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22話 運がない? 1

➖自宅(部屋)➖

 さてと……手伝ってくれた人がいたから部屋の片づけは終わったけど。その手伝ってくれた人がこれまた厄介な人でどうしてものかな。今日は午前中だけになったそうなので全力疾走で来たとのことです。助かりはしたんだけどもなんで今僕は正座させられてるのかな。僕は何も悪いことはしていないし隠し事は……しているけど何もやましいことはしていないよ。


「雨歌くん……今日何があったかを教えて」

「何もなかったです」

「じゃあなんであんなにも部屋が散らかってたの」


 これ絶対にバレるやつだ。部屋を片づけおけばよかったと今後悔しているし、言い逃れを絶対に許さない人が目の前にいるんだもん。しかも僕の嘘を簡単に見抜いてしまう人なので何を言っても嘘だとバレるからどうしたものか。正直に喋ったらいいんだけどさ、紫音さんを巻き込むことになるじゃん。それはいやだなぁと思っていたけど別にあの人なら巻き込んでいっか。


「昨日の件で色々モノを漁ってました」

「なるほどね。だから古いアルバムがあったのね」

「あと、紫音さん貰ったものです」

「・・・」


 僕が緋華さんに写真を渡したところ、なんでこれがここに……って顔をしながら固まってしまった。もしかしてこれってこのまま話をうやむやに出来るのでは? そうなれば僕は助かって紫音さんは怒られる。今度何か持って謝罪しておこう。僕の代わりになってくれればだけど。


 固まっていた緋華さんが再起動してから「絶対にうやむやにはさせないから」と言ってきたので逃げることはできないと分かった僕は素直に全部喋った。話していたら一瞬だけ顔をしかめたけどすぐにいつも通りになっていた。ちょうど母さんのチャーハンのところだったのであの時の衝撃を思い出したのだろう。


「と言うことがありました」

「他には?」

「何もないですよ」


 本当に何もなかったんだけど、緋華さんは疑っているような目を向けながら何かをブツブツと言っている。疑うことはないとは思うんだけどなぁ。まあ嘘を付いてはいなかったけど、うやむやにしようとはしていたから疑われても仕方ないのかな。・・・伊月達が来るまでには時間があるから今から緋華さんに帰ってもらっておいて何か言い訳を考えておこう。


 今日あったことを伊月にも話したら絶対に怒られるだろうからそれだけは避けないといけないんだけどなんて言っておかえりいただいたらいいんでしょうか。帰ってくださいって言ったら帰ってくれるような人ではないし、適当に理由を付けてもここに残ると思うからなぁ。本当にどうしたもんかな。


「雨歌くんは……その……」


 考え事をしていたら緋華さんが何かを言いかけていることに気が付いた。さっきからブツブツと何かを言っていたのと関係があるのかな? と思い緋華さんの言葉を待つ。モジモジと手遊びをしながら言葉の続きを言いかけてはやめを繰り返している。何か言いにくいことなのかと一瞬考えたけどそんなことを気にするような人ではないか。

ズバッと言って相手を泣かすような人だしな。


 僕から聞いた方がいいの? こういう時ってどうするのが正解かは全く分からないよね。僕が悩んでいると言う準備が出来たであろう緋華さんが口を開き言ったことに少しだけ固まって笑ってしまった。その際に緋華さんは拗ねてしまった。


「いやぁ~緋華さんでも答えが気になるんですね」

「なる。今後のこともあるし」


 緋華さんが聞きたかったことは禍神に「重婚には興味はない?」と言われた時の答えが知りたかったみたいだった。そういえばどう答えたかは言っていなかったので緋華さんに僕が答えたことを言う。ちゃんとした理由を含めて喋った。緋華さんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。


「雨歌くんって結構モテるよ」

「何を言っているんですか」

「いや……その気になればハーレムだって夢ではないよ」

「緋華さんだけで結構です」


 僕の言葉を聞いて安堵した緋華さんは「そっか。気が変わったら教えてね」と言った後に小声で監禁するからと言ったのを僕は聞き逃さなかった。その言葉に反応するのが怖かったのでスルーして何か話を逸らせないかを考える。なんで学校が午前中で終わったのかを聞こう。


「それは昨日のことでだよ」

「休みにはならないんですね」

「うん。まあ君が休みになった訳だしね」


 僕が貧血で倒れずに学校に行くことになっていたら休みになっていたかもしれなかったらしい。禍神は僕が狙いだったって分かっていたので僕が登校するなら先生や伊月達と一緒に過ごさないといけなかっただろうから結果的には良かったのかな?

