3話 入学3
➖教室➖
ショケイ先生は説教を終えた後に騒いでいた教室内を落ち着けさせてHRをすぐに終わらせてみんなを帰らせた。その後に伊月と緋華先輩を連れて行った。
「帰らないのか?」
「伊月と緋華先輩を待っているんです」
「そうか。また明日な」
僕は返事をして狗谷くんは帰り、僕は教室で一人で二人を待っているので暇になってしまった。時間は11時前なので少しお昼ご飯までには余裕がある。
何をして暇つぶしをしようかと考えていたら、教室に誰かが入ってきた。
「やっぱり帰ってなかったんだね」
古村くんが教室に何故か戻ってきて僕の隣の席に座った。伊月に警戒をしておけと言われているので少し警戒はするけど、悪い人にはどうしても見えないんだよね。
「君と仲良くなりたいって思っていたから残っていてよかった」
伊月が居たから話すことが無理だったとはいえ、その為だけに戻ってくるのはおかしいから僕を利用して何かをしようとしているかなんだけど、何がしたいんだろう。僕には何も無いわけだし、転生者じゃないからな僕は。
何が目的かは知らないけど、探りを入れてみようかな。僕がしゃべるのを待ってくれているみたいだし、何かを言わなきゃ。そういえば
「古村くんって転生者ですか?」
「・・・」
ヤバイことを聞いてしまった。これで殺人などをしたことが転生者だったら僕は殺される。学校では流石に出来ないだろうから、学校外でしかも一人でいる所を狙う筈なので今は大丈夫かな。
古村くんは突然の質問だったから困っているような表情をしている。
「そうだよ。よく分かったね」
「演技なんですね、騙されました」
正直に答え過ぎて怖いから変なことを言っちゃた。古村くんはゆっくりと口角を上げて不気味な笑みを浮かべながらこういう。
「君も転生者なんだろう。君は何を願った?」
願うとは何ぞや。それよりも僕が転生者だと思っているのか、この人は。僕の記憶が正しければまだ1回目なんだけどな人生は。
考えながら頭を傾げてみると、古村くんは席を立ちドアの方へ歩いていく。
去り際に、教えてくれなくてもいいけど仲良くはしようねと言って帰って行った。僕は転生者じゃないってことを言いそびれてたと思いドアを眺める。
「何か悩み事でもあるんですか?」
後ろから声が聞こえてきたので振り返ると水原先生が居た。初日なのに悩み事があるかを聞いてきてくれる先生なんているんだね。小中と僕に出来るだけ関わらないようにしようとする先生が多かったから少し心配してくれるのが嬉しい。
それはそうと悩み事はないけど、心配してくれているので何かを相談しなきゃいけないからな。気持ちには出来るだけ応えたいから。
「転生者って何ですか」
「悩み事になっているかは分からないですが、教えておきますね」
水原先生は黒板まで移動して転生者とは何かを丁寧に教えてくれ始めた。この世界での転生はカミサマと言うものが異世界で亡くなった人をこの世界に呼び、前世の記憶を持ったまま別の体で今を生きている人と言われた。
古村くんが言っていた“願い”とは何かを知りたいけど知らないよね。聞いてみるだけ聞こう。
「“願い”とは何ですか?」
「何故それを知っているのかは聞かないでおきます」
普通なら知らない情報なので他の人には聞かない方がいいと言われた。“願い”とはこの世界に転生することを承諾した人だけに与えられるプレゼントのことらしい。
何を望んだかはカミサマとその転生者だけが知っていることなので何を持っているかまでは分からない。
“願い”はカミサマからのプレゼントなのか。貰える量には人それぞれだとしたら、複数持って転生をしてくる人がいる訳でめちゃくちゃになるんじゃないのかな。
「一般的に一人が貰える量は二つまでとされているようなのでご安心を」
顔に出ていたみたいで水原先生に安心させられるようなことを言われたが、それは一般的な人の場合であって例外はあるってことだよね。
例えば、カミサマが気に入った人が居れば贔屓にして多めに与えるとかは出来る訳だから転生者の危険度は分からないのかな。
それよりも水原先生はなんでそこまでのことを知っているのかは分からないけど、おそらくは担当教科とかなんだろう。
「雨歌、終わったから帰るぞ?」
「終わったんだ」
