間に移動をしたかを聞きたいけど、雰囲気が変わっている気がするから聞かないほうがいいかな。
「雨歌くん、私は……婚約者だよね?」
「はい、そうです」
「友達や恋人よりもランクは上だよね?」
友達で婚約者ではないのですかね。そもそも、恋人になった覚えが無いんですが……と言えたらどれだけいいことか。
両方とも告白をしていないのでまだ、友達以上恋人未満だとは思うんだけどもここで言ったしても即告白してくるだろうから意味がないから。
「伊月はどう思う?」
「お前らって付き合ってないだろ。そもそも告白した、されたなんて聞いたことがないからな」
伊月は表情をくしているが僕にはわかる。いくらポーカーフェスをしてようが幼馴染の僕は騙されないぞ。緋華先輩は伊月の方を見てから僕の方に向き直る。
「付き合ってないの・・・」
「まあ付き合いはしてないですね」
緋華先輩はショックを受け固まっていて、伊月は笑いを堪えていてプルプルと震えていた。注文していたものができて持って来てくれた男性の店員さんがどうすればいいか分からず戸惑っている。
緋華先輩を席に戻して店員さんに謝罪をして商品を置いてもらった。伊月はまだ笑うのを堪えているので脛を蹴る。
痛がりながら睨んでくる伊月は無視しながらに自分のパフェをスプーンですくい緋華先輩の口元まで持っていく。恋人同士がするような食べさせ合い……あーんを緋華先輩にする。
ショックを受けている時にこうすればすぐに回復して食らいつく。
「・・・緋華、なんで付き合ってるなんて妄想をしてるんだよ」
「妄想じゃない」
待って婚約はしていても付き合ってないって思っていた僕ってクズじゃないの? 重婚は可能ではあるけど、緋華先輩は許しはしなさそう。
「婚約してるのに他の人と付き合うのはダメだから」
「付き合う気はないですよ」
「それならよかった。私と付き合ってるから浮気をしたら」
これ以上先を言わないのが怖い。浮気をする気はないので何もされはしないと思うけど、緋華先輩がどういうのを浮気判定するかがわからない。
「それよりもなんで婚約出来たんだよ。お前ら」
「なんでだろ?」
「私の説得があったから」
なるほど、それで婚約が成立したのか。説得しただけで婚約出来るんだったらストーカーにならないでくださいよ。
緋華先輩は何を考えているかがわからない時があるから怖いんだよね。
「伊月も私と婚約しなくていいのがわかってよかったでしょ」
「それは確かにそう……だが」
何か嫌なことでもあったのかな。二人を見ながらパフェを食べて、そんなことを考えていると伊月が緋華先輩に何かを言われて顔を赤くしていた。
気になったので何を言ったかを緋華先輩に聞いたら伊月から何も言うなと言われていた。
仲間はずれにされたことに拗ねながらパフェを黙々と食べ進めていると緋華先輩がびっくりすることを口に出した。
「雨歌くんは、和式と洋式どっちがいい?」
和式か洋式ってことは結婚式のことだよね。なんで今の? 取り敢えず、伊月に助けを求める。
僕が助けを求めていることを理解したようで緋華先輩に見えないように親指を立てた。
「まだ、決めるのは早いだろ」
「早めに決めておいた方が逃げれなくなるでしょ」
「助けてやろうか?」
助けてくれるのは嬉しいけど、緋華先輩に聴こえる声の大きさで言わなくてもいいと思うけど。待って……助けてやろうかとか言って困らせたいだけではないのか。
伊月はこういう時は困らせようとすることが多いから疑わなきゃいけない。
「今回は真面目に言ってるからな」
「じゃあ助けて」
任せろと伊月は言って緋華先輩を説得を試みてくれているので僕はパフェを平らげることにする。意識をパフェだけに集中させるので数分間は何も聞こえないし、何が起こっているかも分からない。
食べ終わって二人の方を見ると伊月は無表情になっていて、緋華先輩は顔を隠していた。
「何があったの」
何かあったであろう状況だったので聞いてみるが何もないと言われた。絶対に何かあったやん。何もないって見え見えな嘘をつくなんて……視界に入ってしまった緋華先輩の食べていたケーキを見る。
ケーキがあまり減っていないのと緋華先輩はフォークを持ったまま顔を隠している。
「僕が何かを緋華先輩にやった?」
顔を隠す行動自体あまりしないし、そういうことをするときは僕が何かをした時だけなので不安になる。伊月は呆れた様子で照れているだけだから気にするなと言ってきた。
伊月に言われた通りに気にせずにいることにした。
(雨歌にバラすなよ)
(何を?)