緋華さんは僕の前に座りながら「少しだけごめんね」と言って僕の両耳を塞いだ。


 何をするのかと少しだけ身構えたが何もせずにただ何を言い続けている。僕は読唇術はないが何を言っているのかが分かる気がする。緋華さんを見ながら僕は終わるのを待っていると視界に少しだけ写っているドアが開くのが見えた。緋華さんはそれに気づいていない様子なので伝えようとしたら部屋に入って来た影に緋華さんの頭が叩かれた。緋華さんは勢いよく後ろに振り向いて、


「伊月来たんだ」

「来たんだじゃあねぇ。何呪文を唱えていやがる」

「私は愛を囁いていただけ」

「呪いと書いて愛って読むんだろ」


 伊月に叩かれた拍子に僕の耳を塞いでいた緋華さんの手が離れて会話が聞こえる。朝も言い合いをしていたって母さんから聞いてまたかと思ったけど、よくも飽きないよね。まぁお互いに心を許し合っている仲だから出来ることだろう。僕も混ざりたいなぁと思ってしまう。


 二人して僕の視線に気づいたのか急にこっちを見て微笑んできた。なんでタイミングが一緒なの? 仲良しかよ。とりあえず二人にデコピンをしてリビングに行こうかと提案をすると緋華さんは「照れ隠しにデコピンをしてくるよね」と言って伊月は「そうだな。まあ可愛らしいところだろ」とか言う会話を始めやがったので部屋に置いて行きリビングに一人向かう。


自宅リビング

 リビングに降りると狗谷くんと佐藤さん、妖狐さんに部長さんがいた。母さんがもてなしてくれていたみたいだった。まずは心配を掛けたことへの謝罪とお見舞いに来てくれたことへの感謝を伝えた。狗谷くんと佐藤さんは気にしないでと言ってくれて、妖狐さんは大丈夫そうで安心したと言ってくれた。部長さんは無言だけど来てくれたってことは少なからず心配してくれていると思っておこう。


「そういえば津堂は?」

「僕の部屋で緋華さんとイチャ付いてるよ」

「お前の婚約者と……修羅場なのか」


 修羅場ではないかな? 別に恋愛感情がない者同士のイチャイチャだし、幼馴染ですし何も問題はないから。・・・なんか僕が拗ねているみたいになっているような気がするから考えるのはやめよう。そんなことを考えるくらいならみんなから学校の話を聞いた方がいいだろう。


 緋華さんと伊月がリビングに降りてきたのは僕が降りてから10分後くらいで、伊月は狗谷くんから質問攻めに合っていた。緋華さんは妖狐さんと佐藤さん、部長さんと一緒に恋バナを始めた。僕はソファーからテーブルに移り、みんなを眺めることにした。


「いい子達ね」

「うん」

「母さんは少しだけ移動するからね」


 母さんは僕の返事を聞いてから移動を始めて部屋を出て行った。僕の頭を軽く撫でてから出て行った。流石に恥ずかしいのでやめて欲しいがあまり母さんのことを邪険には出来ないので拒絶はしない。頭を撫でられるのを見られていたんだろうか? みんなが席を立つたびに僕の頭を優しく少しだけ撫でる。いやなんで撫でるの?


 会話と僕の頭を撫でるということをしていたら三時間ぐらいは経ったのでお開きになった。僕は緋華さんと一緒にみんなを見送る為に玄関まで行った。伊月はやることがあるから帰るみたいだけど緋華さんは今日は泊まっていくらしい。母さんと両親には許可を取ってあるそうなので僕は何も言わない。


「それじゃあみんなまた明日」


 僕に返事を返してから帰って行った。僕は静かになった玄関を見ながら少しだけ寂しがっていた。それを感じ取ったのか緋華さんが頭を撫でてきた。緋華さんに頭を撫でてもらっていると玄関がガチャリと開き碧兄さんと梨奈姉さんと鉢合わせた。


「なんで俺はお前らのこういうところに遭遇するわけ? 俺って運がないのか?」

「あ~なんかごめんね」


 僕と緋華さんは顔を真っ赤にしながら二人に謝ってから部屋に逃げるように行き、入ったらお互いに顔を見て笑った。緋華さんは「恥ずかしかったね」と言ってきたので僕は「そうですね」と言った。恥ずかしかったけどたまにはこういうのもいいなと思ったのは内緒である。最近はバタバタとしていることは多かったので何気ないことで笑えるのは嬉しい。

あと碧兄さん……ごめん。


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