「疲れたから早く帰るぞ」
水原先生にお礼を言って教室から出た。緋華先輩は校門で待っているらしいから丁度いいので古村くんが転生者と言うことを伊月に伝えた。
伊月は驚いた様子はなく、まあ予想通りだなと言って流した。普通は驚くでしょうが、周りに転生者なんていないんだから。
伊月はそんなことよりも僕が何か質問されたかが気になるみたいなので、階段を降りる時に転生者だと思われていることを伝えた。
「お前が転生者? 絶対にあり得ないだろ」
「笑うなよ」
「面白かった。お前が転生者じゃないことは俺が分かってるから安心しろ」
「それもそっか」
面白がっていたのは腹立つけども、僕のことを信用してくれているのが凄く嬉しかった。絶対にこんなこと声に出したりはしないけど。
「話変わるけどさ、学校は楽しみか?」
「楽しみに決まってるじゃん」
友達もまだ一人だけど出来たことだし、行事もあるから今から凄く楽しみなんだよね。仲良く出来そうな人が何人かいたから友達を作るぞ。
古村くんは仲良くなれるかは分からないけど。
校門までは何が楽しみだとか、勉強のことなどを話しながら向かった。
➖校門➖
校門に着くなり緋華先輩に抱きつかれた。抜け出そうとしてもがいてみるが力差がありすぎて諦めた。
伊月に助けを求めるが無視して学校を出て行った。
いつもなら緋華先輩が抱きついてきた瞬間に助けてくれるのになんで今日だけ何もしてくれないんだよ。助けてくれてもよかったじゃん。
「私と会えてない間何もなかった?」
何かあったらここにいませんよと言ったら悲しむだろうから言えないし、何もなかったとも言えないんだよね。
実を言うと凄く寂しかった。ストーカー行為以外で、遊びに行ったりしていたから急にしなくなったものだから。
「なんで黙るの? やましいことでもしてたの?」
抱きしめる力が強くなった。力が強いので痛い。
「そんなことは断じてしていないです」
「ならなんで」
寂しかったことを正直に答える。答えないと抱きしめている力を弱めてくれないと思ったからなのではあるけど、恥ずかし過ぎる。
抱きしめる力が弱くはなったが、左手で顔を上げれないようにされている。
「なんで頭を押さえているんですか」
「顔を見られるのが恥ずかしいから」
照れているので顔を見られたくないと……えっ? 見た過ぎるんだけど、見たら怒られるよね。
・・・冷静になろう。ここは校門で学校内、入学式での片付けが終わったであろう生徒が帰宅する時間にはなっている。
こちらをチラ見したりガン見して盛り上がっている生徒が多く居て、段々と数を増やしていく。
見せものではないと言いたいけど、見せもの状態になってしまっているので何も出来ないし言えない。
(帰りませんか)
小声で話してみるがなんの反応もない。せめて移動出来たらと考え、周りを見渡すが他生徒が群がって邪魔でどこにも行けない状態だった。
(移動しようか)
緋華先輩の言葉が聞こえたので顔を見ようと上を見上げた瞬間に人混みを一瞬で飛び越えて、僕を抱きしめているまま走って中庭に連れて行かれた。
離してもらいそのまま隣同士に座って少し話すことになった。
➖中庭➖
「凄く目立っていたね」
「そうですね。見るからに不釣り合いな二」
「そんなことは言わない」
言葉を遮られてしまった。緋華先輩は話を続けることにしたみたいで、ある事件のことを話し始めた。
「小学四年生の時に、誘拐事件あったでしょ」
「ありましたね。あのまま誰も来なかったら焼け死んでいました」
懐かしく感じる。小学四年生の時に伊月と一緒に下校していた時、当時の父親が帰り道に居てそのまま伊月と別れてしまった。
父親は外面は良く伊月も信用してしまったのが最悪だったが別に責めたりはしない。
父親に家とは別の所に連れていかれて知らない人達に渡された。渡される際に抵抗したが相手は大人で数は多いから抵抗もむなしく眠らされた。
起きた時には山奥にある廃墟に手足を縛られて、周りは火の壁になっていた為、脱出は無理だと諦めていた。
伊月と緋華先輩が警察や消防隊を呼んで来てくれたので助かりはしたが少し火傷してしまったことに二人は凄く落ち込んでいた。
それ以来、伊月は周りを警戒するようになり緋華先輩はストーカーに……元からストーカー気質ではあったのでそれは気にしないでおこう。