(先生に言われたことをだよ)
お二人さん、聞こえてるからね。何を秘密にしているかは聞かないけども僕が近くにいることを忘れないでほしいな。
頭の良い二人がたまに抜けているときがあるのは見ていて面白い時があるので放っておく事にしている。
二人が僕に何かを隠しているとしても何も聞こえないふりをしたり、何も気づいてないふりをしているけど、正直言って気になる。
・・・先生ってショケイ先生だよね。何を言われたかを知りたいから緋華先輩に聞けば教えてくれそうではある。
「雨歌くん、私のことは呼び捨てでいいからね」
「先輩呼びでお願いします」
「伊月のことは呼び捨てなのに? それに私は婚約者だよ?」
「・・・緋華さん」
呼び捨てはまだ心の準備が出来ていないからさん付けで許してもらおう。緋華さんは少し納得していない様子ではあるけど、何も言ってこない。
先輩呼びよりはまだよかったらしいからホッとした。
携帯を取り出しメッセージアプリを起動させ、緋華さんに連絡を入れる。内容は二人きりのときは緋華呼びにできるようになるので我慢してくださいと連絡を入れた。
緋華さんは僕からきたメッセージを見て悶えている。
「もう帰るか?」
緋華さんを見ながら呆れたように言ってきた。伊月からしたら、親友と姉に近い人がイチャイチャ? しているのは見るに耐えないのかな。
「緋華さんが食べ終わったら、帰ろう」
「分かった。今すぐにでも食い終わらせる」
伊月は無理矢理ケーキを自分の口に入れようとしてそれを止めようとする緋華さんを見ながら、こうして三人でいるのは久しぶりだから嬉しくてニコニコしているのが自分でも分かる。
ジッと見ていると何か言われるので外を眺める。
今日知り合った、古村くんが彼女らしき人と腕を組んで歩いているのが見えたが何も不思議なことではないので他のところに目線をやろうとしたがもう1度、古村くんの所を見る。
教室に居た時にくっついていた女生徒ではないことに気が付いてしまった。
顔立ちがいいのでモテるのかと勝手に決めつけて目をそらす。あまり見過ぎるとこちらに気が付く可能性があるのでできるだけ見ないのがいい。何かをしてくるかもしれないからね。
僕だけになら被害があっていいけど、二人に被害が行くようなら手段を選ばずに潰そう。
「おら、帰るぞ」
「食べ終わったんだね」
会計を済ませようとリュックを探すけど見つからない。お金が払えないのでオドオドして伊月の方をみるとリュックを持って立っていた。
何食わぬ顔でこちらを見ていたのがイラついたのでお腹を殴った。
「イテッ」
「会計しにいくよ」
リュックを奪い取り、レジに向かう。緋華さんが先に行っているみたいだから早めに行かなきゃ奢られる。いや……貢がれると言ったほうが正しい。
奢られたりすることに対しては別にいいと思っているんだけど、緋華さんの場合はなんでもかんでも奢ろうとしてくるので止めなきゃいけない。
「緋華さん、自分の分は自分で払います」
「それがねもう会計は済んでいるみたいなんだよね」
「みたい?」
店長さんに支払いは完了していると言われたらしく、事情を聞いていた最中だったらしい。
電話があった時から常連さんたちは入学祝いで奢る気でいたみたいだったのでありがたいと思ったので皆さんにお礼をいい頭を下げた。
常連さん達は何やら話しているけど、何を言っているかは聞こえない。ここの人たちって凄く優しくて助けられていたから何か手助け出来ることないかな。
何かあればいいんだけど、僕に出来ることなんて限られているから。
「何も気にしなくていいからね」
「ですが……」
「それなら、ここにまた通ってくれない? みんな寂しそうにしてたから」
「絶対に来ます」
返事した後に厨房から、ムキムキで高身長な男性が出てきた。この喫茶店の料理長? であるノリさんが小さな箱を持ってこちらに手渡してきた。
店長さんの方を1度見て、受け取ってあげてと言われたので受け取った。
箱は結構軽く、中に何が入っているかが全く予想が出来ない。ノリさんの方を見ると険しい表情で僕を見ているので開けていいのかが分からない。伊月と緋華さんにどうしたらいいのかを聞こうと思い探すが見当たらない。
外にいつの間に出ていたんだろうか。
「家に帰って開けた方がいいんじゃないの?」
「ここで開けてもいいですか」
「是非とも開けてくれ」
ノリさんがそういうならばと思い、開けようとしたけど、開けるのが凄くもったいないような気がして少しだけ悩んだ。開けないのは申し訳ないから開ける。
開けるとプレゼント用の袋が入っていた。
袋を開けると懐かしい包丁と料理本が入っていた。これは僕がここに通い始めた時に使わせてもらっていた物で、使えなくなったので捨てられていたと思っていた。
懐かしすぎて涙がこぼれそうになった。
「なんでこれが」
「私の知り合いがね、直してくれたんだよ」
入学祝いとしてはどうかと思うけどと言いながら笑っている店長さんとその隣で微笑んでいるノリさんを見て、抱き着きたくなった。
プレゼントをリュックの中に入れ、二人に抱き着いた。
嬉しすぎて抱き着いたけど、大丈夫かな。慌てて離れると店長さんは抱き返してきてノリさんは頭をなでてきた。
伊月が呼びに来るまでそのまま、抱き着かれながら頭を撫でられ続けた。