21話 紫色の……チャーハン?
➖自宅➖
神様が部屋から出て行った後、何か思い出せないかとアルバムを探すも小学5年生からのしかなくて手掛かりがなかった。そもそも前の家では僕の写真がほとんどなかったし、火事が起きた時に燃えてるだろうから手元にはない。伊月が小学4年生以下のアルバム持っている筈だから今度見せてもらおう。そういえば時間は……まだ11時半になったばっかりか。お昼はどうしようかな?
そんなことを考えていたら、インターホンが鳴った。今は僕しかいないので出来るだけ早く受話器があるリビングまで向かった。宅配でも頼んでいたのかなと思いながら受話器のモニターを付けると……シスコン野郎の姿があったのでこのまま無視してやろうかと思い電源を切った。切った後、少しだけソファーで休んでから部屋に戻ろうと腰を掛けた瞬間、玄関からガチャリと鍵の開く音がした。
最悪のタイミングで母さんが帰って来たのかと思ったがシスコン野郎こと紫音さんがリビングまで入って来た。ソファーに座っている僕と入って来た紫音さんの目と目がバッチリと合った。左手には何やらビニール袋を持っていた。ドアノブから右手を放しビニールの中を漁ってお目当てのモノを手に取り僕に向かって投げてきた。
「入って来ていきなり何を投げて来てんだよ」
「お前、一回出たのに何故消したぁ!!」
「アンタだったからに決まってんだろ」
「お前の兄になる男だぞ」
「一応な!!」
投げられたのは綺麗な包帯だったので痛くはなかったけど、イラっと来たのでソファーにあるクッションを紫音さんに向けて思いっきり投げつけてやった。顔面に当たった紫音さんは「お前相当元気だな」と言ってクッションを投げ返してきた。今度は避けたので当たらずに済んだ。ってかなんで来たんだよこの人は。僕のお見舞いなんてするようなタイプではないだろうに。
僕と紫音さんの仲はそこまでよくないのでお見舞いに来なくて何も言われないと思うし、言わないから来なくても良かったんだよ。本当になんで来たのさ? 僕を心配してくれて来たのなら感謝するけどさ。絶対にこの人は何か特別な理由があって来たんだ。
「・・・怪我の具合は?」
「まだ少し痛いくらいです」
「緋華から連絡があってな」
呼び方を元に戻してることに驚いていると「妹の将来の為に来てやったんだ。感謝しろ」と言ってきやがった。「別にアンタには来てほしいとは思ってないですし、来ないようにアンタに直接言うわ」と少し大声で言ったら「緋華が学校を抜け出すとか言っていたんだぞ」と大きめな声で言われた。確かにそれは嫌でも代わりにくるわなと思った。僕が同じ立場でもそうするしな。
「まあなんだ。災難だったな」
「そうですね。紅茶でも飲みますか?」
「もらおうかな。これ眩寺さんからの」
持っていたビニール袋は父さんから預かったものでらしいのでとりあえずは中身を確認して冷やさないといけないものは冷蔵庫にしまい、そのまま僕はキッチンで紅茶の準備をする。コーヒーを入れたり、お茶を入れたりするのは好きな方なので、自分で作ったお菓子を食べながら飲んだりする。みんなにも結構好評なのでたまに入れて出したりする。
紫音さんは久しぶりに僕の入れた紅茶を飲むな。コーヒーよりも紅茶派らしいので紫音さんが飲む際は紅茶を出すようにしている。嫌いな人だろうが楽しんでもらいたいものはもらいたいのでこれで嫌がらせは絶対にしない。・・・お菓子にはたまにイタズラはするけど。
「はいどうぞ」
「あそこでバイトしないのか?」
「したいけど、みんなから反対されているんだよね」
「今回のこともあるからな」
紅茶と一緒に茶請けとしてクッキーを出しておく。紫音さんは出されるものに関しては一切文句は言わずに食べてくれるのでこちらとしては素直に嬉しい。ついでに感想も言ってくれるので意外とこの人のおかげで腕を上げているのでは? と思っている。伊月は「うまいけど、違いがわからん」って言ってくるし緋華さんに関しては「君の体の一部を一緒に入れて」と言うのでこの二人に感想は聞かないことにしている。