「こんなことを言うのはあれだけど、私はあの男を出来るだけ苦しめてから殺したかった」
「伊月も同じことを言ってました」
二人は相当憎んでいるみたいで呪いをかけてやると言っていたので止めるのが大変だった。二人の怒りが届いたのか、事件の数日後に火事で亡くなった。
火事で血が繋がった父を亡くして僕はなんとも言えない感情になったのは今でも思い出せるくらいには覚えている。産みの母は泣き叫び、混乱しまったらしく交通事故になった。
母は生きているので血の繋がった親を失ったわけではないから僕はまだマシな方なのだろう。
「だからさ、君と私が不釣り合いって言うならそれは私が君に釣り合ってない」
僕を危険な目に合わせたからと緋華先輩は続けて言うがそれは僕の親がやったことで緋華先輩が行ったことではないと言えたらいいんだけど。僕がその立場なら絶対に緋華先輩と同じことを言うと思ったから何も言えずにいた。
それに本当は伊月と緋華先輩が婚約する筈で、そこに僕という異物が出てきた為に変わってしまったことに罪悪感が少しある。
二人とご両親は気にしなくていいと言ってくれてはいるが、緋華先輩の父親は内心ではよく思っていない。
「ねえ聞いてるの?」
「考え事をしていて聞いてませんでした」
「私が惚れて君と一緒になりたいから釣り合う、釣り合わないはなしね」
緋華先輩に言われたので頷きはするが、この人の隣に立てるほどの人間ではないと感じてしまう。
「ごめんね、嫌なことを思い出させて」
座っている状態で緋華先輩に頭を胸の所に押し付けられて頭を撫でられた。恥ずかしさで死んでしまいそうなので全力で逃げようとするも、ダーメと言われて抱きしめられた。
「恥ずかしいだろうけど、ちゃんとケアしないと」
あの時のことを思い出してしまった為、落ち込んでいると思われているのだろうか。
少なからずトラウマにはなっているが、落ち込んでもいないからこんなことをしないでいいと思っているけど、甘えてしまいそうになる。
「おい、俺を放ったらかしでイチャイチャしてるとはな」
待たされていた伊月が中庭までやって来た。伊月はなんでここに僕たちがいることが分かったんだろう。僕の顔を見て伊月が答えてくれた。
「お前らの特徴を言ってどこに行ったかを聞いて回ったんだよ」
なるほど、それでここが分かったのか。そういえば、お昼どうするか聞いてなかったから連絡を入れよう。携帯を取り出し父さんに連絡を入れようとしたところで伊月が自分の携帯を見せてきた。
書かれている内容は、お昼は友達と食べて来て晩御飯はみんなで食べましょうという内容だった。
母さん、なんで息子の僕では友達の伊月に送っているの。そこは僕に送ってきてくれてもいいじゃんか。少しだけ拗ねていると伊月が今朝言っていた喫茶店に連れて行ってくれるそうなので、凄く喜んだ。
「雨歌、連絡だけ入れといてくれないか」
「いいよ」
「緋華と話したいことがあるから離れた所で頼む」
返事をして出来るだけ離れた所で電話を掛ける。電話を出てくれたのは女性で元気が良い人だった。知っている人なので予約はスムーズに取れそうだと思っていた。
「三人で予約を取りたいんですが」
『この声は雨歌くんだね』
「はい、そうです。軽く何かを食べたいので三人予約をお願いしても大丈夫ですか」
『いいわよ。今から移動してくるんでしょう? 学校からだと30分かそこら辺よね』
おそらく母さんが今日入学式だと言うことを伝えていたのだろう。僕は久しぶりに行くけど、二人はどうなんだろう?
『アンタら仕事に戻りなさい。雨歌くんから電話が来るのが久しぶりだからって盛り上がらない』
中3になってからは行ってなかったから楽しみではあるけど、店側が盛り上がるのはどうなのかと思うかな。知っている声が多いから店員さんも常連さんも結構いるからその分盛り上がっちゃってるんだね。
『新作のイチゴづくしパフェ食べる?』
「食べます。残りの二人は伊月と緋華先輩なんで」
『了解しました。お待ちしておりまーす』
お昼時に電話をしてしまって申し訳なかったな。そういえば、この時間が一番忙しいもんね。
時間帯を考えて連絡を入れてすればよかったから着いたら謝ろう。
伊月と緋華先輩を呼んで行こう