紫音さんから珍しく相談ごとがあるらしく話だけを聞こうと思ったけど緋華さんのことだったのでやっぱり断らせてもらった。単純にその内容が怖くて聞けないだけで相談自体を聞きたくないという訳ではない。紫音さんは「やっぱりなぁ」と言いながら紅茶を一気に飲み干した。
「ごちそうさん」
「もう行くんですか」
「仕事が残っているしな。忘れる前にほらコレ」
紫音さんが1枚の写真を渡してきた。それに写っていたのは幼い頃の僕と同じくらいの女の子だった。明らかに盗撮であろう写真に僕は若干引いていたが紫音さんが撮ったものではないらしい。こんなことをするのは一人しかいないよ。一体、緋華さんはいつから僕のストーカーをしていたのかを聞かなきゃいけないかもしれない。今はなんでこんなのを渡してきたかが不思議だ。
「その子って昨日お前と二人で一緒に帰っていた子だろ」
「・・・似てますか」
「いや似てるだろ。偶々見つけてな」
それだけ言って急いで出て行った。昨日一緒に帰ったメンバーの中に居なかった筈の若緑髪の女の子が写っている写真を見ながらこの時の出来事を思い出そうとしてみる。保育園の頃にこんな子を見たような気がするんだよね。いつくらいかは思い出せそうにないけど、遠足で会った子だった筈なんだよね。
えっと、確かその子もみんなと逸れたって言ってたから一緒に探していたんだ。それで僕は合流できたけどその子はいつの間にか居なくなっていたんだった。しっかりと手を握っていたのに消えて先生にそのことを話しても信じてもらえなかった。2度目に会った時は伊月と仲良くなった時くらいで公園で遊ぶ約束をしていた時な筈。
待ち合わせしている公園の電柱の近くにしゃがんでいてびっくりしたことを思い出した。この写真はおそらくその後に撮られた物だと思うけど、どうなんだろう。記憶が正しいかは分からないから何とも言えないけど、その時の僕が持っていたバックとお気に入りの帽子を渡したんだっけ? 他にも何か入っていたとは思うけど、思い出せないからいっか。
玄関が開く音がしたの写真をポケットに隠した。
「ただいま」
「母さん、おかえり」
「どうしたの? ぐったりして」
「紫音さんと少しじゃれ合ったから疲れただけ」
母さんは少し呆れたように微笑んで「今からご飯作るからね」と言ったので僕も手伝おうとしたら全力で止められた。怪我人だから大人しくしておきなさいと軽く怒られた。昨日の神様に会ったとみんなに言う訳にはいかないから黙っておく必要があるかな。そういえば伊月から連絡があったからあとで見ておこうかな。
部屋にスマホを取りに行き連絡を確認をして返信を返してリビングに戻った。お見舞いに来るそうなのでバレないようにしないといけないかな。厄介なのが部長さんなので読まれないようにしなきゃいけないいのは難しいので寝ることにしよう。部屋に神様の匂いが残っていないかも確認しないといけないから少しやる事やってから寝ようかな。伊月は僕の部屋が少しでも変わったのに気づくから面倒だ。
「はいご飯」
「・・・チャーハンにしたんだ」
「食べやすいでしょ」
まあ確かに食べやすいけども……この紫の液体は何かなと毎度思ってしまう。最初に見た時はチャーハンだとは分からずに食べたがマズイ。母さんが作るチャーハンだけは本当にマズイので食べたくはないが我慢してチャーハンを食べる。紫音さんも流石にこれには「えっこれがチャーハン?」と言って口にしないでいた。
僕も食べたくないけど慣れたので少しマズイなぁと思うくらいになった。そのせいか母さんからはコレが好物だと思われてしまった。悲しませるよりは全然いいけど、好物ではないからね。好物は寿司だからね母さん。レシピ聞いて伊月に食べてもらおうっと。アイツだけ毎回逃げてるのはムカつくしな。
「みんな……チャーハン嫌いなのかな」
「母さん、一度お店のチャーハン食べに行こ」
そんなこと言われても何も言えないからさ、やめて欲しいんだけどもちゃんとしたチャーハンを食べてもらおう。うん、そうした方がいいかもしれない。傷ついてしまったら慰めれば良いわけだしね。父さんが。




